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第14部;十二月〜別れ〜-6

 アキラは適当なボロ着に三角巾を頭に被って掃除をしていた。

 広すぎる家は、一晩でアキラの手に負える代物ではない。虚しさばかりが身に染みる。しかし意外と几帳面な彼女は、掃除をせずにはおれない。

「大体、新年だの何だのって、カレンダーが新しくなるだけでオレは何も変わらねぇし、普段から掃除してるんだから、本当はしなくてもいいんだけどよ……。ちくしょう、永久カレンダーに変えてやる」

 ぶつぶつと独り言を呟きながら、アキラは台所を磨いていた。

「ってオレ、朝からメシ食ってないじゃん」

 アキラは時計を見て、肩を落とした。

「九時じゃん。……って、年の瀬に冷蔵庫が空って、どういうことだよ。店に行くにも、未だ誰かうろついてる時間だし、しゃあねぇな、歩いて行くしかないか。ったりぃ……」

 アキラは瞬間移動を使えないことをぼやきながら、身支度を整え玄関を開けた。

―――今日はつくづくついてない……

「あのなー、何で雪が降っとんねん」

 思わず二年間使い続けたエセ関西弁が出てしまうほど、外は白く染まっていた。

「着替えっかな、面倒だな。傘、傘と……」

 家の中に傘を取りに戻ろうとしたアキラは、気配を感じて振り返った。

「カズヤだな、そこにいるの。隠れてないで、出てこい」

 厳しいアキラの声に、木陰からカズヤが姿を現わした。


「お前、バカか?用があるなら呼び鈴鳴らせよ。ボロ家でもそれくらいはあるし。ったく雪の中、傘も差さずに何時間立ってたんだよ。オレが出てこなかったらどうするつもりだったんだ。風邪ひくじゃないか」

 おずおずと姿を現したカズヤに、アキラは情け容赦ない言葉をぶつける。一応最後には優しさもあるのだが、頭ごなしに言われて、カズヤは思わず小さくなった。アキラなりの優しさに気付いてはいるのだが……。

「すぐ帰るつもりだったんだ。じゃ……」

「じゃあって、お前、喧嘩売ってんのか。用があるから来たんだろが、こんな天気の中。ああっ、もう、じれったいなあ。とにかく中に入れ、バカ」

 屋根のあるところに、アキラは強引にカズヤを引っ張ったつもりだったが、逆にカズヤに引っ張り返され、大柄な彼の胸板に引き寄せられ、その長い腕に囚われる。不意打ちのような行動に咄嗟とっさに対応などできるわけなく、全く状況が把握できないままに、アキラはカズヤの鼓動をしばらく聴いていた。


 その大きすぎる胸は暖かすぎ、その鼓動は懐かしすぎた。


 アキラが逆らうことを忘れているのをいいことに、カズヤはその腕の力を切ないほどに強めていく。


 六年かけてようやく忘れていった人の温もり。他人を憎む思いと相反するこの感情。二つの感情で板挟みになって、だからこの六年間苦しかったのだ。

 ようやく両親の温もりを忘れたというのに、それを呼び覚まさせるこのカズヤの鼓動。

―――甘えちゃいけない。忘れなくちゃ……

 自分の感情をやっと思い出した時、アキラは一瞬でも甘えたくなったそんな自分に対し、腹立たしさを覚えた。

―――ふざけんな!


 アキラは瞬間移動で抜け出した。思わずカズヤの体勢が崩れる。

「大体、生意気なんだよ。お前を守るって、ガキの頃に約束したのはこのオレだ。現に、オレよりも弱いくせに」

「自分のことは、自分で守れるくらいの力はあると思うんだ。その為に空手やってたんだし。それに、アキラが守ってくれる必要はなくなるし」

「はん!それが新年の抱負か。いい心がけだ」

「そ」

 カズヤは彼らしくなく、陰のある笑みを一瞬見せて、雪の中へと駆け出していった。

「おいっ、待てよ。それだけかよ!ふざけんな!」

 しかし、アキラは追いかけなかった。間の悪いことに電話が鳴っていたのだ。

「くそっ」

 アキラは電話を取り上げた。仕事上の電話が転送されてくることもあるのだ。


「はい?」

 ナンバーディスプレイで誰だかは判る。

 結局その電話は仕事のものではなかったが、不機嫌な声のまま、アキラはついでだから取り上げた。

「あ、アキラ。カズヤ見なかったか?」

 名乗ることを忘れるくらい、サキは相当焦っているのが感じられた。嫌な予感がアキラの心の中をよぎった。

「どうしたんだよ?」

「ん、知らなかったらいいんだ。じゃ……」

「じゃあって、さっきからお前らは、そろってオレをバカにしてんのか。知りたいのか知りたくねぇのか、はっきり言え!」

 よっぽど受話器を投げつけてやろうかと思いもしたが、そこは堪えてアキラは怒鳴った。

 暫く迷ったようにサキは口をつぐんでいたが、アキラの剣幕に気圧けおされて、ぽつりと話した。

「口止めされたんだけどな、あいつ、転校するんだって。東京サ行くんだって、これから。オレも今初めて聞かされてびびってるんだよ」

「何だって!」

 アキラは大声を上げると、予告なしにサキのことを呼び寄せた。


「頼むから、予告してくれよ。こっちはあんまし慣れて……」

「あのくそガキ、ぶん殴ってこい!慣れてないなら、足跡辿たどってけ!都合がいい時だけ病人かよ!」

 サキの言葉をさえぎって怒鳴るアキラに、サキは立ち上がれないくらい打ちのめされたような気がした。

 何てことだろう、あのアキラが自分の感情を剥き出しにしている。

 目の前にいる少女は、肩を震わせて怒っている。それは一人の少年が煮え切らない態度を取った所為せいだ。自分が侮辱されたわけでもないのに怒るアキラではない。

 自分はなれないことを知っていた。しかし、何もよりによってカズヤが―――?!

次回、『約束された出会い』編 最終回となります。




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