2-1
J・パッカーは自らの死をぼんやりと悟った。
自分の身体が鉛玉を受け止めたことはわかったが、それが正確にはどの部分のことなのかはわからなかった。
ただじんわりとした温かさが湯気を放つように腹から逃げていった。
白がどこまでも広がる床に寝転んで、J・パッカーは思う。
警官やパンピーやくそ女や偉そうなリーマンやらすべての目から逃走してきたが、俺は外で寝たことは一度だってない。
どんなに激しい追跡に遭おうと、必ず屋根の下で、柔らかいベッドで俺は夜を明かした。
他人に追い詰められて、やり込められて、仕方なしに「今日は野宿だ」。
なんて、そんなのは人生じゃない。少なくとも俺にとっては。
眠い目をこすりながら寝る間を惜しんで血眼で俺を探す奴らのすぐ後ろで俺はいびきをかいて寝てやるのさ。それが最高にクールってもんだ。
だがどうだ。
今の俺は?
周りにいるのは友達ではなく、腐った目でこっちを窺ってるポリ公のみ。目を凝らせば遠巻きには人か蠅かもわからん輩がうじゃうじゃいる。
そして、そいつらの汚い足がべたべた歩く地面に俺の目尻はぴったりくっついてる。
なんだこの●●●●●●な現実は?
おまけに、こんなくそ最低な状況下で俺はうとうときてやがる。
寝てる場合か、このキューティー天使め。
友達Million作るんだろうが、しっかりしろ!!
でもどうだ。
眠いもんは眠いよな。
ポリシーなんて鼻をかんでポイだ。
しょうがねえ、ここは一回捕まってきれいなベッドで目覚めるとするか。
グッナイ、そこのパンダちゃん。
ウィンクをして、J・パッカーの意識は途絶える。
次にJ・パッカーが目を覚ましたのは、きれいなベッドではなく子供の手の中だった。
死の世界から生への切符をもぎ取った、彼の最初の感想はこうだった。
なんだこいつ?
J・パッカーは自分を覗き込む少年に思い当たる節がなかった。当然ながら。
ところで、彼は友達との友情を忘れない。ゆえに友達を忘れない。
つまりJ・パッカーは、ミロがこれから自分と友達になる存在なのだとすぐに気がついた。
と同時に、あまり人に触られたことのない足の付け根の痛みに彼はすぐに反応した。
それは声となって少年とJ・パッカーの耳に届いた。
ミロはもちろん驚いた様子でJ・パッカーを見た。
そして、J・パッカーもミロを見た。
ミロが言いかけた瞬間、J・パッカーは悟る。
俺は何だ、と。
そしてすぐに答えを授かった。
J・パッカーは人形らしかった。
それも、正確にはパンダ人形のようだった。
しかし、彼は混乱もしなければ、狼狽もしなかった。
なぜなら彼の前世の記憶が、すぐに人生の目的を見出したからだ。
目の前の男の子を認識したことによって。
しゃべるパンダ人形を手にしてか、少年は興味津々だった。
早速、摩訶不思議なこの生き物の名を尋ねてきた。
しかし、尋ねられた方も困った。
アイデンティティなんてものはこんな生誕したばかりで確立されていない。
いや、でも名はある、とJ・パッカーは思う。
とりあえず万が一を考えて彼はJ・パッカーと名乗るわけにはいかなかった。
もちろん冷えた頭で考えれば、万が一なんて起こり得るはずもないことは彼でさえ百も承知のはずだったが。
J・パッカーは噓をついた。
しかし、友達に嘘はつきたくない。
そこで言い間違えと大差ないレベルの名を少年には明かした。
すると、ミロという少年は彼にとっておきのプレゼントを与えてくれた。
それはJ・パッカーにとって友達以上の至高を秘めた可能性そのものだった。
J・パッカーは第二の人生の開幕に、胸躍らせた。