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第2部;五月〜去年の出来事〜-1

2;五月〜去年の出来事〜


 サキは幸い、部員が集まり切らないうちに、何とか他の部員に部活を任せ、カズヤを連れ出すことに成功した。

「何だよ、ったくよー」

「いいから、来い」

「二人で仲良くやってろよ。部活なんて、野暮やぼ言わないっけ」

「つくづくアホだな、お前は。黙ってついて来い」

「どうせ、サキなんかよりアホですよ、オレは」

「嫌味かよ!単純にも程がある」

 いらつきながらも、サキはカズヤを連れて、川の土手でも特に人目のつかない所を選んで、腰を下ろした。

 当然カズヤも苛ついていた。そもそも自分のことだけ世話を焼いてくれていたサキが他人の世話をも焼いていることも苛つくし、そのサキが彼女なんか自分よりも先に作って大人になろうとしているのもむかつくし、その言い訳の為に無理やり部活をサボらされたのだから、苛つきも最高潮だ。

―――素直に話なんか聞いてやるもんか。

 そう心に決めて引っ張られて来たのだ。


「お前さ、本当にオレとアキラが付き合ってると思ってんのヮ?」

「んだって、そうだべ」

 サキはため息をついた。今日、何回目だか判らない。

 いつまでこの同い年の幼馴染おさななじみは、自分の弟でいるつもりなのかと、思わないでもない。カズヤのやっていることは、独占欲にとりつかれた園児と同じだから厄介だ。

「違うのヮ?」

 ため息をつくサキを見て、カズヤは少し冷静になった。

「大違いだ!あの、アキラだぞ!」

 冗談じゃない。あんな凶暴な女にれるほど、この病弱な身に余裕はない。

「何も、そこまで怒鳴らくても……」

「うるさいっ!聞けヮ」

「はーい」

 どんなに逆らう気であっても、基本的に、カズヤはサキには素直だ。


「始めっから、お前やシキにも言っとくべきだったんだよ、アキラのこと。まさか、神森中までと思って、オレが油断してたのヮ」

「それは何度も聞いた。それで?」

「オレら、つまり、去年一年五組だった四人は、去年もアキラと同じ班だったんだ。ほら、名前順が近いだろ。今年はアキラとコメチが、ちょっと離れたけど」

「だから?」

「今日は、やたら挑戦的だこた」

 サキは苦笑した。

「オレな、去年アキラと喧嘩して、負けたのヮ。めちゃくちゃ怖かった」

「お前が負けた?」

「話の途中」

 サキは一喝入れた。


「あいつはオレに相談してきた。本人はしてないって言うだろうけど、でも、こう言ったんだ。『自分は元ヤンキーで、足洗おうと思ってたのに、つい手に振り回されちゃうんだ』って。

 んだからオレは、こう言ってやった。喧嘩の原因は近付けないようにしてやる。それでも、もし、また騒ぎになったら、次の日は忘れたフリをしろって。怒りで我を忘れて、何も憶えてないって顔をしろって。

 あいつが今日すっとぼけてたのは、全部オレが嘘つかせてるんだよ。嘘つきだってんならオレの方だ。

 実際、何度も連中は因縁吹っかけようとしてきてたけど、今までオレが未然に防いできただけのこと。でもその連中のほとんどは東中に残ったから、オレは今日の件に根回ししていなかったんだ。今回油断したってのは、そういうわけ」

「なんでサキが世話焼いてやんなきゃなんないんだよ?」

 頬をぷぅっとふくらませ、カズヤが喰ってかかってきたが、その幼さが可愛くもあり、うとましくもある。今はむしろ後者の気持ちが強い。

「相談されて無視するか、普通。オレ、お前のことだって無視したことないっちゃ」

「そりゃ、まあ、そうだけど……」

 サキはため息をついた。数えたら両手両足の指が足りない。

「いいか、普段のアキラは陽気だし、クラスを笑わせることもできるし、人気がある。でも本当のあいつは全然違う。本心から笑わないし、冗談の一つも言えない。陽気なんかじゃ絶対ないし、本当のことは絶対言わない。その分、泣き言も絶対言わない。そんなヤツが、初めて頼み事したんだっけ、オレも応えるしかないっちゃ。その事情を、ポン、コメチ、ナミには説明して、アキラには忘れたフリをしやすい環境を作ってやったんだ」

「はぁ……」

 間の抜けた返事を、カズヤはした。

 それだけ悪口並べ立てるくらいなら、放っておけばいいというのが、カズヤの見解だ。でも、サキがそういう発想をしないということだけは、充分知っている。

 ぽかんと口を開け、間の抜けた返事をする時のカズヤは、大概話の内容をあまり理解していない時だということを、サキは知っていた。

 カズヤの理解度は露骨に顔に出るから、まあ便利なものだと思い、「まあ、憶えててくれればいいし、他のみんなに黙っててくれらばいい」とサキは言うに止めた。


「じゃ、次はオレが訊いてもいい?」

「何なりと」

「なして、アキラと喧嘩して、サキが怖がるのヮ?」

「きっついなャ」

「ごめん」

「いいんだけど」

 サキはいつも半閉じのまぶたを閉じて、話し始めた。




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