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ガキ(ミロ兼兄弟)はほっとくとすぐ静かになった。
それに、あいつにはあいつなりのサイクルがあるみたいで、あくまで俺のことを一人形としてしか見てないようだ、とJ・パッカーは思った。
タンスに座したJ・パッカーのミロ観察結果はこうだ。
兄弟、絵本を読む。
兄弟、ベッドでもがく。
兄弟、うとうとする。
兄弟、リビングへと走る。
兄弟、不在。
兄弟、おもちゃを取りに来る。
兄弟、退出。
兄弟、走り回って入退室を繰り返す。
兄弟、俺を見つめる。
兄弟、退出。
こんだけ暇なやつということは未就学児だな。保育園や幼稚園にもいまんとこ行ってないみたいだ。
ざっと三歳、いや四歳くらいのものか、腕を口元にもっていきながらあくびをするようにしてJ・パッカーはそう考える。
本来の無生物らしくじっと動かぬままあれこれ考えていた彼は、窓の外がすっかり暗い青をしていることに気付いた。
すぐにタンスから飛び降りるJ・パッカー。
受け身はとれずに、鼻から地面に落下する。
ミロに触れられたときと違い、痛みはなかった。
すぐにむくりと起き上がると、そのまままっすぐベッドへと向かった。
自分が寝られる身体なのかはともかく、自然とやわらかそうな子供用ベッドに彼の足は向いた。
どんな状況であれ、清潔なシーツがJ・パッカーを包んでいないと安心して日などまたげない。
それが俺のポリシーだ、J・パッカーは強く思う。
ミロが自分を置いていた定位置にたどり着くと、J・パッカーはとりあえず寝るふりをしてみた。
部屋の時計は夜六時を回ったごろだった。
普段なら今から酒を浴びるところだ。
それでも体感速度が人間だったころとは違うのか、はたまた人間仕様の家ではなにをするにも不便なのか。
正確な理由は不明だが、J・パッカーはあっさりとこの一日を通り過ぎる気持ちになっていた。
疲労感こそないが、年表に書き残されるであろうビッグイベントを、彼は今日一日で十分過ぎるほど経験した気がしたからだ。
しばらくすると、ミロも彼のとなりにすべりこんできた。
入眠のあいさつをされるとJ・パッカーも悪い気はしなかった。
さあ兄弟、いっしょに夢見心地といこうじゃないか、そんなことを考えながら、J・パッカーは天井と向かい合っていた。