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1-3

補足(※)→ 一般ピープル

ありとあらゆる分野で世界一を誇るアメリカにあって、サウスダコタ州なんてのははっきり言って埋もれた存在だ。

ましてミロの家があるのは州都でもなければ都会でもない。


街を構成する商業施設と商業施設の間隔は、車でなければうんざりするような距離を保っている。


そんなへんぴな田舎町で、公序良俗を愛するパンピー(※)たちの憎悪の対象、J・パッカーは命を落とした。

死の事実が伝わると、テレビが、ウェブサイトが、ラジオが、新聞が、SNSがその成れの果てをこぞって書き立て、声高に発表し続けた。


知名度だけで云えば、J・パッカーは一躍時の(死)人となった。


そんなわけで、ミロの両親がたまたまつけたテレビにJ・パッカーの死を伝えるニュースが流れていたのはなんら不思議なことではなかった。


それを見たミロの両親は害虫にも劣る人間の死を知って、愕然とした(断っておくが同情なんて一ミクロもしていないだろう)。


それもそのはず。

よりによって息絶えた場所が近所のおもちゃ屋「トニータイガー」であったからだ。


さらに付け加えると、のちに地獄絵図と化すそのおもちゃ屋で、二人は前日にパンダの人形を購入していたからだ。

全身に寒気を覚えた二人は欧米流に抱きしめ合って、互いの無事を安堵し慰めあった。


二人の意識は完全にテレビから遠のいたが、依然としてテレビはJ・パッカーを報道し続けた。

これまでの被害者や犯行の手口、過去に似たような犯罪を犯した者までついでに掘り起こし、またJ・パッカーの件に戻ると今度はその人となりを紹介し始めた。


余談だが、芸能人でも功績を挙げたわけでもない人間がここまで茶の間を席巻することは非常にレアケースで、土台凡人には無理な話だろう。

どんな類のものであれ知名度だけを追い求めるなら、凶悪犯となる道が一番手っ取り早いのかもしれない。



パンダを地に足つかせクールな二枚目の主人公を演じさせていたミロは、その舞台を自室から二階へ通じる階段へと移していた。

パンダ以外は空想の登場人物で補い、彼の中の物語はいよいよ終盤へ差し掛かろうとしていた。


クライマックスに向かうスピードそのままに今度はリビングへと駆けるミロ。

いい感じの両親には目もくれず(両親も二人の世界に入っていたが)、なにもないリビングの中心でパンダの存在を一段と輝かせた。


しかし、次の瞬間にはミロの知覚すべてはテレビへと注がれた。

テレビにでかでかと映ったJ・パッカーの正面写真(なぜか笑顔)がミロにとっては強烈だったからだ。


それは思わず目をつむってしまうようなガシャンと音のする尋常ならざるフラッシュで、ミロ少年の内面のどこかに焼き付けられた。

幼いミロに自覚はなかったが、忘れてしまいたいと思うものほど、こびりついて離れない汚れとなる。忘却はある種の禅問答だ。


すぐにテレビ画面はその人物の顔写真からスタジオにいるコメンテーターへと差し代わったが、ミロの視界にはいまだぼやけた輪郭のJ・パッカーがあやふやな三原色で画面内に混じっていた。


ミロは視界を真っ暗にするように目をこすると、もう画面はCMを映していてそこに不気味な笑みの男はいなかった。


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