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第13部;十一月〜秋の一日〜-2

 午後も何事もなく過ぎ、いよいよ最終種目、全校対抗リレーの時間がやってきた。

 去年の主流は、遅い生徒を最初に走らせ、最後にいくほど速い生徒を配置する、後半勝負の展開の読みやすいレースだった。しかし二年五組の陸上部の生徒は、最初と最後に最も速い生徒を配置し、中間は速い生徒と遅い生徒をバランスよく配置するのが今年の流行だと言い、そして更に言い加えた。

「けどや、流行だからって同じにしたら、決定力がないんだよね。でも、うちらには決定力がある。何せアキラは男子と女子の二回走れるんだ。これはチャンスだよ」

 ということで、陸上部の生徒が出した案は、誰もが手を打って喜んだ。

 そして当日、スタートラインに立った女子は、がっかりするのだ。


 ルール上、第一走者は女子、最終走者は男子と決まっていた。そしてどこのクラスも、最初から十人目くらいと最後から十人くらいに、そのクラスの足の速い生徒を配置している。できるだけ余裕を作り、中盤に配置した遅めの生徒の負担を減らして、そして最後に失った差を挽回するという算段だった。しかし、五組は違っていた。

 スタートラインにいたのは、反則的な最強の女子、桂小路 晃。もう、これだけで最初からやる気が削がれるというものだ。本気の勝負は二走の男子以降に頼むしかない。

 実際アキラが異常なだけであって、他の生徒は大して差がない。彼女が作った差は、四走あたりで縮まり、すぐ順位は四位に落ちた。しかしそれが五組の作戦の範疇はんちゅうだと知らない余所のクラスは大はしゃぎだ。

 比較的短距離向きではない生徒は、隣に控える生徒を見て、完全にやる気を失くした。

 たしかに五組の前半の選手は、予想以上にあっけなかった。だからこそ、後半勝負の作戦でくるだろうと思っていたのに、何と隣にいるのはハンド部のカズヤ。他にも足の速そうな生徒が数人控えている。実は余所よそのクラスが手薄になっている中盤に、五組は山場を置いていたのだ。

 これは大きな誤算だ。どんなに必死になったところで、あっさりと追い抜き去られてしまうのが目に見えている。

 そして最後にはサキと、男子としてのアキラがいるのだ。こんな連中など放っておいて、二位を狙うしかない。

 そしてお約束通りに五組は一位になったのだった。



「ところで、調子は平気なんか、サキ?」

 普段は自転車通学のアキラとサキとカズヤだが、校庭のレイアウトの問題で、学校から近い生徒は今日に限って徒歩通学だった。

「大丈夫。みんな、気をつかいすぎだよヮ」

「って、無責任な発言だと思わん?サキにとっては普通でも、こっちは心配するってこと、解ってないんだよ」

「まあまあ。せっかく歩きだっけ、あそこサ寄ってかないか」

「それ、賛成」

「何処?」

 今まで黙って聞いていただけだったアキラが、二人の会話に興味を示した。

「お前の好きそうな所だぜ。食べられる木の実が一杯あるんだ」

「いいねえ。ここからどれ位?」

「んだなぁ……十分位かって、おい!」

 サキとカズヤは顔を見合わせた。未だ場所を言わないうちに、アキラの姿が突然消えたのだ。

「せっかちだなぁ。場所知らないくせ……」

 と、サキの姿も忽然と消える。

 驚いたのはカズヤだ。サキは瞬間移動ができないはずだ。

「いっくらアキラが心配だからって、何も……。う、うわっ!」

 カズヤは思わず声を上げた。突然足元の地面が消えて、引力に従って落ちるような感覚に見舞われたのだ。


「痛っ!」

「ゴメン」

 カズヤが落ちた所は、サキの真上だった。

「カズヤさぁ、お前、もうちょっとマシな所に瞬間移動させろよ」

「何言ってんだよ。お前、勝手に移動したんだサ。どうせアキラが心配だったんだろ」

「また、勝手な誤解を……。っつーか、お前の仕業しわざじゃなかったのかよ」

「オレ、何もしてないよヮ」

「オレはできないし」

 二人は首をかしげた。二人のいる場所は、これから行こうとしていた場所だったのだが、そこにはアキラの姿はない。一体どういうことなのだろう。


 その頃アキラは森の奥深くを彷徨っていた。

 アキラも、当然彼女の意志でここに来ていたわけではない。大方カズヤが悪戯いたずらで、このわけの判らないところに送り込んだに違いないと思っていた。キノコ取りの達人は決して場所を教えないのと同じ感覚なのだろう。

―――心の狭いやつだ。オレは食い尽くしたりしないってのに……

 アキラはそう思いながら、周りのアケビやら山葡萄ぶどうやら、手当たり次第に手を伸ばした。しかしおかしなことに、待てど暮らせど二人は現われない。

――――――?

 遠くから、風に乗って幼児の泣き声が聞こえてきた。

「平気だって」

「……でも、でもっ……」

 よく聞くと、泣いているのは一人だけで、もう一人がなぐさめているようだ。

「ほら、そこのお姉さんにいてみよう」

 二人の男の子は、遠くにアキラの姿を見付け、駆け寄ってきた。

―――うわっ、来るなよ!

 理性があるから、隠れはしなかったものの、子供の扱いが大の苦手なアキラは、思わず身を引いた。


「おねえさん、ここ、どこ?」

 眠たそうな半分閉じたまぶたの男の子が、泣きじゃくる友達の手を引きながら、しっかりとした口調でアキラにたずねねてきた。

―――オレに訊くなよな……

 第一、本当に何処どこにいるのか判らない。しかし本当のことは言わない方が良いだろうと、アキラは判断した。そのうち、サキとカズヤがやって来るだろうから、それを待っている方が利口だ。

 なのに、何故か胸騒ぎがする。




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