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1-10

寝ぼけまなこでテレビをぼーっと見ながら朝食をもぐもぐするミロ。


お父さんは仕事に行ったらしいし、お母さんも外出する用事があるらしい。

家の中をあっちにこっちに走りまわっていたかと思うと、お母さんは風のように外へ飛び出していった。


何の気になしにいつも見ているテレビ番組も終わりを告げたので、ミロはリモコンを手に取り電源を落とした。

さきほどまでそれなりに活気があった家は、途端静寂に包まれた。

家には幼いミロと小さいパーカーしかいなかった。


焦げかかったトーストを食べ終えたミロは、もう一度寝ようかな、と考えていた。

その矢先、ガシャン!という大きな音が室内中に響き渡った。


その音を聞くや、寝るという選択肢をすっかり忘れたミロは嫌な予感たっぷりに子供部屋があるほうを見た。


自室を目指す足取りは重かった。

昨日パーカーは写真立てを落としたばかりだ。しかも今回はそれよりも破壊的な音がしていた。


なにかが破損したことは確かなことな気がした。


廊下をぺたぺたと歩くミロの耳にまたしても、ガシャン!という大きな音が飛び込んできた。

驚きを通り越して、ミロは焦りを覚えた。

パーカーなにやってるの!?心の中で叫ぶ。

居ても立っても居られずミロは走って部屋に突入した。


ミロはその幼い目を疑った。

驚いたことに、部屋に二か所ほどある窓がどちらも割られていたのだ。

その両方ともが手のひらサイズのボールでも突き抜けたような穴をこさえていた。


「パーカー!」

探すよりも先にミロは叫んだ。

「君なんだろ?パーカー」

ミロの呼びかけにパーカーは答えない。


首を左右に振るがパーカーの姿はない。子供部屋にパンダらしき面影はなかった。

すると今度は、二階らしきほうからガシャン!という音が響いた。


ドアのほうを振り返るミロはすでに暗然たる気持ちになっていた。


やったのはおそらくパーカーだ。

しかし、それを一体誰が信じるだろう。そして誰が証明できるだろう。


パーカーが声を発し、動作することを心得てからすでに二日ほどが経過していた。

その間ミロがパーカーから目を離した隙は数えきれないほどあり、パーカーと両親が接触したであろうタイミングはいくらでもあった。

少なくとも、お母さんは毎日ミロの部屋を掃除するので、パーカーを目にしない日はないといえた。


にもかかわらず、両親が驚いた素振りを見せることはなかったし、その話が食卓の話題に上がることもなかった。

つまり、パーカーは意図的にミロの前では行動し、意図的に両親の前では沈黙を貫いているのだ。

その真意はわからないが、その理由はなんとなしにミロにもわかる気がした。


ミロはすぐに正気を取り戻すと、慌てて階段を目指した。

「パーカー!もうやめてよー」

ミロは階段をのぼりながら、半ば泣きそうになりながら、そう呼びかけた。


ミロの嘆願を嘲笑うかのように、またガシャンという音が返事のかわりに返ってきた。


ミロの心はその音を聞くたびに、なにかを失った。


最後の音がしたお父さんの書斎に入ると、パーカーの後ろ姿があった。


パーカーの奥を見ると、やはり窓は同じ形跡で割られていた。


ミロはその場に崩れ落ち泣き出す。

四歳の少年には刺激が強過ぎた。


パーカーは言葉を発することなく、ただ静かにミロの横を通りすぎて階下へと下った。

書斎に取り残されたミロは、悲しみと怒りと動揺とがないまぜになった感情のやり場を知るわけがなく、ただただ地べたに身を置くしかなかった。

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