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1-4

ミロにしてしまえばその日もなんてことない一日で終わるはずだった。

もちろん両親からの嬉しいサプライズはあったわけだが、それを除けばとくに思い返すことのない埋没した一日であったろう。


でもそうではなかった。そうでは済まなかった。


異変は夜に起きた。

恐怖はきまって夜にやってくるのだ。とくに子供の場合は。



絵に描いたような家族団らんの夕食を終えると、ミロはお父さんとお風呂に入った。

お風呂をあがって髪をお母さんに乾かしてもらい、リビングのイスに着いてぼーっとテレビを眺める。

夜八時を過ぎたころになると寝るようにせかされるので、それまで時間を持てあますのがミロの日課だ。


テレビに収まっている人たちが何を言っているのかはよくわからない。

それでも家族以外の人間の会話には興味があった。


ミロは自分を育ててくれている両親以外には深い関係をもつ存在がいなかった。

こんなことを云うと祖父母は悲しむかもしれないが、常に生活をともにしている二人と自然比べてしまうと、比較にもならないのだ。

だからそれ以外の存在(ここでは血を分けていないという定義になる)はまして言うまでもない。


テレビの音に合わせてときどき声を出して笑っていると、そろそろ寝る時間だよミロ、とお極りの文句が飛んできた。

はーい、と素直に返事をしてミロは傍らに置いていたパンダ人形といっしょに自室へと駆けた。

と思うと、すぐにまたリビングに戻ってきて二人におやすみを言ってまた風のように去っていった。

ミロの両親は幸せそうに互いを見つめ合った。


部屋の明かりをつけずにそのまま子供用ベッドにもぐりこんだミロ。

いつもの定位置より少し左によけて、空いたマクラのスペースにパンダを寝かしつけた。


「おやすみ兄弟」

テレビで見たセリフのようにつぶやくと、一層暗い眠りの世界へと彼は旅立った。



一度眠ると朝まで起きることのないミロが目を覚ましたのは、夜中の二時であった。

壁に掛けられた宇宙の絵が描かれた時計を見ると、太い針がそのあたりを指していたのだ。


経験したことのない違和感にぶるっと一度身を震わせるミロ。

昔おねしょをしてしまったときに起こされたことはあったかもしれないが、こんな不思議な時間に一人で起きている瞬間はなかった。


不安材料はそれだけではない。

目覚めてしまった理由がぼんやりとだが、それとなく思い当たるのだ。

なにかよくない、つまり悪いイメージに追いかけ回されたような気がする。

ぼんやりと宙に浮いた黒のかたまりのようなものが常に後をつけてきた感覚が、起きてなおミロにつきまとった。


不安に駆られたミロはベッドを飛び出して両親の寝室へ行こうかとも考えたが、こんな時間に二人のもとへ行くことは、悪い子のすることのように思えた。


となりにあるパンダを見やる。

ぐったりと天井を見上げるパンダを今度は抱きかかえるようにしてミロは布団にすっぽりともぐった。


幸い、一人ではないと思えた安心感からか、ミロはすぐに小さな寝息を立て始めた。


しかし、ミロの健やかな眠りに反して異変は脈々と首をもたげ、翌朝には少年の眼前に顕在化する。

ミロの感じた小さな胸騒ぎは、一家に侵入したもう一つの他者の存在を示唆していたのだ。

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