第14部;十二月〜別れ〜-4
「っつーのはいいとして、実は『瑞穂』の長だったオレが『日本の王様』疑惑な。それは、オレを含めた『瑞穂の谷』という組織が、政治や経済を動かす力だからだよ。
オレらは自分たちの目的の為に、各界の有力者に近付く。その野望が我々には邪魔なのさ。だから叶えてやるんだ」
「え、叶えちゃうのヮ?」
「そう、叶えるんだ。
連中の欲なんて、誰かを蹴落としてその地位と名誉と金を得ることばっかり。理想や他人の為になんて頑張るやつなんかいやしない。今まで地位に甘んじていた人間と、これからそこを目指す人間、オレらにとってはどっちも同じく邪魔なのさ。だから欲望を叶える為に何人も地位から引き摺り降ろす。そして結局は連中は共倒れさ。
本心から高い理想を掲げて、困った誰かの為に滅私奉公できるような精神の持ち主だって判れば、それこそ本気で応援もするし守ってもやるさ。ま、会ったことないけど。
そんな欲の塊なんて、日本だけじゃない、最近じゃ世界中にいて、自己実現したいと強く願えばオレの顧客になるし、そいつらを利用して目的を果たしたいと願う連中はオレらの敵になる。
何も『瑞穂の谷人』だけじゃないんだぜ、欲の塊を利用して目的を果たそうとする輩は。そいつらは『瑞穂の谷人』と同じように陰で暗躍していて、その中に、能力者がいてもおかしくないわけだ」
アキラは、あの妖しい笑みを浮かべた。自然とその笑みは浮かんでしまうらしい。
「昨日の男のことは判らないけど、以前話した、分家の弟御子一族の目的は知っている。奴らは人間第一主義の世界を作りたいのさ。そんなんやられたら、それこそ世界が滅びるわ。ああ、やだやだ」
アキラは「サキの入れてくれるお茶は美味いよなぁ」と呟いて、コップのお茶を一気に飲み干した。
「そろそろみんなも来る頃だし、この話、止めような。こっちがシケてくる」
アキラは椅子に座ったまま、両手両足を大きく伸ばした。
「ねえ、アキラ」
「何や、カズヤ?」
アキラのエセ関西弁が復活しているのだから、この話は終わりのはずだった。
「人、殺したことあるの?」
アキラの顔が一瞬固まり、思わずサキは拳を固めて立ち上がり、それでも何とか堪えた。常識で考えて、誰だってこんな不躾な質問に答えたがるわけがない。サキは思わずその身を震わせた。天然パーにも程がある。
アキラはサキの気持ちに気付いたのか、目で彼に座るように促した。そして口ではさらっと重たいことを言ってのける。
「さあな。直接手を下したことはないけど、自殺に追い込んだことくらいなら、数えきれないくらいあると思うぜ。目の前で死ぬわけじゃないから、オレは何とも思わないけど」
「あ、そう……」
アキラは平然を装って答え、カズヤは別に興味が満たされて終了している。
アキラに止められたから堪えたけど、サカキの怒りは収まらない。そしてそのことに気付いた時、サキは自分の感情に気付かされた。
傲慢で尊大で、そして残酷なまでに冷たいことをアキラは平然と言ってのけているのに、サキはアキラのことしか心配していないではないか。これがもし赤の他人なら、サキは絶対その人を軽蔑するはずだ。
サキはアキラを守りたかった。彼女を頑なにさせるもの全てから、彼女を守りたかったのだ。そしてそれは限りなく不可能に近い。
報われない恋の行方に、サキは一人困惑するしかない。
「さあ、今度ルール違反したら、ぶっ殺すからな。飢えた人間の気配を感じるさかい」
アキラがそう上っ面で笑うと同時に、階下からポンの呼び声が聞こえてきた。
そして何事もなかったかのように、お好み焼きパーティが始まるのだ。
時間は淡々と流れる。
「先生、アキラのソロコンのテレビ、今日放送だったっちゃね」
「そうなのよ……」
授業の準備の為に職員室に来たサキは、葵に話しかけた。
「どしたのヮ?」
葵の気乗りしない返事に、サキは訊いた。
「だって、アキラ、最優秀賞だったんだサ?」
「考えてごらんなさい、あのアキラよ。授賞式に何もないと思う?」
「やっちゃったんだ」
「仮にも国営放送だからね、カットされてるわよ……。賞を取り消されなかったのが奇跡ね」
葵とサキは、二人してため息を付いた。アキラが絡むと、二人はどうしてもため息が出てきて仕方ない。
とはいえ気になって仕方がないサキは、録画予約はしてある。そして家に戻るなり、楽しみにしていた録画を再生した。
案の定、アキラの演奏は素晴らしいものだった。地元新聞では、「彗星の如く登場!」などともてはやされていただけある。最優秀賞は当然のことだった。
でも問題は、葵が嘆いていた授賞式だ。
壇上のアキラは、お約束通りの仏頂面だった。しかしそれ以上はさすがに放送していなかった。
「だよなぁ」
サカキは一人で笑った。実はコメチから、放送されなかった爆笑ビデオを借りてある。
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