4話 それは布団ではない、ゴザだ
「はふう……リリナ、お腹いっぱい……もう食べられないよ」
「私も……」
二人は料理を全部平らげた。
いずれも100ミラ前後の安い料理なのに、涙を流しながら、喜んで食べていた。
普段はどんなものを食べていたのか?
アインは気になるが、追求は後回しにした。
二人はたくさん食べたことで、ちょっと腹が出ていた。
とはいえ、これは一時的なものだ。
消化していない食べものが腹に溜まっているだけで、そのうち元に戻る。
ただ、アインはうまく二人と太らせることができた、とニヤニヤしていた。
わりと単純な男である。
「さて、気がつけばいい時間だな」
時計を見ると、夜の22時を指していた。
アインは規則正しい生活を心がけているので、そろそろ寝ないといけない。
ただ、リアラはアインの言葉を別の意味に捉えたらしく、頬を染める。
「あのね……リリナ、今日は向こうの部屋で寝てくれる?」
「え? お姉ちゃん、一緒じゃないの……?」
「私は、これから、その……お仕事をしないといけないから。リリナと一緒に寝ることはできないの。ごめんね」
「そっか、お仕事か……それなら仕方ないね。寂しいけど、リリナ、我慢するよ」
「ありがとう、リリナ」
リアラは愛しい妹を抱きしめた。
リリナも姉を抱きしめた。
そんな二人に、アインは勘違いするなというように告げる。
「二人は俺と一緒に寝てもらうぞ」
「え?」
「バラバラにしたら逃げられるかもしれないからな。他の部屋に別々にするなんて、そんな面倒なことはしない」
「そ、そんな……おねがいします! 私は好きにしてかまいませんから、妹に手を出すようなことは……」
「うん? 手を出すわけがないだろう」
「え? そ、そうなのですか……?」
「当たり前だろう。俺はロリコンじゃないぞ」
確かにリリナはかわいいと思う。
文句のつけようのない美少女だ。
しかし、まだ幼い。
いくらなんでも、そういう対象として見ることはできない。
アインは紳士であった。
「それじゃあ、一緒に寝るという言葉は……?」
「そのままの意味だ。普通に寝るだけだ」
「えっと……私を買ったのでは?」
「買ったぞ。お前たち姉妹は、もう俺のものだ」
「では、この後は……」
「ふんっ、わかっていないようだな。買ったからといって、すぐに抱くような客が全てではない。いずれとは思うが、その前に、俺はお前たちをいじめてやりたいのだ。そういうプレイがあってもいいだろう」
「い、いじめる……ですか」
よからぬ想像をしたらしく、リアラは顔を青くして体を震わせた。
「そうだ。いじめていじめて、いじめ抜いてやるからな。覚悟しておけ」
「……は、はい。それでお金がもらえるのならば、構いません」
諦めたような感じで、リアラは力なく頷いた。
本当は、アインはリアラに手を出すような勇気はないのだけど……
そのことは、まだ気がついていないみたいだ。
「ただ、今日は色々あって疲れた。もう寝るぞ」
「わ、わかりました……」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん。結局、リリナはお姉ちゃんと一緒に寝ていいの? このお家で寝るの?」
「ええ、そうよ。一緒に寝ましょう」
別の部屋に寝かすよりは、一緒にいた方がいいだろうと判断したらしい。
リアラは笑顔を見せて、リリナにそう言った。
リリナは子供らしく素直に喜ぶ。
「わーい、やった! やっぱり、お姉ちゃんと一緒がいいな。あっ、でもでも、リリナは一人で寝られない子供っていうわけじゃないよ? 寝ようと思えば、一人でも寝れるからね?」
「ふふっ。そうね。リリナはもう大人だもんね」
「うん! リリナは大人なのです、えっへん」
胸を張る姿がどこか微笑ましい。
が、アインは笑うことなく、いそいそと布団の準備をしていた。
小さい部屋に布団を二つ並べる。
どちらもボロく、今までのアインの生活っぷりがうかがえる。
明日、布団を買いに行こう。
乗っただけで沈んでしまうような、超高級の羽毛布団を買おう。
そう決意するアインだった。
「お兄ちゃん、なにをしているの?」
「見ればわかるだろう? 寝る準備だ。布団を敷いているんだよ」
「え? これが布団なの?」
リリナの無邪気な言葉がアインの胸に突き刺さる。
確かにボロい布団だけど……
信じられないものを見るような目は、やめてくれないだろうか?
自分の方が立場が上なのに、一瞬、アインは懇願してしまいそうになった。
しかし、すぐにリリナの言葉の意味合いが違うことに気づく。
「お兄ちゃん、おかしなことを言うんだね。これは布団じゃないよ」
「なに? どういうことだ?」
「お布団っていうのは……あっ、あった! コレだよね」
リリナは、そこらに敷かれていたゴザを手にした。
「これがお布団だよ」
リリナは自信たっぷりに言った。
「……それは布団ではない、ゴザだ」
「ゴザ?」
「藁を編んだ敷物の一種で……まあ、説明はいいか。とにかく、それは布団じゃないぞ」
「でもでも、リリナたちは、いつもこれで寝ていたよ?」
「ゴザを布団代わりにしていたのか?」
いったい、どんな生活をしていたのか?
新しい事実を知り、アインは二人の今までの生活にさらに興味を持った。
「布団というのはこっちのことを指す。ほら、寝てみるといい」
「んー?」
言われるまま、リリナは床に敷かれた布団に横になり……
「ふわぁあああああ!?」
目を丸くして驚いた。
「ふわふわで柔らかくてふわふわだよ!?」
「ふわふわ、って二回言ったな」
「すごいすごいすごい、こんなお布団初めてだよ! お姉ちゃん、すごいよ!?」
「本当……しっかりと綿が詰められていて……こ、こんな布団を使わせていただけるのですか?」
「ボロボロの安物だぞ?」
「とんでもありません! こんな布団を安物呼ばわりしたら天罰が下ってしまいます!」
リアラは真剣だった。
リリナも真剣だった。
それくらいにひどい生活を送っていたのだろう。
「くっ」
アインはいつものように、胸がモヤモヤするのだった。
そして、二度とこんなことが言えなくなるくらい、いじめてやろうと誓うのだった。
ゴザって寝心地はどうなんでしょう?