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2話 まずは水責めをすることにした

 リーズランドは斜面に位置している街だ。

 そのため、街は段々式になっている。


 上層にいけばいくほど、貴族などの身分が高い人が住んでいる。

 逆に下層にいけばいくほど金のない者であふれている。


 アインも下層の人間だった。

 ぼろぼろの長屋の一角が自宅だ。


「ただいま」


 リアラとリリナを連れて家に帰る。

 迎えてくれる人は誰もいないのだけど、ついつい口にしてしまう。

 クセだった。


「えっと……ここが、あなたの家ですか……」

「ボロいだろう?」

「あっ、いえいえ! そんなことは……!」

「安心していい。こんな家に住んでいるけど、金はある」

「そういう心配は……それよりも、妹は返したいのですが……」

「ダメだ。妹も買うことにした。反論は認めない」

「そ、そんな……」


 リアラは悪い想像をしたらしく、顔を青くしていた。

 一方のリリナは、自分がどういう状況下に置かれているのかわからないらしく、不思議そうにしていた。

 特に危機感のない様子で、物珍しそうに長屋を見回している。


「わぁ、広い家だね」

「それ、嫌味なのか?」

「え? なんで?」


 リリナは、純粋に長屋が広いと思ったらしい。

 そんなことを思うような生活を続けていたのだろう。


 いったい、どんな生活をしてきたのか?

 そのことを考えると、またアインはモヤモヤした感情に襲われた。


「よし。まずは、水責めだ!」

「え?」

「風呂に入ってこい」

「お風呂……ですか?」

「なんだ、その顔は? こんなところでも、風呂くらいあるぞ。ボロいから、お湯を沸かすまでに時間がかかるが……まあ、その分、使い方もわかりやすい。ほら、さっさと入ってこい」

「で、でも……」


 リアラはちらちらとリリナを見た。

 アインと二人きりにさせるのが心配らしい。


「俺はロリコンじゃないぞ」

「す、すみません! そういうつもりではなくて……」

「そういうつもりだったろう。目がそう語っていたぞ」

「あう……」

「まあいいさ。本音を隠して笑顔を浮かべている連中より、お前みたいな素直な方が信用できる」

「えっと……?」

「……今のは気にするな」


 失言だった。

 アインは苦い顔をした。


 どうして、出会ったばかりの……しかも、ホームレスのエルフにこんな話をしてしまうのか?

 不思議と、スルリと言葉が出てしまったのだ。


「とにかく、早く風呂に入ってこい。さすがに汚れが目立つぞ」

「あ……す、すみませんっ」

「なんなら、妹と一緒に入ればいい。妹も汚いし……狭いが、なんとかなるだろう」

「でも、替えの服が……」

「そんなもの適当に用意してやるさ。だから風呂に入れ。のんびりしていると、俺が洗うぞ」

「そ、それはちょっと……」

「なら入れ。そして、全身を洗ってこい」

「えっと……ありがとうございます」

「ふん、礼を言う意味がわからないな。俺はただ、お前たち姉妹を水責めにしていじめてやろうと思っているだけだ」

「そ、そうなんですか……!?」

「そういうことだ。くっくっく、後悔しても遅いぞ? お前たちはもう、俺のものだからな」

「そ、そんな……」

「お姉ちゃん? どうしたの?」

「……ううん、なんでもないわ。それよりも、お風呂に入りましょう」

「お風呂!」


 リリナの目がキラキラと輝いた。


「リリナ、知っているよ! お風呂って、綺麗になれるところなんだよね? 一度、入ってみたいと思っていたんだ」

「……お前、風呂に入ったことがないのか?」

「うん、ないよ?」

「……そっか」


 再び、アインはモヤモヤとしたものを感じた。


「まあいい。とっとと行ってこい。そして、自ら水責めの苦に遭うがいい。はっはっは!」


 笑い声をあげるアインに見送られながら、リアラとリリナは奥にある浴室へ移動した。




――――――――――




 アインが言っていたように、狭い風呂だった。

 二人が精一杯という感じだ。


「ふう」


 体を洗い、温かいお湯につかり……

 リアラはゆっくりした。


「お姉ちゃん、お風呂って気持ちいいねー」

「そうね……」

「お姉ちゃん、暗い顔しているよ? どうしたの?」

「ううん、なんでもないの」

「そう?」

「ほら。私のことはいいから、ゆっくり温まりなさい」

「はーい」


 リリナは言われた通りに、のんびりとくつろいだ。

 そんな妹を見て、リアラは優しい笑みを浮かべる。

 しかし、その表情はすぐに曇ってしまう。


 結局、リリナを連れてきてしまった。

 アインに逆らうことができなかった。


 アインはリリナに手を出さないと言っているが、本当なのだろうか?

 仮に手を出さないとしても、リリナの近くでそういうことをするとなると、やはり抵抗感を覚えてしまう。


 そこまで考えたところで、リアラは別のことを考える。


「でも……」


 なぜだろうか? と、リアラは自問自答した。

 アインに対して嫌悪感を覚えたことは一度もない。

 いやらしい目を向けられていないからだろうか?

 こうして、なんだかんだで風呂に入れてくれたからだろうか?


 悪い人のようには思えない。

 それがリアラの感想だった。


 ただ、いじめるとか水責めにするとか、時折、不穏な言葉が出てくるのはどういうことだろうか?

 やはり、本当は悪い人なのだろうか?


 あれこれと考えて、リアラは混乱してきた。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん」

「なあに?」

「お風呂、気持ちいいね♪」


 風呂が気に入ったらしく、リリナは笑顔で同じことを繰り返した。


「うん、そうね……気持ちいいね」


 アインがなにを考えているのか、それはわからない。

 でも、風呂は心地よくて、とても気持ちいい。


「お風呂なんて……いつ以来かな?」


 まどろみのような感覚に浸りながら、しばらくの間、リアラは体を休めた。

水責めという名のお風呂回!

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