2-6
朝、J・パッカーには翌日がきたという感覚はなかった。
ただ連続して、そのまま今日が昨日になっていた。
そして今日は明日になるのだろう。
すべてが途切れることなく、気づくことなく入れ替わっていく。
暦上、時間上、人が勝手にそう呼んでいるだけで、本来は昨日も今日も明日もないのだ。
すべてはつながっている。終わりはない。始まりもない。
ミロがなにやらJ・パッカーに話しかけてくる。
しかし、いまいち飲み込めない。
ミロは部屋から去っていった。
部屋に取り残されたJ・パッカーは動かない。
ただ動かない。
一度、ゆっくりと身を起こす。
しかし、それきりまた、動かない。
一時間という時間の単位ほど静止したあと、彼は突如最大のギアでノンストップでそれを始めた。
ミロのおもちゃ箱の中から野球のボールを見つけると両腕で強く握りしめた。
手に力がこもる。
暗いエネルギーが体の芯から滾々と湧き出て、体中に噴き出す。
黒色の体毛部分が白を侵食していく。
不思議と力が増していく気がした。
ボールを片腕で握りしめる。
ボールは腕に吸い付いたように離れない。
窓の方へ向き直ると地球の果てへ向かってそれを投げ出す。
もう一球ボールを掴むと、もう一枚の窓を突き抜ける。
J・パッカーは両腕にボールを抱えると、二階へと向かう。
異変に気付いたミロが恐る恐る部屋にやってくるが、J・パッカーはすでに二階の部屋に侵入していた。
寝室の大きな窓に一球。
となりのトイレの汚れた窓に一球。
そのとなりの物置部屋の小さな窓に一球。
そのとなりの書斎の窓に一球。
後ろで物が落ちたような音がする。
振り返るとミロが床にぐにゃりとなっていた。
その横をただ通り過ぎる。
階段を下りて再びミロの部屋に着く。
ただベッドに座る。
J・パッカーにはこれらの行動の理由も、やった感想も何もなかった。
ただ身体が自然とそうしただけ、だった。
あり余った力を消化したに過ぎない。
それは失った生理行動を穴埋めするかのようにナチュラルに行われた。
そして、一旦たがが外れた彼の行き場のないエネルギーは、枯渇することを知らなかった。