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第13部;十一月〜秋の一日〜-3

 泣きじゃくる男の子は、くるくるとくせの強い髪の毛に、目鼻立ちのはっきりした子だ。期待に充ちた眼差しを、アキラに向けている。

 嫌な予感がする。それをはっきりさせないと、いくら二人を待っていても現れないし、アキラは帰れない。

 覚悟を決め、あり得ない質問をした。

「君たち、もしかして、表鈴木和哉おもてすずきかずやくんと裏鈴木賢木うらすずきさかきくん?」

「うん!」

―――勘弁してくれよ―――っ!

 項垂うなだれるアキラなど気にも留めず、二人の子供は元気良くうなづいた。自分たちのことを知っている人なら、この深い森から出してくれるに違いないと、過剰な期待が込められた声だ。

 アキラの悪い予感は的中してしまった。


 ここは『過去』としか思えない。


 でも、どうやって?


 アキラはすぐに推測を立て始めた。

 彼女は過去や歴史を垣間かいま見ることはできるが、時間移動はできない。と言うよりは、しようと思ったことがない。歴史への干渉がどういう結果をもたらすかなど、簡単に想像がつく。

 だが、瞬間移動をする時、移動先の空間を引き寄せて移動するのだから、時間も引き寄せられないでもないかもしれない。そもそも移動する時間を超えているのだ。

 その理屈に沿って考えると、誰かアキラの知らない能力者が、目的はまるで判らないが、下手に時間と時空を曲げて過去に移動して、たまたま引き寄せられてたぐまった時空軸の近くにいてしまったアキラが、そのゆがみに巻き込まれてしまったのだろう。そうとしか説明が付かない。


 何も超能力者はアキラたちだけではないのだが、誰が、どうしてこんな神森という辺鄙へんぴな場所で時空間をじ曲げたのかさっぱり見当もつかない。しかし、今はそのようなことはどうでもいい。ここは過去で、確実な戻り方さえ判ればいいのだ。

 アキラが腕組みをして考えている間も、子供たちは瞳をきらきらと輝かせ、この大きいお姉さんが自分たちを救け出す為に手を握ってくれるのを、今か今かと待っている。


 アキラは大きくため息を付いた。

 本心は、この幼い知り合いを置き去りに、自分だけ帰ってしまいたい。しかし幼い二人をそのままに消えた場合の影響は計り知れないし、年長者として理性が許さない。

 慌てて気配を捜せば、十三才のサキとカズヤまでもが、この空間にまぎれ込んでいるではないか。

 もし今ここで自分一人が勝手に帰ったとしたら、彼らはここに置き去りだ。いるべき時間から二人は消え、とある時間には年令の違う同一人物が存在してしまうという、何とも不安定な存在が誕生してしまう。

 これは世界の安定の為には、非常に具合が悪い。もし、今いる時間と場所がはっきりしていれば、さっきの理屈をもって、アキラは救けに戻ることもできるだろう。しかし、アキラはそれを知る手段がないのだ。

 だからといって、幼児の二人の目の前で、十三才の彼らを強制的に呼び寄せるわけにはいかない。サキが瞬間移動を知らなかったことから、それは見ていないし、体験していないということは明白。ということは、過去を変えることになることはできない。

 アキラは、泣き出したい心境だった。

「うーん、オレも迷子なんやわ。男の子やろ、泣いたらあかんで」

 アキラは引きつった笑みを浮かべ、よく解らない理屈を言って、幼い二人を慰めた。今はあの十三才の二人を待つしかない。


 その待たれている二人は、何も知らない分、気楽なもんだった。

「そうそう、昔さぁ、迷子になったから、ここサ見つけたんだっけなャ」

「んだんだ。懐かしいこと」

「で、すっげー強い姉ちゃんに救けられて」 

 はたと、サキは足を止めた。

「どしたのヮ、サキ?」

 カズヤも足を止めた。

「なあ、あの不良っぽい姉ちゃん、東中じゃなくって、神森中の制服着てなかったかャ」

「まさかぁ。確かに東中じゃなかったけど、神森中、あん時なかったっちゃ。似てただけじゃないのヮ。今時あんな格好の人いないし。

 けど、変な話だったよな。オレら、いきなり襲われたんだぜ。オレらは何も知らないけど、あの姉ちゃんは知ってそうだったなャ」

「あれ、何だったんだろなぁ」

 二人は、変な考えを振り払うように、陽気に歩き出そうとした。

 その時どこからか、とてつもなく大きな爆発音がした。

「何や、サキっ?」

「バカ、オレに訊くな!」

 二人は音のした方に駆け出した。。


 その爆発音は、幼いサキとカズヤ、そしてアキラに向かって投げ付けられた、日本古来の火薬弾のようなものだった。一応怪我はするが、殺すだけの威力はない。

「何だ?!」

 アキラは咄嗟とっさの出来事に、二人を横に抱えて飛びのいた。どのような場合であっても、弟御子一族に狙われている自分を知っているから、瞬間移動は使わない。

 それにしても、このような道具を使う者は珍しい。それがもし瑞穂の谷の者だったら、絶対生かしてはおけない。

「姿を見せろ!」

 アキラは鋭い視線を、一本の高い木の枝に向けた。「どうしてこんな子どもを狙う?」

 返事はない。

「答えろ!次はないぞ」

 アキラは石を投げ、そこに隠れていることに気付いているという意思表示を見せた。




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