第13部;十一月〜秋の一日〜-7
『どうする、アキラ?』
こうなると、コメチはどうにもならないことを、幼馴染みだけに知っている。
『そろそろ目と口くらいは動かせそうだ。それまで泣かしておいてくれ。そうだ、何もなかったかのように、オレとカズヤを見ててくれって、お前は薬草を取りに行ってくれれば、その間にオレが何とかする。任せろ』
『頼む』
サキはアキラに任せることにした。その方がいい結果を生むだろう。
「コメチ、オレ、薬草を取ってくるっけ、ちょっと二人を見ててくれないか」
泣きじゃくるコメチの肩に手を置いて、サキはそのまま外に出た。
アキラはサキが出て行ってから、暫くコメチを泣かせたままにした。
頑固な現実主義者相手の賭けは失敗。そうと判れば、後は彼女の記憶を消すしかない。
「あ……あ……」
アキラは試しに声を出してみた。未だ、喋るには不自由な気もしたが、これ以上時間を置くことは、得策とは思えなかった。
「あ、アキラ、大丈夫?」
コメチはまたしても、非現実的なことを夢だと思い込むことで、心の整理を付けていた。
「こ……コメチ、悪かっ……たな」
「あなた、大丈夫?何かあったのヮ?」
「気に……すんな。すぐに戻るさかいな。でも……、ちょっと辛いから、嫌がることをさせてくれ……」
コメチは顔を顰めたが、すぐに頷いた。
『ありがとうな。ちょっと食い意地張ってな、悪い果物食べたら、このザマさ。ちょっとオレの身体を起こして、オレの目を見てくれ』
コメチはアキラの言う通りにした。
『さっきは悪かった。どうであれ、もうコメチにはこんな真似はしないから』
「わたしはいいわ。びっくりしたけど」
『だったら忘れちまいな。忘れるんだ……』
アキラは瞳を瑠璃色の瞳に変えると、コメチに暗示をかけた。その瞳の色に吸い込まれ、コメチはアキラの思惑通りに、今起こったこと全てを忘れていった。
―――失敗の尻拭いは成功っと……。
アキラはため息をついた。全てなかったことにして、アキラは再び動けないふりをした。少しは回復しても、動くのは億劫だった。
「ただいま。コメチ、ありがと」
サキは何事もなかったような顔をして戻ってきた。
「土瓶で煎じるから、ちょっと待ってろな」
サキは自分とコメチの為に、冷蔵庫から飲み物を出した
「ところでコメチ、何か用?」
「あ、そうそう。今日の打ち上げをやろうって計画だったんだけど……」
コメチも、まるで何事もなかったかのような顔だ。サキは一瞬不審に思うが、アキラが何かをしたのだろう。そのまま受け流す。
「いいねえ、明日は振替休日だし。何時?」
「って言うか、大丈夫なのヮ?二人とも食い意地出して食当たりなんでしょ」
コメチは倒れているアキラとカズヤを見やった。
「大丈夫に決まってるじゃん。アキラとカズヤだぜ」
「それもそうね」
二人は何事もなかったかのように笑った。
「お昼食べた後がいいかしら。それともみんなで食べる?」
「んだな、何ならここで鉄板囲むか」
「あら、ステキ。じゃ、何時がいい?」
「お昼の一時過ぎでいいっちゃ」
「了解。サキ、場所提供、助かるわ」
「そのつもりで、ここサ来たんだべ」
「実はね。じゃ、わたし、これからナミに電話しなきゃ。二人、大丈夫?」
「平気。オレが薬草に詳しいの、知ってっちゃ。これは簡単」
「あ、そ。じゃ、わたし、これで失礼するわね。材料はこっちで準備するから」
「はいはい。じゃ、気を付けて」
サキはコメチを送り出し、薬草を煎じたお茶を持って、戻ってきた。
「芝居が……う、巧くなったじゃ……」
アキラが少しだけ身体を動かしていた。
「大丈夫?」
サキはその身体を起こし、お茶を飲ませた。
「ふーっ」
暫くして、アキラは大きなため息をついた。
「どう?」
「お前さあ、どうしてこんな知識あるんだ?親が詳しいのか?」
流暢な言葉が、薬草の効き目を表していた。
「ああ、親はどうだか」
サキは一瞬顔を曇らせ続けた。「教えてくれたのはオレの空手の師匠。オレとカズヤは一緒に教わってたんだけど、カズヤは興味がないから全然ダメ」
「カズヤらしいな」
未だ気絶している彼を見て、二人は笑った。
「ところでさ、さっきコメチにはアンテナがあるから聞こえるって、あれ、本当?」
「ああ、あれは嘘。オレならば、アンテナの有無は関係ないからな。でも、そういう人もいるだろうけどさ」
アキラはいけしゃあしゃあと言った。
カズヤが起きる気配はまるでない。
サキはそれを確認すると、ちょっと声を顰めて言った。
「あのさぁ、アキラ。ちょっと聞きたいことがあるんだ、カズヤ抜きで。いいかな」
「ん?別に構わないけど、珍しいな。何?」
アキラはカズヤを起こさないように気を遣いながら、ベッドから降りた。
「あ、いや、今じゃないんだ」
その言葉に、いよいよアキラも首を傾げた。
「明日、ここに集まるの昼だからさ、朝一番で来てくれないかな。怪我、大丈夫だろ」
「まあ、傷そのものは掠り傷だからな」
「じゃさ、ちょっとつきあってくれよ」
「嫌だ」
「また、その問答かよ。お前もワンパターンだよなぁ、アキラ」
「悪かったな。ほっとけ」
二人は忍び笑いをした。もしカズヤが起きようものなら、勝手な誤解をするに違いない。
「その用事さ、すぐ終わるのか?」
アキラの問いに、サキは頷いた。
「じゃ、今日の一件のこと説明しないわけにもいかないだろ。それが終わり次第、カズヤを早めに呼び出そう。知りたいだろ」
サキは「そりゃ、まあ」と言う。何しろ十年来の疑問が解けるというのだ。
「じゃ、明日朝イチでここに来るから。ま、そういうことで。今日は助かったよ、サキ」
「いや、こっちこそだいぶ昔からお世話になりまして……」
半分冗談で下げたサキの頭を軽く引っ叩いて、アキラは姿を消した。
次回から第14部(最終部);十二月〜別れ〜を始めます。
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