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シールド&マジック  作者: バルバロ
ジュラー編
5/51

ジュラーの王

AG.3433年 3月



石でできた城内の大広間を、ドタドタと走り回る音が響く。摂政であるシェイパは人を探して駆け回っていた。


「王、ロー王は何処だ!」

「なんだ、どうしたのだイェイパ」


その大声に、一人の男が姿を表した。茶色に近い濃い金色のミディアムロングヘアをなびかせ、片側の肩から魔獣の毛皮をまとって歩いてくる。彼はここジュラーの第一王子ジェグである。

そういった立場の人間に対し、イェイパは友人に接するように気さくに話しかける。


「ああ、ジェグ王子。王を見かけなかったか」


 自慢の白髪を束ねたドレッドヘアーを手でいじりながら、ため息混じりに話すイェイパ。


「父が? またどこかいったのか、もういい年だろうに。まったく」

「まあそこまで重要な訳でもないのだが、北側の視察で本当は昼前に終わっていたはずが、とっくに陽は真上にあるぞ」

「そんなことか、だいたい市民の面倒を懇切丁寧に見る必要もなかろう。自分の身ぐらい自分で守れとな」


 ジェグのこの市民への反応はかなり高慢なものに思えるが、彼ら――国全体――にとっては常識である。


「それはそうなんだがな、毎度まいど王宮で暴れられても困る。直すのも楽じゃないんだ」

「コーラたちはまだ諦めていないのか」

「根性だけは一端さ、ああ後は逃げ足もか」


 北地区で幅を利かせているコーラ一派は生来の暴れん坊で、度々騒ぎを起こしては市街で乱闘などを繰り返していた。争いごとは日常茶飯事なここジュラーではあるが、流石に目に余るほどであった。

 なので偶にガス抜きとして相手をしに行く、逃げ足が早いのでいつも捕まえるところまでは至らないのが難である。

市井で横暴に振る舞うコーラたち、やがて増長の極みに達したそれらは王であるローにかつて挑んだが来るもの拒まず、謀反であろうと宣戦であろうとローは大らかに受け入れてきた。今では仇敵とコーラは一方的に叫んでいる。


「どっちにしろ、あの父のことだいつ帰ってくるかなどわかったものじゃない」

「だろうなあ、仮にも為政者が子供のように……」


「――誰がガキだって」


 二人で話して油断もあったが、それにしても急に近くから声がした。どちらが先ともなくほぼ同時に振り返ればそこにはお尋ね者がいた。見るものを畏怖させる鋭い目つき黄色い瞳、目の色とほぼ同じ黄色に近い輝くような黄金色の髪を伸ばし、腰まで長いそれを揺らしながら威風堂々と立ち振る舞うそれこそがこの土地、および国であるジュラーの王、その名はロー。個を何よりも優先する気高き種族グリア人を束ねる真の強者の名である。

 金色の顔毛はライオンのたてがみのように長く、色艶がいいのは手入れの賜である。

 服として、かつて狩った大型の魔獣の毛皮を腰に巻きつけている。上はなにも着ず年中この格好だ。

 イェイパも誰なのかわかるとスタスタと近寄る。


「王、どこに行っていたので」

「狩りだ、狩り。ここのところ運動不足でな」

「昨日あれだけ若いのを散々イジ……、鍛えていたじゃないですか」

「あんなので運動になるものか、それよりも魔獣と相撲をとったほうが、……そうだ、その魔獣が城の前にあるからあとで食うぞ」

「ああ、また勝手に、いつもこうだ、私の身になってほしい……」


 あまりの奔放さにイェイパは頭をかく。元来ジュラーの為政者は街の治世というものはほとんど行っていない、このジュラーという地、グリアという人々はそういったものと縁遠い。そもそも極端な実力、個人主義が是とされているグリア人は国というよりも群れと行ったほうが正確かもしれない。だがかつてあるグリアの男が群れを束ね文化というものを形成した。その後も王という立場は残り、その座についたものは国の維持を求められる。

 はっきりいえば内乱などで空中分解を起こさず、かつ戦争に負けない。この二つである。ジュラーの王は強さを示せば、国民はそれを認め国への奉仕を許容する。

 しかしながら強さを示すだけではなく、現実には多少なりとも国の管理維持というものに勤しまなくてはならない。市井の意見の汲み取りや交換を行うなどである。

 だがローは歴代の王たちよりもさらにそういったことに無関心である。それでも支持されているにはひとえに、彼が古今東西含め類まれなる強さを持っていることに起因する。


「父さん、だがやることはやらねば、ジュラーの地が泣くぞ」

「ずいぶん知った口を利く、ならお前がやればよかろう」

「へえ、それはつまり俺に王座を譲る気になったと」

「……できるものならな」


 ジェグの挑発に、歯をむいて笑うロー。剣呑な空気に見えるがまだじゃれ合いの範疇だ。まだ、ではあるが。

 それを止めるためイェイパが口を挟む。


「親子のふれあいもそこまでに、コーラたちがお待ちですよ」


 話を切り替え、仕事の話を振る。


「うん、コーラ? 誰だったか」

「まじですか……」

「冗談だ、だがいい加減面倒だ、俺は行かないぞ」

「おい父さん……」


 二人が呆れ返るが、ローは自分の意志を曲げることはほぼない。あるとすればそう……。


「――あなた、帰っていたのですね」

「……ライラ」


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