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シールド&マジック  作者: バルバロ
深い霧の中にて
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夢物語

 ニンマリと笑う女、それはメアと名乗った。メアはさらに話す。


「このご時世、ただで助けられると思ってはいないよな」

「優しくてなによりだ」


 あぐらをかいてそう言うダン。精一杯気を張って見せるが、疲労はどうにも隠せない。命の恩人であることは事実であるし、まずは話を聞いてみる。


「まあ根無し草のあたしらに、お前みたいなデカブツは手に余る。だから契約はこの旅が終わるまでにしてやるよ」

「お前たちはどうやってここまで?」


 そう言いながらあたりを見渡すダン。周囲を包む霧は今なお漂っており、そこまで遠くないメアの仲間たちの姿もやや霞んでいる。

 しかし気がかりがあった。


「ここだけ明るい……?」

「お前に拒否権はないと言っても、なにも知らないでは可哀想だからな。いくらか説明してやるさ」


 そうしてメアは彼女たちが置かれている状況を掻い摘んで話しだした。

 彼女たちはいわゆる『盗賊』などと言われる集団である。それは日々の生活を、他人の功績のみによって形成するならず者だ。

 つまり彼女たちはほとんど建設的な行為はせず、また一つどころに留まることなく暮らしている。

 盗賊といえばまだ聞こえは良い。だが実態というのは盗人であり、ただの罪人にほかならない。メアらはそこまで堕ちてはいないと言うが、それでも普段は戦場などに現れては死体漁りに精を出す日常を送っている。

 ときには義賊じみた行為をしているといい、そういったもので助けた人間からの厚意で、その日暮らしの宿などを確保していた。

 とはいえそれだけでは明日の食事もままならないものであって、誰一人として憧れるようなものではない。

 その状況にメアらが不満を持っていたのは間違いがなく、それぞれが各々の事由によって今があり折り合いをつけているのだが、それでも少しは良い暮らしをしたいものだ。

 特にもうひとりの女の仲間であるナーサという人間は、金銭に目がなく、そのためであったら人殺しも厭わぬほどであるらしい。その行動力を見込んでメアが連れて歩き、今のところは上手くコントロールしている。

 そのナーサが今回の旅の発起人だ。


「あれは勤勉なあたしへの、神様のご褒美さ……」


 メアの話を途中から奪い、目を輝かせて話し始めたのはナーサ。気がつけば他の人間と一緒に、ダンを呼んで焚き火を囲んでいた。

 ある日のこと、いつものように彼女らは盗品等を街で売り、あるいは情報収集という名の詐欺行為に勤しんでいた。細かく説明すると、基本はルッグとリン、二人の男組が行う。まずルッグが対象の“欲しいもの”を用意する。

 その欲しいものは当然ルッグが仕込み、必要にならざるを得ない状態にする。そこでリンが偶然を装い、求めているものと、それが知る情報を聞き出すというもの。

 例えばある男がいる。それは“偶然”失せ物をしてしまう。そこに親切な男が現れ、代替品を用意する。それそのものではないが、そうでないとからくりがバレてしまう。

 長く話せばボロが出るのでまくしたて、用が済めば街から姿を消す。そうするといつのまにか手にはいつの間にか拾った“失せ物”と、ただで得た情報が残る。事実上元手のいらぬ物々交換だ。交換物も大概はそこいら(戦場など)で入手したものである。

 

その日もルッグたちがそれを行っていたとき、そのときは暇を持て余していたナーサも一緒にいた。

 ターゲットに選んだ男は、薄汚いローブをかぶった年寄りだった。相手に選ぶのはこういった弱者が多く、前の説明とは間逆な、人でなしの行いだ。

 それを目標に定めたものの、男は妙に影が薄く、うっかりしていると見失いそうになっていた。

 だがその街はナーサにとっては勝手知ったるところであり、男がナーサの詳しい裏道を通ったこともあり、追跡の難易度を軽減していた。

 男はルッグとすれ違ったとき、“迂闊”にも所持していた宝石を落としてしまった。当然ルッグが盗んだのだが。

 本当は宝石などの希少品であれば、交渉の間もなく売りに行くのだが、その宝石に不自然な輝きを見出したのはナーサだった。

 宝石には人を引きつける魅力と同時に、人を不運に連れて行く邪が宿っている。少なくともナーサはそう信じており、宝石に限っては扱いを慎重にしている。

 なのでその宝石の由来を求めたナーサが、それを探していた男に、よく似た安物の石を見せて話しだした。よく見ればすぐに偽物だと気づかれるだろうに、男は動転していたのか縋るように説明しだす。

 詳細は述べなかったが、その宝石はとある目的のために用いられ、それがないと家にも帰れないと言うのだ。

 それだけの価値があるのだとわかったナーサは、打って変わってその宝石を欲しがり、話も半ばに偽の石を押し付け、逃げるようにその場を去った。

 ねぐらに戻ったナーサは、売りさばく前に少しの間、その宝石をうっとりと見つめていた。宝石は深く赤いもので、まるで宵闇を映すかのごとく暗いものが中央にあり、じっと見ていると吸い込まれてしまうような感覚があった。

 最初はぼうっと見ていたナーサだが、ふとおかしなことに気がついた。

 宝石が細かな振動をしているようで、さらに見つめれば動いているようであった。風もない中で動くのはおかしいと、知識が豊富なリンに話したが、彼もそういった宝石は聞いたこともないと言った。

 そうして観察を続けていると、宝石は必ず一方向に動いていることがわかった。そのときナーサは閃く。これは他の宝石、仲間を呼んでいるのだと。

 それだけのものであれば、男が慌てふためくのも理解できる。異を唱えたリンを無視し、メアに熱弁を振るったナーサが中心となって彼女らは旅へと出たのだった。


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