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1-6

純真無垢たる最大の所以は素直さにあるだろうか。


違う。

単純に知識量のなさだ。純真無垢は知識の総量に反比例するのだ。


しかし、それは無知であることと同義ではない。

天才と馬鹿と凡人とにかかわらず、人間として最低限の常識、社会規範を知っていることすらこの場合足を引っ張るからだ。


服を着るのが当たり前。ご飯を食べないと死んでしまう。排泄はトイレでするもの。

そのような人を人たらしめる初歩の不文律が邪魔になるのだ。

極論それすら取っ払った空っぽの人間こそが真の純真無垢であると云える。


子供というのは、その囚われている要素がいまだ少ない存在である。

それゆえに信じ難い事象にも己のフィルターをするりと通し、許しを与えてしまうのだ。

許しを与えることに強みをもつ、とある宗教の神様も純真無垢なのだろう。きっと。


そんな理論はさておいて、ミロの行動に一定の解が与えられたと仮に仮定したところで。



平日の朝、ミロはしゃべるパンダをその手にしていた。


と云ってもそのこと以外にパンダに不審な点はなく、ただ意志をもってしゃべるという一点のみが争点であった。

それは古今東西あらゆる神話や妖怪譚を並べても打ち勝つことができない最強の矛であったが、シンプルで単純でイージーなだけにあっさりと現実として許容された。


「昨日はしゃべらなかったのに。今日はしゃべるんだね」

ミロはパンダに話しかけた。


「俺もびっくりだよ。しゃべれるんだもんな。しかもパンダなんだな、俺」

パンダは自分がパンダであることに驚いているような節があった。

そして確認するようにしわがれた声でひたすら平坦に音を発していた。

入れ歯をしたおじいちゃんと同じくらいの聞き取りやすさかな、とミロは思った。


パンダは相変わらず動く様子はなく、ほんとうに人形のようであった。


昨日からの変化といえば、パンダ内の一部にごつごつとした塊のようなものが感じられ座れるようになったことと、しゃべれるようになったくらいのものだ。

もっとも、くらいと形容できるのはミロであるからで、同じ子供でもここまで冷静にはいかないだろうし、大人のほうが狼狽するのは確実であった。


「君は僕の兄弟なんだよ」

読み聞かせるようにミロは優しくそう告げた。


「そうなのか」

くぐもった声でパンダが答える。


「君の名前は?」

「名前かー……」

パンダは沈黙する。


「パーカー。K・パーカーだよ」

少ししてパンダはそう云った。


「そっか。よろしくねパーカー。ぼくはミロ。君のお兄ちゃんだよ」

ミロはパンダの手のあたりをぎゅっと握った。


「そうか。それはすごくいいね」パーカーは微動だにせずそう答えた。

そして、こうも付け足した。


それは友達よりももっといいね。

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