6話 エルフをいじめることにした
アインは姉妹を連れて街に出た。
適当な店に入り、店員に見繕ってもらい服と下着を買う。
それから理容室に入り、二人の髪を整えてもらう。
最後に化粧品店を訪ねた。
アインは化粧の知識なんてないので、再び店員を頼りにした。
「こいつらを磨いてやってほしい」
リアラもリリナもダイヤの原石のようなものだ。
二人を綺麗にできるかどうか、それは店員の腕にかかっている。
自分の腕を試されていると思った店員は、これ以上ないくらいに力を入れた。
店の採算は無視して、とにかく二人を綺麗にすることだけを考えた。
結果……
「こ、これは……」
「わぁ♪」
鏡の前に立つリアラとリリナは、己の姿を見て目を丸くした。
鏡に映るのは、どこかの令嬢のよう。
昨日までの自分とは大違いだ。
「なかなかいい感じじゃないか」
アインは満足して店を後にした。
二人は慌てて後を追いかける。
――――――――――
リアラとリリナの大変身が終わり……
それと同時に日が暮れた。
「えっと……」
リアラは気まずそうな顔をして、アインの家にいた。
ついつい流れてついてきてしまったが、もう契約は終わっている。
なにもされていないが、一晩という約束は過ぎたのだ。
なので、自由にして構わない。
ただ、行く宛がないのと……
それ以上に、色々なことをしてくれたアインにお礼を言いたいという気持ちがあった。
「すぅ、すぅ……くぅ……」
昼間、あちこちを歩き回ったからか、リリナは疲れて寝ていた。
まだ子供なので仕方ない。
それに、安心でもあった。
寝ている今ならば隠し事をすることなく、本音トークができる。
「あの……」
「なんだ? まだ飯はないぞ」
アインはリリナを布団に寝かせてきた。
それから夕飯を買いに行こうとしたが、そこをリアラに呼び止められる。
「ありがとうございました」
「なぜ礼を言う?」
「お風呂に入れてくれて、ごはんをいただき、寝る場所もいただいて……たくさんのことをしてくれました。だから、ありがとうございます」
「勘違いするな。俺はただ、いじめているだけだ」
「えっと……それでも、ありがとうございます」
リアラは、ようやくアインの性格を理解してきた。
アインは素直になれない不器用者なのだろう。
適当な理由をつけなければ手を差し伸べることができないくらい、ひねくれているのだろう。
そんなアインに助けてもらった。
リアラはとても感謝していた。
ただ、いつまでも助けてもらうわけにはいかない。
リアラはなにも持っていない。
だから、アインに恩を返すことはできないのだ。
「その……そろそろ出ていこうと思います」
「なに?」
「これ以上、迷惑をかけるわけにはいきませんから」
「そんなことは……」
「ただ、最後に……お礼をさせてください。その、えっと……私にはなにもありませんけど、でも、この体だけは自由にできるから……」
リアラはアインの近くに寄る。
「わ、私のことを……好きにしてください!」
リアラが赤くなった。
アインも赤くなった。
動揺が表に出てしまうほど、アインはうろたえていた。
確かに、最初はそのつもりだった。
二人の置かれている現状が気になり、あれこれとしたものの……
最終的には、リアラをおいしくいただくつもりだった。
しかし、アインはヘタレだった。
いざとなると、途端に緊張してしまう。
手に汗をかいてしまい、心臓がドクンドクンと跳ねる。
そうして緊張しながら、別のことを考える。
このままリアラを抱いていいのだろうか?
抱いたら最後、本当の『金だけの関係』になる。
アインが選択した道は……
「……金がほしいなら仕事をやる」
「え?」
「家事はできるか?」
「は、はい……一通りは」
「なら、ウチの家事を頼む。見ての通り、色々と手をつけていないからな」
「え? でも、それは……」
リアラが難しい顔になる。
「これ以上、お世話になるわけには……」
「俺がいいと言っているんだ。別に、施しをしているわけじゃない。金で雇うだけだ。ウィンウィンの関係だろう?」
「どうして、そこまでしてくれるんですか?」
「……人を助けるのに理由なんていらないだろう」
「え?」
「な、なんでもないっ!」
アインは真っ赤になって、明後日の方向を向いた。
意地でも顔を見せてやるか、というような感じだ。
そんなアインの横顔を見たリアラは……
「……ありがとうございます」
せめてもの対価として、優しい笑顔を見せた。
「勘違いするなよ。俺はまだまだ、お前たちをいじめたりないだけだ。だから、手放してやらない。それだけだからな!? 勘違いするんじゃないぞ!?」
こうして……
アインは、これからもエルフをいじめることにしたのだった。
おしまい。
これで終わりになります。
一発ネタのようなものにお付き合いいただき、ありがとうございます。