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我が名は漆黒のヴォーパル・ツナ

本日は2話投稿予定です

「元気だしなよー」


 失意に沈むぼくをウィルベルが慰めてくれる。

 自分も凹んでるはずなのにね。


 ぼくらがいるのは広場の外。

 芝生で覆われた広場とは柵で隔てられたところ。なんかすっごい疎外感を感じる。


 がっくりと肩……じゃなくて背ビレを落とすぼくの前では、精霊を物質化できた少年少女が、試験官の前で各々アピールタイム中。

 

 ぼくたち? そんなことをする気力もなくって、半透明の精霊しか召喚できなかった子たちと、それを羨ましそうに遠巻きに眺めてるだけ。


 そりゃさー。マグロは弱いよ?

 腐敗しやすくて、江戸時代には下魚って言われてたり、ちょっと暴れただけで真っ黒に身焼けするし


 ステータスも最低ランクだっていうEだらけだったけどさー。これからの成長に期待してほしいよね。防御力だけはBもあったんだから。

 それがどの程度すごいのかは知んないけど。


 でもさ。何も見ずに不合格っていうのはさすがにひどい!


 あのあと、いまウィルベルが所属してるCクラスの戦士クランの人もきて、Dどころか最低ランクのEクラスに降格だって告げられた。


 スカウトの人いわく、特に致命的だったのが補正値なんだって。

 精霊を召喚している間は補助魔法みたいな感じで召喚主の能力が上昇するらしいんだけど、これが低いとどうしようもないって言われた。


「あーもう! ぼくってばエリートどころか底辺じゃん!?」


 いままでウィルベルがCランクにいたのは精霊の期待込みだったらしい。

 つまり、半透明の下級精霊のほうがぼくよりもマシってこと!


 ちなみにルセルちゃんの召喚したカーバンクルの平均値はCだった。おのれ小動物。


「まあまあ、Eクラスからまた上がればいいんよ。ミカが気にすることじゃないんよー」


 そんなこと言ってもさ。

 せっかく異世界に召喚されたもんだから、さっきまでぼくはカツオやカジキをはべらせたハーレムを期待しちゃってたわけで。

 

 もうほんとがっかりだな。


「シシャモくらいなら買ってきてあげるんよ! やから元気だして!」


 生魚臭さが移っちゃうのも気にせずにぼくの頭をぽんぽんと撫でてくれる。なんていい子なんだろう!


 だが、待ってほしい。シシャモでいったい何をすべきだというのか。


 にしても、自分も凹んでるはずなのに、ウィルベルは優しいな。

 よーし、お礼にぼくの大トロをお食べ――

 

「それはノーサンキュー」


 ガーン。

 


 ……とりあえず、いったん今の状況をおさらいしよう。

 そもそもなんでマグロなんだろう? トラックに轢かれた記憶もないんだけど。

 

 えーっと、この世界に来る直前にやってたことといえば、『マグロ・グランドフィーバー』っていう、プレイヤーがマグロと釣り人に分かれて戦うVRMMOで、マグロプレイをしてたんだけど……。


 ……。 

 ……。


 そ  れ  か。


 なんってこったい!!!

 思い出してきたぞ。ぼくは釣り人プレイヤーを9999人倒して、『漆黒のヴォーパル・ツナ』って呼ばれてたんだけど、10000人目の『憤怒の(アンガー)アングラ』ーって呼ばれるトッププレイヤーと壮絶な相打ちになって刺身エンディングを迎えたんだった!


 ははぁ……なるほど。理にかなった異世界転生だなー。

 うんうん、納得。転生理由にふさわしい不条理な展開&ボディだって意味でねっ!!

 

 ファッキンシット! ざっけんな!!


 (さいわ)いなのは、マグロの脳みそが小さいせいか、変な悩みとは無縁ってところかな。

 マグロは前向きにしか進めないのである。原因もわかったし、よーし、頑張るぞって感じ!

 

 それはともかく早速!

 

「ステータスオープン!」


 異世界転生の標準装備。だいたい備わってる機能。それがステータス!

 ぼくが叫ぶと、さっきウィルベルが出したステータスが表示される。


-------

種別:精霊

レベル:1

攻撃:E

守備:B

魔力:E

攻撃補正:E

守備補正:E

魔力補正:E

スキル:なし

総合ランク:E


スキルポイント:1

所有者:ウィルベル・フュンフ

-------


 うう……なんてひどいステータスだ。


「って……あれ?」


 ステータスにさっきはなかった文字が表示されている。所有者にウィルベルの名前があることもそうなんだけど……。


【スキルポイント:1】


 不思議に思ってスキルポイントってなんだろう? って考えると


行動適性:

 水中 レベル0

 地上 レベル0

 空中 レベル0

 宇宙 レベル0


攻撃:

 頭突き レベル0

 尾ビレ レベル0

 体当たり レベル0


「うお!?」


 マグロ・グランドフィーバーと同じ初期で取得可能なスキルが表示された!


 むむむ!?


 マグロ・グランドフィーバーのスキルは一定のレベル条件を満たすことで取得できる。


 例えば、マグロ・メテオってスキルがあるんだけど、習得するには宇宙適性と体当たりを最高レベルまで上げなければならない。


 厳密に言うと地上適性のレベルが0なのに、いま呼吸できてる時点で完全にイコールではないんだろうけど。


 まあいいや!

 マグロは後ろを振り返らない生物なのである。

 とにかく問題を解決する糸口が見えてきたぞ!


 ぼくはウィルベルに向かってべチーンと跳ねた。


「よーっし、ウィルベル! うじうじしててもしかたない。スキルポイントを稼ぎにいこうよ!」


「スキルポイント?」


 おや?

 転生世界でステータスがあるのにスキルポイントは一般的ではないらしい。

 ふはは! こいつはスキルポイントを使って勝ち組になれるフラグに違いない!


 ぼくは胸ビレを張った。

 

「そう! スキルポイントを得ることさえできれば、ぼくはハイパーでデリシャスなマグロになれるんだ!

 そしてレベルを上げるためにはまずは海! 母なる海! マイ・マザー・シー!

 さあ、ウィルベル。ぼくを海につれていくんだ!」


 スキルポイントを得るにはぼくが敵――プランクトンやサメを倒す必要がある。そしてそういったものが存在するのは海!


 地上で呼吸できるなら、まずは空中遊泳から目指したいところだけど、1で取得できるのはせいぜい空中適性系の初級である『滑空』程度。

 まずは空中適性を5くらいまで上げて、攻撃系のスキルもとって……。最終的な夢は宇宙征服である!


 そうだ。そうしよう!

 ふははは! 見とれよ、試験官ども! 宇宙を股にかけるマグロになって見返してやるからな!?


 よしよし。とりあえず、なにが起きるかわからないから、いったんスキルポイントは貯めておいて……


 なんてぼくが考えていると、ウィルベルは首をかしげた。

 

「……海ってなんなんよ?」


 え? もしかして、ここってめっちゃ内陸地だったりするの?

 マグロに転生させといて内陸地スタートって、この世界の神様ってバカなんじゃない!? 


「えーと、塩辛い水があって、鯛とかヒラメとがいて……。あと水着のねーちゃんも生息してるところだよ!」


「?」


 ああ、もう! 海をしらない田舎者に対して海を説明するのって大変だよね!


「大陸と大陸を隔てるでっかい水たまりというか……」


「隔てる?」


 ぼくの説明に対し、さらに深く首をかしげたウィルベルが、ててて、とぼくをリフトアップしたまま広場の端っこの方に小走りで走る。

 さっきまで気にしてなかったけど、そこから先は街並がない。もしかして山の上にある街なのかな?


 ――強い風がぼくの頬を撫でた。

 一瞬目を(つむ)ったあと、ぼくの目に映ったのは……


「わーお……めっちゃ綺麗」


 どこまでも続く青い空と、底の見えない奈落だった。

【マグロ豆知識】

ネギトロは『葱&トロ』ではなくて、骨の隙間に残った身をこそげ落とした(ねぎりとった)もの、の意味。

調味料などに少量のアレルギー成分が混ざっている場合もあるので、重度のアレルギー持ちの方は注意してくだい。

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