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ホラーっぽいのベースに、書きたい文体がちょくちょく入り込んでます。

「はぁはぁはぁ、俺は、友達がほしいだけなんだよーーー!!」


あまりにも独りよがりな発言を残して、最悪のサイコ野郎、J・パッカーはこの世から姿を消した。


「全米を震撼させた」

なんてお粗末な表現がはっきりと意味をもつのは、このような極悪な事件の場合にかぎる。




サウスダコタ州の州都であるピアから車で100kmほど行ったところにそのおもちゃ屋はある。

日本で云うところの100kmとアメリカで云うところの100kmには大きな隔たりがあるが、ここは十分に都会から遠のいた田舎町だった。


だだっ広い駐車場には優に200台は駐車できるようにそれぞれを律した白線が、駐車場入り口からおもちゃ屋の入り口まで途切れることなく続いていた。

それは見ようによっては客をエスコートしているかのような錯覚を人々に与えた。


広いのはもちろん駐車場だけではなかった。

三段重ねになって売られている豆腐のうちの一つのような平たい形をした建物は、高さを捨てひたすら奥行と幅で勝負をしたように、敷地いっぱいに面積を誇っていた。


おもちゃ屋「トニータイガー」は、黄色に塗られた建物正面にカラフルな文字で店名がつづられており、私生活にはうんざりしてとても取り込めない色彩を放っていた。

しかしそれは大人にかぎった話で、トニータイガーを通りがかった子どもたちはみな車内から夢の楽園への下車を要求した。


そんな子供たちの聖地は一夜にして評判を地の底へと落とす。

もちろんこれも大人の間にかぎった話だったが。


最低最悪の下劣な殺人鬼としてここ半年ほど全米に悪名を馳せていたJ・パッカーが、トニータイガー・ビーサウス店にて銃殺されたのだ。


よりによって子供たちの楽園でJ・パッカーが死んだのには理由がある。

それは、J・パッカーが幼児連続虐殺犯として指名手配された犯罪者だったからだ。


J・パッカーは自分よりも幼過ぎる子ども、それも三歳~五歳くらいの子をターゲットに暗躍していた頭のネジの溶けた男だった。

生前の彼の言動から、J・パッカーはこれらの年齢の子どもたちを相手に友達になろうとしていたことがわかっている。




「はぁはぁ、はぁ」

悲鳴と物音と怒号と場違いなBGMが混在した店内で、決死の逃走劇(J・パッカーに言わせると追いかけっこ)は行われていた。


J・パッカーはすすけた色の作業着のような衣服を振り乱しながら、黒人と白人のポリスマンの追跡から逃れようと必死だった。

大きくM字模様に禿げ上がった頭髪は薄い色の金髪で、J・パッカーの進行に合わせ風になびいていた。


店の入り口から最も遠い、壁と壁がぶつかる建物の四隅の一つに追いやられたJ・パッカーは万事休す。

ちょうど壁に平行するように設置されたおもちゃ棚同士の接点、つまり九十度の角度の頂点の位置にJ・パッカーはいた。

そこから両サイドに伸びていったおもちゃ棚の先にはそれぞれのポリスマンが瞳孔の開いたような目でJ・パッカーを見つめていた。


銃をJ・パッカーに向けながらにじり寄ってくる白人警官Aと黒人警官B。

J・パッカーはただでさえおかしい頭がさらにおかしくなったように叫び始めた。


「なんでだよおお!」

そのような意味の、意味のないことを叫んでいたと警官ABはのちに語ったらしい。


それから発狂したように頭を抱えたJ・パッカーは次の瞬間、薄い作業着風のどこにあったのか、内ポケットから銃を取り出し引き金を引こうとした。

しかしJ・パッカーが気づいたときには、彼は白くきれいに掃除されたトニータイガーの床に汚らしく寝転んでいた。


ほどよく温かい血が彼の視界にも映りこんできた。


「はぁはぁはぁ、俺は、友達がほしいだけなんだよーーー!!」

彼なりにも無念なのだろう。悔しそうなことを叫んでいるようだった。


薄れゆく意識と狭まる視界の中でJ・パッカーが最後に見つめていたのは、多彩な色をした段ボールに入ったテディベアのおもちゃコーナー。

その中にぎっしり並べられたパンダだった。


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