第13部;十一月〜秋の一日〜-5
アキラと仮面の男の二人の真剣勝負は、幼いサキとカズヤの目には、あまりに速すぎて見えなかったが、鍛えている十三才の二人には見えていた。
「な、何なんだ?」
『後で説明する。とにかく生きていたかったら、そこの二人のガキを守れ!オレや自分の名前を口にするなよ!』
アキラは大きな二人が来たのを、気配で察知し、念話で指示を出した。
その争いに自分たちが加勢になど入ったら、それこそ足手纏いになってしまうのは一目瞭然だった。
何より、本当の意味でのアキラの本気の姿を見るのは、二人は初めてだった。そしてそれは人間の理解を超えていて、鳥肌が立つほど強かった。
「何か、見たことないか、この風景……」
「んな……そんなわけないだろ……」
カズヤの問いかけを、サキは否定しようとした。違うっていることを願っていた。
『カズヤが正しい。お前らは知ってるはずだ、この現場を。だって、ここは……』
アキラの念話が途切れたのは、サキとカズヤ四人に向かって、仮面の男が火薬を投げ付けたからだ。
どうせ方向転換させようと蹴ったところで、衝撃を与えた瞬間に爆発することは判りきっている。それでもそれをそのままにするわけにもいかない。
アキラは自らその爆弾にぶつかりに行き、当然爆発に巻き込まれた。
もし、超常の力が公にできたなら、このような危険な目には遭わないはずなのに、彼女は無謀なことばかりしている。
「あっ!」
起こるべくして起こった爆発に、大きな二人は、足枷となることを忘れて立ち上がりかけた。
『どアホ!オレを甘く見るな。自分のこと考えろよ!』
アキラはそんな二人に一喝入れた。爆煙から現われた彼女は、煤で汚れてはいるものの、怪我は負っていないように見えた。
「止めた」
と、男の方が、技をかけるのを止めたのだ。
「今は取り敢えず分が悪い。瑞穂の谷の長は、この国の王だ。お前はその下僕で、今は逆らう時ではない」
無抵抗な相手に拳を出すわけにもいかず、アキラも闘争心をしまった。
「どうでもいいさ。こっちだって、今は、この二人の子供を守るだけ。しかし、お前が『瑞穂』を潰そうとしているのなら、何れ私がお前を潰しに行くだろう。長の手を煩わせることもない」
顔についた汚れを拭い、アキラは今は興味がないふりを装って言った。
「そっちこそ覚悟するがいい。お前はそこの二人の重要性を知らない。ということは、長も真実には気付いていないことだ。瑞穂の谷を潰す為、私はそこの二人を手に入れるぞ、必ず。十四年後、そこのガキが十七才になったら、また会うだろう。帰れたならば、長に伝えるがいい。そこの二人の重要性をな」
仮面の男も、まるでアキラのそのような性格を知っているかのような雰囲気だ。
「何を言ってるんだ、お前」
「解らなきゃいいのさ」
アキラは不敵な笑みを浮かべていたが、仮面で表情が読めない男の声にも、かなりの余裕が感じられた。
と、アキラの身体が崩れたのだ。仮面の男はすかさず支え、サキとカズヤの方に放り投げた。
殺す気があるならチャンスなのに、だ。
「何をした?」
まるで猫が毛を逆立てたような剣幕で、サキは怒鳴りつけた。
本当は飛び出していきたいのだが、それは知っているシナリオにはない。
「足の怪我さ。さっきの爆薬には痺れ薬が仕込んであってな。この女はようやく立っていた状態だったはずだ。何しろ子供二人を動けなくするだけの量は仕込んである。
まったく、強いとは思っていたけど、『瑞穂』の人間だったのなら理解できる。つくづく怖ろしい女だよ。薬に気付いてたくせに、お前らを守る為に飛び込んできたんだ。いつか死ぬぞ、その所為で。
ま、こっちとしては大助かりだ」
「ふざけんなっ、この野郎!」
カズヤが無鉄砲にも飛び出したが、まるで子供のようにあしらわれ、人差し指一つで気絶させられてしまった。
「どうする、お前は」
男は低く冷たい声で、サキを挑発した。きっと青白い顔のサキが何もできないことを、男は見て取ったのだろう。
「女の方は、身体が動かないだけで、耳は聞こえている。男の方は、完全に気絶している。目覚めていないお前はどうなりたいんだ。お前はここの二人を連れ帰れるのか?」
男は笑った。
確かに今のサキの実力では男に触れることすらできない。判っているから腹立たしいのだ。ではこの怒りは何処にぶつければいいのだろう。今の彼には、それを発散するだけの体力すらないのだ。
彼は細い目を見開きそして拳を固く握った手を伸ばした。
男は「あっ」と、短い声を上げた。その足が、一歩後退した。
しかしサキは動じない。力強く伸ばした掌を、一杯に開いた。
その手から、信じられない突風が生まれ、その風に呑み込まれるようにして、仮面の男の姿が消えた。と同時に、サキの目は細くなり、いつもの顔に戻った。
今の光景は、誰も見ていない。
姿を消した。
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