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いつまでも暗闇の中にあって朝の到来に気づかなかったのは、布団に埋もれて寝相悪く一夜を過ごしたからだ。
おかげで今日はお母さんが珍しくミロを起こしにきて、思わずハッとして布団を払いのけた。
らしくないミロにフフフ、と笑顔を残したままお母さんは退出していった。
いつもと違ったそれはじんわりと迎える朝ではなく、けたたましい鶏に安眠を妨害され必要のない焦りを携えて強要された覚醒。そのような感じだった。
すぐには思考が働かないようなのか、ミロはぼんやりと宙を見上げたまま怠惰な時間をむさぼった。
ふと、視界の端にミロはそれを見つけた。
それは昨日から家族の一員になった(非公式だが)パンダだった。
この新参者のおかげで昨夜はちょっとしたハプニングを乗り越えることができた。
そう思うと早速パンダと戯れたくなり、床に落ちているパンダを回収しようとベッドから動き出そうとした瞬間、ミロはそれに気づきびくりと身体を硬直させた。
そこには違和感があった。それはとても平易なまちがい探しであった。
けして座ることのできないはずであったパンダ人形がきちんと座っていたのだ。
足を前方に投げ出す形で直角に姿勢よく座っているように見えた。
おかしい、とミロは思った。
このパンダはうつぶせかあおむけしかできないはずであったのだ。
人間で云う腰の部分に土台となるような平たさはなかったし、足の付け根はやわらかく、曲げたところですぐに反発してまっすぐに伸びてしまうのだ。
昨日の遊びの時点で身体を固定できない不自由さを把握していたミロは、どうにも不思議に思った。
とりあえずパンダに近づきそれを拾ったミロ。
たしかにパンダには昨日にはなかったしこりのような固さがあった。
それは皮膚の上から強く押したときに感じる骨のようにも思えた。
そんなことに思いを巡らせている最中、信じられないことが起こった。
「優しく触ってくれよ、なあ」
窓とドアの閉められた密室空間で自分以外の声がしたのだ。
びっくりしたミロは両手で握っていたパンダをさらに握りしめてしまう。
「おおい!痛いって」
ミロは確信した。
いま声を出しているのは自分が握っているパンダの人形なのだと。
ボタンのようなものはなく、平凡なタイプの人形だと思っていたそれから発せられているのだと。
手の力を緩め、ごめんねと声を出してみる。
明確にパンダに向けたわけではなかった。
しかし、いいんだよ、とそれは返事をした。
ミロは自分の考えに疑いをもたなくなった。
しゃべってくれる人形が手に入った嬉しさや人形がしゃべり出した不気味さなんかがミロの頭を占めてはいなかった。
ミロは一つの生き物として、それを受け入れた。
血のつながらない弟ができたと、思った。