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学園へのいざない(下)

今回もヴァン(おっさん視点です)

 爆風がヴァンの顔を叩く。

 ウィルベルを中心に生み出された爆発は、避ける余地も許さずにその威力を存分に発揮していた。


 とは言っても、死なない程度には加減したものであるが。


「ウィルベル!?」


 カーバンクルを連れた少女が声を上げた。 

 爆発が生み出した煙が、少女を中心として周囲数メートルを覆い隠しているため、その安否はうかがい知ることはできない。


「……」

「……」


 煙が晴れるまでの若干の静寂が場を支配する。

 やがて煙が晴れたとき、


「……あうぅ」


 そこにあったのは、地面に倒れ伏して呻くウィルベルの姿だった。


「……ここまでか」


 ――少しだけ。

 ヴァンはほんの少しだけ、ここで立ってくることを期待した自分がいることに気付いた。

 だが、それは期待のしすぎというものだろう。Aクラスのクランに所属する者ですら――


「うらああああぁぁぁぁ!!!」


 その瞬間、突如として空から降ってきたのは……マグロ!


「うお!?」


 思考を中断し、思わず後ずさった鼻の先を、マグロの尾がかすめていく。


「くそぉっ、外した!」


 それが体力の限界だったのだろう。空から落ちてきたマグロの精霊は、びたーんと地面に落ちると力尽きたように横たわった。


(着弾する直前に……精霊を投げたのか?)


「ウィルベル、大丈夫!?」


 愕然とするヴァンをよそに、カーバンクルを連れた少女が柵を越えて駆けつけ、倒れ伏したウィルベルを抱き上げ顔を叩く。


「……きゅー」


 あのレクスフレアは、ウィルベルが精霊を盾に防御に徹していれば、何とか立っていることができる、という威力に手加減されたものだ。

 マグロを投げて攻撃に使った以上、しばらく目は覚まさ――


「あうー……。まだ目が回っとる」


 ヴァンの予想に反して、ウィルベルはひょっこりと立ち上がった。さすがにふらふらとしているけど、かたわらの少女を安心させるようにその手をしっかりと握る。

 

「ルセルちゃん、さっきは魔法かけてくれてありがと。おかげでなんとか生きとるんよ。――さて、おじさん」


 立ち上がったウィルベルは、ヴァンに向かって笑顔でサムズアップすると胸を張った。


「どうや! うちらの勝ちなんよ!」


 言われてヴァンは足元を見た。ヴァンがいるのは足元に描かれた円の外。


「ははっ!」


 思わず自分の頭をピシャリと叩く。


「なるほど。確かにこいつぁオレの負けだ」


 ヴァンは肩をすくめた。

 無鉄砲で負けず嫌いな若者は少なくないが、自分の命まで賭けるやつは珍しい。

 隣の少女に支えてもらいながら胸を張る姿は、無謀で、無茶で、馬鹿っぽい。

 

「聞いていいか。なぜ最後、精霊を投げた? 命の危険を感じなかったのか? そこまでして勝ちたかったか?」


 だとすれば、そのあたりによくいる無鉄砲な若者だったというだけだ。

 だが、しかしウィルベルはドヤァっとした笑みを浮かべ、チッチっと指を横に振った。


「それはルセルちゃんが耐炎魔法をかけてくれるのが見えたからなんよ!」


「……へ? わたくし?」

 

 ルセルと呼ばれた少女が目を丸くする。

 それもそうだろう。なぜなら、


「見えてたって……わたくし、あなたの真後ろにいたのよ? ……それに、わたくしが使うのが耐炎魔法だなんて保証は……」


「でも見えてたし、なんかわかったんよ。赤い線が膜を作ってびょーんって伸びとったし」


(ま、まじかよ、こいつ!?)


 ヴァンは己の口角が吊り上がるのをはっきりと感じていた。


 人間が魔法を扱う際には精霊を介しておこなう。人間には魔力を感知することができないからだ。

 つまり、魔力の流れが見えたということは精霊の世界が見えたということ。

 それは精霊という存在の深淵に触れたときのみに発現する能力であるという。


 ――と、理論的にはそう言われている。

 だが、それを実現できた者は過去かつて存在しない。


「ぐえー。振り回されすぎて目が回ってるー……。あ、口からネギトロが出そう」

 

 ……マグロの精霊を見ると、とてもそんな大した連中には見えないが。


(まさか……だな)


 ヴァンは小さく笑うと、懐から出した小さな封筒をウィルベルに差し出した。


「ほらよ、景品だ」


「なんよこれ?」


 その表面には女性の顔を(かたど)った印が押されているだけで、他には何も書いていない。

 ウィルベルは差し出された封筒に首を傾げる。


「これはまさか……。あなた、何者ですの?」


 ウィルベルを介抱していた少女のほうが、その封筒の正体に気づいたらしい。疑わしげにヴァンを見上げる。


「オレの名はヴァン・エゼルレッド。勇者だ。

 今年からレヴェンチカの教師を新任することになっている」


「……へ? 勇者?」


「レヴェンチカは知っているな? 世界で唯一、勇者を育成するために作られた学園だ」


 少女たちは揃ってコクリとうなずいた。


「これは学園のセレクションを受けるための推薦状だ。もしもお前が勇者になりたいっていうなら、試験を受けに来い」


 この浮遊世界で唯一の勇者育成機関、レヴェンチカ。

 各国のトップクラスの才能が入学を渇望してやまぬ、憧憬の地。

 その競争率は受験できただけでも栄誉とされるほど。


 わっと周囲から歓声が上がる。

 少女を勧誘しようとしていた他の街のスカウトすら、驚きに目を見開いている。


「ウィルベル! すごいじゃない!」


 介抱していた少女が興奮した面持ちでウィルベルをぎゅーっと抱きしめる。


「うちが……レヴェンチカに……?」


「なんだ信じられないか? それとも勇者には興味がないか? だったら無理にとは……」


 首都ほどの人口がいるなら――あるいは訓練する環境が整っているならばともかく、このような辺境の街であれば、レヴェンチカの受験生が出ることすら稀だろう。

 家庭状況がそれを許さないということもあり得るだろう。


 だが、信じられないという表情を浮かべていた少女は、震える手で封筒を掴んだ。――掴んだ瞬間、それが現実と知って満面の笑顔を浮かべた。


「ううん。絶対に行く! だって、うちは勇者になりたいもん!」


 BクラスもAクラスもSクラスも。

 クランという手順をすべて吹き飛ばして至高の存在――勇者に至る道。


 レヴェンチカとはそういうそういう場所だ。

【マグロ豆知識】

人の色覚は以下の3色。(3色型色覚)

赤視物質(R)

緑視物質(G)

青視物質(B)


ですが、一部の魚 (コイやタイなど)では上記にプラスして紫視物質(M)の4色あることが確認されています。(4色型色覚)


マグロは長らく色が判別できないとされてきましたが、最近になって色を判別する細胞が発見されました。

4色とまではいかないものの人とは違うものが見えているかも?


面白かった、勉強になったなどありましたら、ブっくマークなどをいただけるとさいわいです!

(๑•̀ㅂ•́)و✧

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