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しんとした室内に立ち尽くすミロ。
扉こそ開かれたものの、そこはいまだに静寂を保ったままだった。
パーカーはどこに行ったのだろう?
自失していたミロはひとときの間を置いて、ふとそう思考した。
ミロはゆっくりと部屋の外に出た。
角部屋にあたる自室を出ると、右手にまっすぐ伸びた一本の廊下を進む。
途中、二階へとつながる階段が出現する。
「パーカー?」ミロの声が二階へと響くが返事は返ってこない。
可能性が狭まったわけではないが、とりあえず歩を再開してリビングを目指す。
木でできた床は小さくミシリと音を立てながら、ミロの移動を逐一知らせた。
廊下の突きあたりまで来ると、閉じられたリビングへの入り口がある。
扉は一部がすりガラスになっているが、中はぼんやりとしか窺えない。
意識したことはないが、とくに変わった様子もない、外から見るいつものリビングだとミロには思えた。
ゆっくりとドアノブを掴み、地面に向けてそれを押しながら前進する。
徐々に露わになる視界にも不思議な点はなかった。窓ガラスもちゃんと無傷だった。
一歩二歩と中に進んだ瞬間、急な違和感がミロを襲った。
それは重大ななにかを見落としているような焦りを生じさせた。
思い出したくはないが、思い出さなくてはならないものがある。
そんな逼迫した緊張感を漂わせた。
右手で扉を押して、視界は左側から右側へと開けていく。
リビングの前方におかしなところはない。
そのリビングに溶け込むようにキッチンが併設されている。
そこに異常は潜んでいた。
扉からリビングに入ってすぐ左手に、まっすぐ伸びた廊下のようにキッチンは備えてある。
その奥の方。
リビングに踏み入れるまでは見通せないところに、J・パッカーはいた。
それは行儀悪くキッチンの上に上がっていた。
人形なので、それは許されることなのかもしれない。
そんなとりとめのないことが浮かびかけた折に、それに焦点は合わさった。
否応なく、ピントはもっていかれた。
伸ばした腕と腕の間に器用にそれは挟まれていた。
ミロから見ると不思議でしかないが、それは絶妙なバランスで持たれていた。
見たままを云えば、握るという表現はふさわしくないだろう。
しかしそれははっきり云って、握られたような安心感でがっちりと保持されていた。
ひどく不安定な力点によって、意外にも均衡は保たれていたのだ。
人形の腕には一本の刃物があった。
それはミロのお母さんが日常的に使っているどこの家庭にもある代物だった。
J・パッカーはそれをいま、ただまっすぐと手にしていた。
柄の部分を白羽取りしたようにしている。
無論、その切っ先はミロの方を向いていた。
時が止まったように一人と一体は動かない。
次に動き出したときは、いよいよそれが行われることを、ミロの直感が理解した。
J・パッカーのほうも獲物と対峙した肉食動物のように、刹那を待った。
この世界から音は消えてしまったように、無が支配していた。
一秒が、圧倒的な粘度をもって、アメーバが通過するようにゆっくりと経過した。
気が狂ってもおかしくない、はち切れそうな時間が横たわった。
その中を眩暈と立ちくらみが同時に襲ってくるような不快感でミロは過ごした。
突如。
ピー、ガシャン。
リビングのテレビ台に設置されたDVDデッキが無機質な音をあげた。
世界は音を取り戻してしまった。
ミロはごくりと唾をのむ。
J・パッカーが、微笑んだ。
初めて、人形の顔が笑顔に歪んだ。
それはニタリと、きもちわるかった。




