2-9
無音に包まれた部屋にキィ、というドアのきしむ音が鳴る。
ミロは窺うようにしてゆっくりと子供部屋に入ってきた。
足取りの音と長さからして、おそらくまっすぐベッドへと向かってくる。
天井と平行なベッドに身を預けていたJ・パッカーは見向きもしない。
しかし、ベッドが揺れることでミロの到達を知った。
視界にミロが映る。
ミロは災いから目を背けるように、そうすることでまるで悪いことが起きないとでもいうように、J・パッカーに背を向けて自身に毛布をかけていた。
J・パッカーは心中ほくそ笑む。
蓄積されるエネルギーのもととなるそれが、体内で急激に精製されるのを感じたからだ。
それを正当化するように連想が止まらない。
大義名分、目には目を歯には歯を、外法には外法を、自衛権、毒を以て毒を制す、正当防衛……。
ぽつぽつと彼の頭には都合のよい響きが流れた。
それは心地よい調べとなって彼をふわりと浮かせた。
ベッドよりもはるかにやわらかい風にのっているように、彼は静かにまどろんだ。
その幸福が途切れたのは、どうしようもない力が彼の中でいよいよ満ちたからだ。
J・パッカーすらもさっさと打ち捨てたいと思うそれは脈々と休むことなく、生産され続けた。
力はあくまで副次的なものに過ぎなかった。
彼の身体を半分支配しているのは彼が生み出した感情そのものだった。
それはちょうど、彼の51%を支配しており、それがJ・パッカーを別人のような狂気へと駆り立てた。
J・パッカーは自身が破裂することのないように定期的にそれを発散する必要性があった。
J・パッカーは悲しい運命に気が付いた。
しかし、器を正常に保つことで彼には精いっぱいだった。
その先は文字通り、「力任せ」にするしかなかった。
J・パッカーは人形として生まれ変わったことで、この足枷――人間世界で生きていくには破滅的な――を知った。
J・パッカーにとってそれは、悔いるとかそんな類の話ではなかった。
ある一定の段階に達したところで、それが丸々意識を乗っ取るような感覚に近かった。
それでも、二重人格とかそんな症状として断定できるものではなかった。
なぜなら、自分の意志である「子供と友達になりたい」という歪んだ趣向のようなものが表にはあって、それが見え隠れしているために、彼はその先の過ちを許容してしまうところがあったのだ。
子供たちを殺してしまったことに対して「誰がこんな酷いことを」と忘れてしまったように、第三者的に思うJ・パッカーが、純粋な彼自身だった。
それでもそのときはやってくる。
スイッチが入れ替わるように、夜と朝と昼と夜と朝が切れ目なく入れ替わるように。
彼もまた、満ち足りて溢れ出す。




