第14部;十二月〜別れ〜-2
「仰る通り、山奥に身を潜めた謎の一族の話ですから、私も詳しくは知りません。ただ、その『姫巫女一族』の長を捜しているという、とても美しいお方が、この型を私の祖父に伝えたのです。その方が仰るには、将来この地に『姫巫女一族』の長が現われるかもしれないから、その時の為に、大樹の森の守護者の家の息子たちに、この型を伝えるように言われたのです。まあ、もう一人の方は興味なくて駄目でしたけど」
カズヤのことだと判るから、三人は顔を見合わせてくくくっと笑った。
「祖父の話によると、その女性は自らを正統派の継承者であると名乗っておられたそうです。
我々は祖父の遺言として受け継ぎ、この子の父親にも教えてあります。ただ一般的な型ではないので、稽古の一環として名前も教えずに伝えていたのですが、だからこそこの子は気になったのでしょうな。今、初めて理由を口にしたくらいですからな」
すぐにアキラは気が付いた。全ては水鏡の仕組んだことだ。
「でも、師匠。前にも言ったかもしれないけど、今の型は、大樹の森の巫女舞に似てると思うんだ」
「そうかもな、賢木。繋がりがあるかどうかは知らないが、巫女舞など、何処のものも似たようなものなのだよ」
師匠はゆっくりと立ち上がった。
「賢木の勝手な疑問に付き合ってくれて、私からも礼を言うよ。アキラさん、ありがとう。
怪我には気を付けなさい。賢木よりも和哉からいろいろ聞いてはいるが、かなり無茶をしているらしいからね。何かあったら、ここで発散すればいい」
「ありがとうございます」
優しい師匠の言葉に、アキラは頭を下げた。
「結局、サキは何が知りたかったんだ?」
帰り道、アキラはサキに訊ねた。
「オレの型と、神社の巫女舞との違いか?それともオレと神社の繋がりか?それなら前にも話したけど、オレは滅びた一族の霊鎮めの為の神社の巫女であって、豊穣祈願の大樹の森とは違うはずだぞ」
「憶えてるけど……」
サキは言葉を濁した。正直、それ以上のことは考えていなかったのだ。むしろ『瑞穂』という言葉の関連性の方が気になっている。
「お前には本当のことを言っておくけど、お師匠様が言っていた『姫巫女一族』の長な、あれ、オレのことだ。そして伝えたのはきっと水鏡さまだ」
「え?」
サキはまじまじとアキラの顔を見た。『長』ということは、リーダーだ。でもアキラは明らかに子供だ。
「ま、年齢よりも血統が大事だってことで。前にちょっと話したよな、オレの一族のことは」
サキは混乱していた。単に自分の疑問の為にしたことが、アキラの本性を抉ることになるとは、思いもよらなかった。
「……悪かった。考えなしで不用意だったな」
「気にすんな。何れお前には話さなければならないと思ってたことだからな」
アキラはあっけらかんと言った。
そういう態度のアキラに気遣いは無用だと心得ている。サキは質問を続けることにした。
「じゃ、お言葉に甘えさせて戴きますけど、昨日のあの男も言ってた、『瑞穂の谷』とか、全部関係してるってことなのヮ?」
「そういうことらしいが、オレも判らない。
常にオレは生命を狙われている身だし、もしかしたら、お前らに『瑞穂』の型が伝えられていることを、さっきの男は知っていたのかもしれないな。我々の情報網は半端じゃないから」
「オレは、何が何だか解らないよ」
サキは音を上げた。
「解らなくたっていいさ。とにかく、オレが四年後もきっちり守ってやるから」
アキラは珍しく楽観的な意見を言った。
「さ、これからカズヤも交えて事情説明っと……
ったく、あいつ、変な誤解しかねないからな、オレは一回自宅に帰ってチャリンコでお前ン家行くから」
そう言い置いて、アキラはさっさとサキの目の前から姿を消した。
「他のみんなが来る前に、昨日のことを詳しく説明しとこうか」
さっきまで一緒にいた素振りなど微塵も見せず、アキラはカズヤとサキを前に話し始めた。
「あの胡散臭い男は、四年後の時間から、十年前の時間に移動したらしい。目的は、『瑞穂の谷人』と呼ばれる一族を滅ぼす為に超能力者を集めているらしい。
きっとお前らは四年後に誘われて、断るか逆らうかするんだろう。だから子供の頃に戻って、手懐けようとしたんだろな」
「アキラは昨日、自分も『瑞穂の谷人』とか何とかだって名乗ってたけど、それ、何なのや?」
事情を聞いていないカズヤは、当然の疑問を口にした。
「ずっと前に話したよな、オレの一族のこと。それが『瑞穂の谷人』って呼ばれてるんだ。ということは、オレがあの仮面の男が倒そうとしている相手ってわけ。何せオレが『瑞穂の谷人』の長だからな。
まあ、オレらの一族を目の敵にしている団体は一杯いるから今更だけど、あの男もそういう団体の一つなんだろう。こっちとしては弟御子一族と手を組まれたら困るから、今のうちに潰しておきたいけれど、それが元でお前らの存在を公にすることは避けたいから、今回は静観することにする。
……考えることが多くてウンザリだよ、まったく」
「いや、うんざりってそんな簡単な……」
カズヤの疑問も尤もなのだが、サキには腕を組んでため息を付くアキラの気持ちが、何となく解るような気がした。彼女にとっては生命の危険など当たり前の日常で、自分の身を守れるだけのものがある彼女にとっては、ただそれを使うことが面倒なのだろう。それほど当たり前になってしまっているということだ。
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