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3-6

「白の主」は誰なのか。

それは、生きた心地に浸っていたミロの思考をそっくりと奪い去った。



さきほどの黒はパーカー(自称)だった。

そしてパーカーはどうやら人形としての生命を全うしたようだった。

それは志半ばだったかもしれないが、もうどうでもいい。


パーカーがいなくなったのだから、それはただの人形。

おもちゃ屋で売られているどこにでもある人形となるのであろう。普通。


だがしかし、さきほどそれはやたらめったら動き回っていたではないか。

腕を振り回していた。

仮に、パーカーの腕が途中で力を失い包丁が止まったのだとしたら、その部分は納得がいく。

でも、それだと、壊れたように無茶苦茶に動いていた腕のことは説明がつかない。


……むぅう。

だいたいそのようなことまで考えて、ミロの頭は思考(ショ)停止(ート)した。

わかりやすく煙が頭から立ち上りそうだった。


眼前の人形はそんなミロをゆっくりと待つように、ただゆったりと立っていた。

それを見てミロは思う。


やっぱりおかしい、人形が立つなんて……。


いままでそれを当たり前のように、疑うことなく受け止めていたミロ。

しかし、少年の中では今、謎を一度受け止め、そして、それからそれについていろいろ思考しようとするくせが萌芽しようとしていた。


真っ白な人形は依然、動かない。

それはミロの考える様を見守っているようでもあった。


せわしなく動く時計の針が一周したころ、少年なりの長考は終わりを迎えた。

残念ながら彼なりの結論を導き出すことはできなかった。

残念そうに、少し悔しそうにため息をつくミロ。


シロクマ人形はそれを見届けたように、ゆっくりと、一歩ずつ、歩み始めた。

ミロの方へ向かって。


ミロはすぐにそれに気がつき、少々身構えるように身体を硬直させた。

さきほどの恐怖体験があったばかりなのだから、それは仕方のないことだった。

もちろん、恩人足り得る存在に敵意を向けるつもりなどなかったが、ミロが緊張しているであろうことは誰が見ずともわかった。


J・パッカーと同じ動きながら、近づいてくるその速度には多少の違いが見受けられた。

白人形はゆっくりだった黒人形よりもさらにスローになって、じれったく距離を詰めた。


包丁がミロに突き付けられた位置にまで同じように来て、白人形は止まった。

そこで白人形は腕を伸ばした。


もちろんそこに包丁は握られていない。


ミロは差し出された形になった腕を見つめた。

腕に変わったところはなかった。しいて云えば、先ほどと色が真逆になったくらいだ。


握手かな?ミロは考える。

しばし膠着した時間が流れる。


わからない。

でも、それ以外思い浮かばない。

ミロはそれを交わすことにした。


白人形のようにゆっくりと、ミロも腕を上げだした。

それは徐々に吊られているような動作だった。


腕が動き出したとき、それは起こった。



「ミロ」



突然の呼名。

驚いたミロは思わず出しかけた腕をしまってしまった。


「ぇ。……な、なに?」

ミロは激しく動揺した。

人形は自分の名前を知っているようだった。


ミロはすぐにいろいろを考えようとしたが、うまくできなかった。

さきほどできたことが、今度はできなくなっていた。

それが余計にミロに焦りを与えた。

ミロの頭の中も真っ白になった。


「ミロは覚えていないよね」

白人形は落ち着いた口調で、優しく語りかけてくる。

黒人形の言葉遣いとは似ても似つかなかった。


それに対して沈黙するミロ。

ミロは思い出そうにもなにを思い出せばいいのかすら、それすらわかっていなかった。


「無理もないよ。ぼくだって完璧に覚えているかと言われたら、怪しいからね」

白人形は笑っているようだった。

人形の顔に変化があるわけではないが、ミロにはそんな気がした。


「ぼくのこと……知ってるの?」

ミロはぽつりと言葉を発した。

それは考えついた質問、というわけではなく、自然と口をついて出たものだった。

言って、ミロはやっと人形と会話できたことに気付いたくらいだ。


「ああ、知ってるよ。知ってるもなにも誰よりも知ってるさ。ミロのことで知らないことなんてない、なんてね」

人形はそう言って、少し照れるように首を傾げた。


ミロは急に、空っぽだった器にあたたかいものが流れ込んできたように、人形が愛おしくなった。

自分よりも小さな動物の赤ちゃんに向けるような気持ちだった。


な、なんで?

少しだけ恐れるように、か細い声でミロはそう尋ねていた。

そんな風に聞く必要はないのに、そんな感情なんて持ち合わせていないのに。

ミロの自由を奪ったように、ミロの身体はミロの言うことを聞かなかった。


そんなことには微塵も触れないように、白の人形は包み込むように答えを返した。

「そうだね。だってぼくはきみのお兄ちゃんだからさ」


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