第14部;十二月〜別れ〜-3
本当にアキラにとってはどうでもいいことらしく、彼女の興味は男の移動原理の方にあるようだ。
「それにしても、あの男、色々と知ってそうだったな。それに、よく時間移動をしようと思ったもんだ。オレ、しようと思ったことないしから、マジでおっかなかったし。
今回、瞬間移動の原理を、時間まで含めて応用してみたんだけど、運が良かったとしか思えない。だって、オレ、方法知らないで試すしかなかったんだぜ」
何事もなかったから笑い話で済むが、その話を聞かされた今、二人の全身に鳥肌が立っている。
「いや、感覚としては時間と空間を自分の方へ折り曲げて近付けて移動するんだけど、その折り畳まれた部分にいた当人たちが、偶然巻き込まれてああいう事態に陥ったとしか思えないな。きっとあの男も移動し慣れていないんじゃないか」
「っていうと、あの男はこれから先も、ちょくちょくオレらの過去に向かう可能性があるってことか?」
サキは首を傾げた。
「可能性は無きにしも非ず。でも、オレは現在を守ることはできるからな、今この瞬間から過去への時間を守ることができる。やっていいな」
二人は何が何だか解らないまま、それでも頷いた。それを受けて、アキラは二人の額を軽く指で弾いた。
「ったく、あの足で赤ん坊の頃にまで遡られたら堪ったもんじゃねぇな。もしかしたらあの男、失敗してあの時代だったのかな」
アキラはぶつぶつと呟いた。
「でも、どうしてオレらの超能力がバレてんだろ?アキラが長だってばれるのかなぁ?」
そのカズヤの疑問は尤もだ。
「それはないな。一族でオレの本名を知っているのは三人くらいで、普段は無関係だし、これからもこのままだ。
だとしたら、お前らが公表するか、奴らの側にそういうのを嗅ぎ分けられる能力者がいるんじゃねぇの。どうでもいいけど、ああいう連中がこの先現われるって判った以上、オレが黙っているわけないじゃないか」
アキラは楽しそうにしている。
「さっき静観するって言ってたじゃん」
「そりゃ、仕留めはしないさ。だけど黙って待ってるつもりもないね。水面下で調べるに決まってるだろ。そして先方が動き出したらすぐに仕留めるのさ。
大体、あいつはオレらがあの時代の人間だと思っているわけだから、同一人物を見つけられるわけないじゃん。でもオレらはあいつが未来から来たって知っている。準備は必要だし、過去に干渉したらそれだけの報いがあるってもんだ」
「強気だねぇ、姐さんは」
「先手必勝って言うんだよ。お前はいっつも、後手後手だからな、カズヤ」
どうもアキラは詳しくは話さないらしい。しかしそれは、サキとカズヤの信頼度の違いではないようだと、サキは感じた。
「ところでさ、『瑞穂の谷人』っての長は『この国の王』って言ってたけど、アキラ、実は日本の王様なの?」
あまりに突拍子ない言い方に、アキラは遠慮なく吹き出した。
「お前はさあ、そういうことはしっかり憶えてるんだよな」
アキラは嫌味ではなく言った。聞かれたことには、ある程度は答えるつもりらしい。
「まあ、王様じゃないってことはたしかなんだけどな、解るように説明してやるよ」
「いいのヮ?」
「オレはバカじゃないぞ、カズヤ。話して大丈夫なことしか話さないって、なあ、サキ」
カズヤを笑うアキラの顔が、サキを切なくさせた。
「『瑞穂の谷人』は、過激な環境保護団体だと思ってもらえればいい。お前らとか、他の能力者のことは知らねぇけど、オレの能力は自然を穢すものを抹消する為に与えられた力と言われている」
「穢すもの?」
「人間。生態ピラミッドを崩す存在だから」
アキラはあっさり言ってのけた。
「何、固まってんだよ。オレはここに来てサキに教育されたっけ、考えが改まったんだぜ。
確かにオレの能力は、人間を滅ぼすだけのものがあるかもしれない。でも今は、全滅させようなんて思っちゃいないって。自然のありがたみが解らないような人間を消すのに遠慮はないけど」
「え、消すって……?」
「言葉通りさ」
驚きの表情のカズヤなどお構いなしに、アキラはあっけらかんと言い返した。
アキラはサキが出したお茶を飲んだ。
「残念なことに、オレは大して人間が好きではない。だから、消すことに躊躇いはない。ぶっちゃけ、どーでもいいってやつ。
どうせ親もいないし、いつも生命を狙われてるし、こんな状態で、どうして人間が好きになれるかってんだ」
たしかに尤もな言い分だと、サキは思う。
「オレらの一族はな、『空蝉の一族』って呼ばれてる。
同属である人間を憎むことしかできない虚しい心に縛られてしまった一族だからだそうだ。
人間を愛しちゃ過激な環境保護はできないし、その為に与えた能力が無駄になるっけ、そういう性格を一族の共通のものにしたんだろうな。オレはオレだから、別に知ったこっちゃないけど。第一、オレはそういった『決められたもの』ってのが大嫌いなんだ。
だけどその『決められたもの』ってのを意識的に変えようとすればするほど、現実がよく見えてくるもんだ。すると、与えられた性格を事実として受け入れる必然性を身に染みて感じる。
人間なんて、信じるほどに裏切られる。だから信じなければ裏切られない、そう思っていた。
でも神森に来て、サキたちに会って、人間には守るに値する人間とそうじゃない人間がいるってことに気付かされた。ってことで、感謝してるんだぜ、お前らには」
また話し下手がまくし立てるように喋り続けてしまっている。
話が横道に逸れそうになっていることに気付いたのか、アキラはそこで再びお茶を啜った。
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