第十三回 これっくらいの 近未来で いっでんし いっでんし ちょいといじり
(雪夜群青さま(以下雪))
タグをお借りします。SF的知識と知能に欠ける私にお恵みを。
遺伝子操作の技術が発達しすぎて、やろうと思えば百人力の人間もスパコン並にIQの高い人間も作れるようになってしまった未来世界。
この技術が多用された場合、どのような現象や問題が起きると思いますか?
(雪)
あ、言い忘れてました。遺伝子操作できるのは人間以外の動物や植物についても同じです。
(乾)
一週間も経ってから気付きました。まだ募集なさってるのかな。
とりあえずいろいろ考えてみたのですが、「遺伝子操作でどんな人間も作れる」設定は、「新生児の遺伝子を操作して、理想の子供を作る」だけですか? それとも、既に成人した人の遺伝子も後天的に書き換えられるんですか?
(雪)
ツイートが消されない限りずっと募集しています(笑)。
私は科学知識が皆無に近い人間なので自信がないのですが、ゲノム編集をイメージして考えています。
ゲノム編集は受精卵にしかできないような気がするので、成人した人間の遺伝子操作はできない…ということにしておこうかと思います。
たぶん。
https://twitter.com/l9W4om9u7kvB9dc/status/1223225269944606721?s=20
https://twitter.com/l9W4om9u7kvB9dc/status/1223274072907272192?s=20
https://twitter.com/inui_takafumi/status/1225628446832746496?s=20
https://twitter.com/l9W4om9u7kvB9dc/status/1225641549880385536?s=20
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以上ツイッター上にて、雪夜群青さまとやり取りをさせて頂きました。
面白そうな仮定だったので、ちょっと本腰入れて空想してみようかなと思いました。実に半年以上ぶりのエッセイの更新です。
さっそく参ります。前提として、遺伝子操作により(知力面・体力面その他に於ける)超人が作り出せる世界。ただし、既に生まれてしまった生物の遺伝子を書き換えることはできないとする。
まず自分は、そのような技術が実現した世界に於いて、実際に「百人力の人間」や「スパコン並にIQの高い人間」は数百年単位で作られないと予想します。
第一に、モラルの問題が大きい。人体実験の段階で現実的にはハードルが高いし、それを乗り越えて「できましたー、今後は自由にできますよー」って言われたとして、一般市民が気軽に行えるレベルにまで浸透するのは相当な時間を要することでしょう。反対する団体も出てくるでしょうし、「できるんだやったー、じゃあやろう!」って世の中にはなるのは容易ではないと思います。
第二に、リスクが大きい。例えば自分自身が百人力になれるとしたら、リスクを覚悟で「やりたい!」っていう人間は出てくると思います。ですが、この技術を施せるのは自分自身ではなく自分の子供世代。大きく言えば、他者。自分の身勝手で人の枠の外の能力を持った子供を作るというのは、「先が読めない」というリスクが付きまといます。百人力の子供を作って、「こんな、他人と違う能力を誰が欲しいと言ったー!!」と暴れ出されたら。ていうかそれ以前に反抗期とかどう対応すればいいのか。ふつーに想像したらなかなか怖くてできません。
第三に、メリットが希薄。百人力の人間を生み出すより、百人力のロボットを作る方が簡単そうです。勿論アトムみたいな人の手の動きが緻密に再現できるヒューマノイドは難しいでしょうが、押し潰すのか引っ張るのか持ちあげるのか、目的を絞れば今現在の技術でも百人どころか一万人力の作業用ロボットだって余裕で作れます。スパコン並にIQの高い人間も、てかスパコン使え?って話。コストの話にしても、多分いくつもハードル越えて遺伝子操作技術を一般人が手の届くレベルにまで推し進めるまでには、WinもMacも他の子も、その数倍のスピードで進化してるだろうし身近にいてくれると思います。
もちろん、すごく現実的なレベルでの話です。フィクションの話なんだからもっと夢のある展開はいくらでも想定できます。例えばそんな遺伝子操作技術をトビオを亡くした天馬博士が持っていたら、ものすごく精巧なアトムを作ることに成功していたことでしょう。あれ精巧な人間しか作んないな。
結局そんな「超人」を作らせたかったら、「作りたい」っていうマッドサイエンティストのモチベートを考えるのが優先かな、と思いました。
さて。
ここで終わってしまうと、非常につまらない話でまとまってしまいます。
テーマとしては、「どのような現象や問題が起きるか」ということなので、じゃあ実際そんな技術が広まった場合、あるいは広まる段階で、社会はどうなりそうかなぁというのをもう少し考えてみたいと思います。
まずそんな技術が、「実際遺伝子いじればどんな超人も作れるよ! 理論上はね!」とか言い出した段階で、最初に手を挙げるのは人道主義者たちと宗教家たちだと思います。「人の身で人の器をいじるなんて! おぞましい所業だ! 思い上がりも甚だしい! 神への冒涜だ!」。
上述第一の中で少し触れた「反対する団体」に近いですが、ここではもう少し具体的に区別しましょう。上述の「反対する団体」を「こういう技術を使うことに懐疑的な人たち」とすると、ここでいう人道主義者、宗教家というのは「こういう技術自体の存在を許さない人たち」になると思います。物語を盛り上げる要因として面白おかしく表現しちゃえば、「人の尊厳を守るためなら人を殺しても構わないという人たち」。この辺りを上手いこと演出できると、逆にこの技術を一般に広める難易度が下がるかもしれません。
あ? どっから創作的な視点になった?
一方、こういう技術を積極的に使おうと考えるのは、恐らく医者です。科学的な知識はないので根拠はないですが、多分方向性的に、ゲノム解析が終わるだけでなく自在にいじれるとなれば、ヒトが罹り得る病気の種類は激減、下手したら「病気」という概念を抹消することもできるのではないでしょうか。わからないけど。
少なくとも、クローン技術のもっとすごいの、的なことはできるんじゃないかと思います。腎臓に病気を持った人が、「もっと強い腎臓を持った人間」を作ってそいつから移植すれば、的な発想は素人でもできます。人道的にどうこう、宗教的にどうこう言われそうですが、重度の病気を持った人はそんなこと言ってられません。ああ、なので、病気の金持ちとか、病気の子供恋人を持った金持ち、なんかも喜んで技術を後押しするでしょう。
医術の話をしていて、ふと、寿命はどうなるんだろうなぁと思い到りました。遺伝子いじったらひょっとして不老長寿とかも作れるんじゃないかなぁ、とか。人の寿命が500年1000年にもしなったらその方がいろいろ革命的な気がするし、「やってみよう」って思う人も出てくるような気がします。成功しても結果出るの500年後だし。試した本人は死んでるから後は野となれだし。ついでに生まれた長寿超人がクリスチャンみたいな設定を付けておけば、「死ねない! 苦しい!」というドラマは描けそうですね。また創作の話!
というわけで、最初に三つ理由を挙げて「まず超人は生まれない」と主張しましたが、こういう特別な技術を前に殆どの人はこの枠の中に収まると思うんです。ぶっちゃけ傍観勢。「へー、そういう技術が出来たの。でも、それってなんか難しい特別な機関で特別にやってる実験でしょ。え、そこの病院ですぐできる? それはちょっと嫌だなぁ。できれば見えないとこでやってくんない?」勢。
二番目に挙げたのが反対勢。なんとしても技術を抹消したい過激派勢。
三番目が賛成勢。
傍観勢がしばらくの間圧倒的多数を占めつつ、公に大声を挙げるのが反対勢。賛成勢が息を潜めながら技術を進化させ、どこで世論をひっ繰り返す決め手を打てるか(例えばこの技術で「全ての病気をなくすことが可能」だとすれば、この技術はあっという間にあらゆる国々に受け入れられると思う。一部の国や宗教団体以外)。という感じで技術は広がっていきそうだなと考えました。
遺伝子をいじった人といじってない人の間での差別とか、戦争とか。そういうのも頭を過ぎりはしたのですが、ぶっちゃけそんなに具体的に想像が出来ないのは自分の想像力の限界というか。肌の色の違いほど明確に差別されるかな? 少なくともそれ以上の差別問題になるのかな、見た目で判別するの難しそうだし……。みたいな。そんなレベルの想像力。
ところで自分がもしこの設定で、今とは全然違う世界の価値観を作るとしたら、散々語ってきた対人間技術ではなく動物技術を発展させます。
価値観ひっくり返すには技術を暴走させるのが近道だと思うのですが、動物の遺伝子いじるってレベルだと反対勢がずっと小規模にできるんですよね。完全に鎮静化はしないだろうけど、「動物なら、まぁ……」みたいなところは否めない。植物ならなおのこと。「めちゃくちゃ美味い米作りたいんだ」って言えばコシヒカリの遺伝子操作は大概許されそうな気がします。
あと、愉快犯が後先考えずガンガン化け物作りだしそう。「ペガサス誕生! 馬と白鳥の遺伝子をかけ合わせたんだ!」的な。のび太的な。
知能進化は、多分「人と同程度の知能」がラインになるとは思いますが、「よっしゃ一緒にしゃべって遊べるペット作ったろ」って思った時点で暴走はいくらでも。暴走しないでリアルポケモンワールド作ることも可能そうだし、暴走させてジュラシックパーク全世界版もできそう。さらに後先考えず「名状しがたきもの」作ってやれ!みたいな自殺志願者も余裕で想像できる。
自分の想像力の範囲なのかなぁ? でも、「何でも自由にカスタムできますよ」って言われて、角の生えた人間とか羽の生えた人間とかは、「え……? 何のために? 自分に生やせるんじゃないんでしょ?」ってなりそう。でも犬猫に角生やすのは「面白そう! 自分だけのペット作りたい!」って理性のタガ外す難易度めっちゃ低い。
うん、なので、自分の場合ですが、遺伝子操作技術でカオスな世界を作るんだったら動物進化がオススメ。