第13部;十一月〜秋の一日〜-6
『サキ……、十年前と同じ行動を取れ』
サキはその声で我に返った。それがアキラの念話だとすぐに気付く。
過去を変えてはいけないのだ。だから、サキはアキラとカズヤを運び、物陰に隠れるようにした。
『ちょっとガキども、そこまで送ってくる』
仮面の男がどうなったのか問わないアキラを不思議に思いながらも、サキは幼い自分たちの元に行った。
「ねえ、お兄ちゃん、どうしたら強くなれるの?ボク、カズヤを守らなくちゃ」
サキは苦笑した。身体が弱くても、自分はいつでも用心棒の気分だった。それは今でも変わらない。
「だからお兄ちゃんみたいになりたい」
「お兄ちゃんよりねぇ、あのお姉ちゃんのが強いんだよ。それに君は身体弱いだろ。頑張らなくてもいい」
言っても無駄なのは、自分自身だけによく知っている。
小さい自分は、振り返ると手招きをした。
その時まで幼いカズヤは震えて隠れていたが、小さいサキが合図をすると出てきた。あれは自分がカズヤに命じたことだったっけ……
「かっこよかったよーっ!ボクも、ボクもなりたい。ねえ、十年経ったら強くなれる?」
サキは再び苦笑した。カズヤはこの先十年は変わらない。
「お姉ちゃんの手を握って訊いてごらん。答えてくれるかもよ」
アキラはカズヤの潜在能力を、この時に引き出していたはずだ。
この時幼いカズヤが何を伝えたか、サキは知っている。幼い自分が何を思っていたかも、当然知っている。アキラの目が開かないのが、せめてもの救いだった。
「さ、もう行こうか。家まで送ってあげるから」
しかし、自分は家まで送ってあげなかった。
「いいよ、お兄ちゃん。森から出れば、帰れると思うから」
「じゃ、判る所まで送ってあげようか」
幼い自分は、アキラとカズヤを心配して言ったのだ。そしてこの後、二人は小学校の近くの空手道場に直行するはずだ。
『大丈夫なのか?家まで送らなかったんだろ』
戻ったサキに、アキラは声をかけた。
「大丈夫、そういう過去だから。それより、足見るからな」
サキは断りを入れ、アキラの長いスカートを膝までまくり上げた。
『大したことないだろ。あれは殺傷力の低い爆薬なんだ。どうせガキ二人を動けなくして連れ去るつもりだったんだから、強い効果を求めちゃいないさ。それにこれは植物の毒を使ってるはずだから、暫くしたら元に戻るはず』
「何を使ってるんだ?」
『多分……』
アキラの言った草の名を聞いて、サキは立ち上がった。
「それなら知ってる。すぐ治せるかもしれない。師匠から薬草を教わってるんだ」
『まあ、待てよ。取り敢えず戻るか。いつまでも長居しちゃ、あまり良くない影響が出るかもしれないからな』
「どうやって戻るのさ?」
『ま、説明は難しいな。やったことないし。とにかく、お前の部屋に戻るから』
「また、あの嫌な感じか」
『我慢しろよ』
アキラの予告通り、嫌な感覚に襲われて、三人はサキの部屋に戻った。
「きゃあぁぁっっ!何なの、あなたたち?」
「しまった!」
コメチの叫び声と、サキの叫び声は同時だった。
「な、なしてコメチが……」
突然降って湧いた三人に、サキの部屋で彼を待っていたコメチは言葉を失い呆然としていた。サキも、どう対応したら良いか、頭が全く回転しなかった。
『サキ、お前、コメチの幼馴染みなんだろ。賭けてみろよ』
音だけで事態を把握したアキラは、サキに指示を出した。しかし実はアキラの方が賭けの先手を打っていた。
「何なの、賭けって。アキラ、何言ってるのよ」
聞こえていないはずの声が、コメチにも聞こえている。サキは冷静になり、アキラの思惑通り動いた。
『アキラ、何か念動してくれ』
『了解』
アキラはサキの思惑が自分のものと合致したことに気付き、彼の言う通りにした。
「ちょっと、何っ!止めて、止めてよ!」
サキは少し後悔した。何もコメチ自身を宙に浮かさないでもいいではないか。
「実は黙ってたけど、オレ、こういうことができるんだ」
「ふざけないでよ!わたしがそんなの、信じるわけないでしょ」
コメチは本気で怒っていた。このような現実離れした悪戯が、彼女は大嫌いだ。マジックショーなら、必ず仕掛けがあるはずだが、今現実に起こっていることは、全く理由が付かない現象だ。
『コメチ、オレの声が聞こえてるはずだ。サキの言っていることは本当だ。オレの声を聞くアンテナがコメチにはあるってことだ。力がない人間は、オレのこの声すら聞こえないんだから。
見てみ、オレの口は動いていないだろ。テレパシーってやつさ』
コメチは頭を抱え込んだ。割れるように頭が痛む。
『始めは信じられないさ。オレだって、自分が信じられなかったもん。でも、本当なんだ』
サキの声まで聞こえてくる。
「もう、止めてぇっ!」
コメチは耳を塞いで叫んだ。
「話は耳で聞こえるように言ってよ!」
コメチは床に蹲り、何が何だか判らないままに泣き出した。
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