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1-9

持ち主の趣向に沿って厳選された玩具や装飾で彩られた子供の部屋。

彼らの夢を結集したはずの小さな世界も、一度光を失えばそこは畏怖が支配する空間へと身を落とす。


暗闇においてもなまじその輝きを失わないことが、かえって不気味さの演出を手伝っているのだ。

女の子向けの人形は目を開けたまま笑顔で眠ることを知らず、男の子が遊ぶ鉄道模型はひとりでに永遠と動き続ける。


子供を楽しませる道具というのは、恐怖を連想させるトリガーと表裏一体になっている。



ミロは二日続けて、またしても夜中の二時に目を覚ました。


目を明けた瞬間あたりが暗いことを察し、憂鬱な気持ちが彼を支配した。


ミロが目を覚ましたのは偶然ではない。

パーカーが執拗にミロを揺り動かしたためだ。


「どうしたの?」目をこすりながらミロはつぶやく。


「どうも俺は寝られない体質らしい。弟が眠れないのに兄だけすやすや寝ているなんて、そんなの許せるのか?お前は」

パーカーは流暢に話した。


寝ぼけているミロにはかえって聞き取れない速さだった。

おかしいな、昼はあんなにゆっくりしゃべっていたのに、とミロはぼんやり思う。


「話し相手になれよ。なあ。暇なんだ俺は」

パーカーはかわいい顔のまま強引なことを言った。


「ああ、うん……」

曖昧な返事をしながらミロの頭が徐々に冴えてくる

寝れないとパーカーは言ってきたけど、眠らない生き物なんているのだろうか?ミロは考える。


魚はずっと泳ぐものもいるってお父さんはたしか言っていたけど……。

弟とはいえ、やっぱり人形だから寝ないのだろうか。

いや、もしくは夜行性という猫のようなことも考えられるのかなあ。


ミロは精一杯頭を働かせて案を浮かべたが、いまいち決定的な答えにはたどり着けなかった。

やはり起きている時間が悪かった。

その間もパーカーはベッドの上を走り続ける。

そう。パーカーはいよいよ走り出していた。


ミロの周りをぐるぐると時計回りに走り続け、たまにミロの足元のふくらんだ布団を飛び越えたりしていた。


パーカーは短時間で目まぐるしい成長を遂げているようだった。

それは生まれた瞬間に自分の足で立つことを課せられる草食動物的ですらあった。


「パーカー、走れるようになったんだね」

さすがのミロも驚きを隠せない。

「まあね。お前が遊んでくれないから暇で走りまで覚えちまったのさ」

皮肉ったようにパーカーは吐き捨てた。


「ごめんよパーカー。夜は寝ることになってるんだ僕。また明日起きたら遊んであげるからね」

まったく止まる気配のない弟パンダにそう告げてミロは再び体をベッドに預けた。


しかし騒ぎまわるパーカーのせいでなかなかミロは眠りにつくことができなかった。

「起きろよこらー。卑怯者めー。起きろー」

パーカーは永久機関のように朝までわがままを言いつづけた。



気が付けば、ミロは目覚めていた。

今度はお母さんの「ミロー。朝よー」という遠くから聞こえた声によって、覚醒した。


パーカーはというと、人形に戻ったようにマクラもとで宙を見ながら横になっていた。


ミロは大きなあくびをした。

そのままベッドに倒れ込みたかったが、お母さんが朝食を作って待っているのは明白だったし、お父さんはもう家を出発しているだろう。

ミロは自分だけいつまでも横になっているのは、どこか申し訳ないような気がした。


ベッドから床に降り立つと、ミロは小さく伸びをして自室をあとにした。


ミロが姿を見せなくなるとパーカーはゆっくりと上半身にあたる部分を起こした。


それは屍が棺から起き上がる不気味さに似ていた。


ミロの部屋は、ただ静かだった。

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