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第13部;十一月〜秋の一日〜-1

13;十一月〜秋の一日〜


 秋の行事は何かと結構忙しい。野外活動が終わって間もないというのに、すぐ陸上競技大会だ。


 東中の時から、陸上競技大会のメインは、クラス全員による全校対抗リレーだ。この競技は長いけれど、とにかく盛り上がる。

 男女交互に走り、その順番の組立によって、結果が大きく変わるこの競技は、予め走順を紙面で提出させている。これは公平を期す為で、レース中に調整をさせない為だ。しかも走順は競技直前まで非公開。それだけに、提出日まで各クラスで試行錯誤を繰り返して作戦を練る。

 アキラたちのクラスは、たまたま男子が一人足りないクラスだった。こういう場合、誰が二回走るのかということは、勝つ為には非常に重要なことだ。


「体育委員の通達で、アキラ、お前と当たる女子が可哀相だから、男子で競技参加な」

「えぇっ!オレだって、女子なのに〜」

 この通達には、クラス中が大爆笑だ。

「っつーか、女子よりもさ、アキラと走ることになった男子の方が、可哀相じゃねぇ?」

 いくら本人が不服でも、記録が記録だけに、体育委員会の通達に従うより他にない。


 あくまで陸上競技大会なので、娯楽競技は少なく、短距離走やハードル、長距離走などが中心だ。

 午前中の競技の最後、男子の長距離走のスタート地点。

 校外の畦道あぜみちを走るこの競技だが、辺りの見晴らしがいいお陰で、校庭からでもレース模様がよく見える。しかも放送委員の中継自転車が出るというりようだ。

 可哀相な男子と走るアキラは、いつもの仲間たちと話しながら、スタートを待っていた。

 カズヤとポン、そしてアキラは赤いゼッケンを、シキは黄色いゼッケンを付けている。赤は五千メートルで、黄は千五百メートルの選手の区別だ。スタートは同時だが、途中で別れる。

 病弱なサキは長距離は欠場だ。

「あぁあ。何かこうしてっと、自分が女だってこと忘れちゃいそうやわ」

 背の順だと男子の中でも後ろの方になる百七十センチ近い身長のアキラはぼやいた。

「アキラさぁ、お前と走るオレらの方が、よっぽど可哀相だと思わない?」

「全然」

「男の面目丸つぶれださ」

「そんなん、お前ら持ってたんか」

 アキラは男子の気持ちなどお構いなしだ。

 普通であることの方が大事な彼女は、誰をペースメーカーにして付いていくかしか考えていない。


 スタートの号砲が鳴った。最初は一塊だが、すぐに五千メートルの選手が後方に下がる。

「よう、シキ」

「あ、アキラ」

 暫く走っていると、シキは後ろから声をかけられた

「あの二人、遅くて一緒に走ってらんねえ」

「大丈夫?後が続かいんじゃ……」

「平気やねん。途中まで一緒に行こうぜ」

 アキラは平然と言ってのけた。

 先に長距離走を終えた女子は、アキラだけを応援している。数年前までは自分たちよりも非力だったくせに、今では敵わない程成長している男子を、アキラは子供扱いしているのだ。こんなに胸のすく話はない。


「現在のトップは某教師の陰謀で男子の部で参加の女子、桂小路さんです!二位との差は五十メートル以上。一体、)せた身体のどこで走るのでしょうか!」

 並走する実況自転車のマイクに入るような大声で、「足だよ、足!逆立ちしてへんやろ!」と、アキラが怒鳴ると、校内は爆笑だ。

「いやー、まさにその通りです。余裕たっぷりの返事、ありがとうございます〜」

「ちょっと待て。某教師って何や?」

「さすがは肺活量が自慢の吹奏楽部。頑張って下さいね〜」

「おいっ!」

 アキラの呼ぶ声を無視し、実況自転車は二位を取材する為に後ろに下がった。

 結果、アキラはつい手加減を忘れ、中継通りに一位になってしまうのだ。


 昼食の時間。当然皆は家族と食事を取る。小学生の頃のように午前中の結果の自慢話をすることはないだろうが、仲良くお弁当を囲むのも、せいぜい中学生までだろう。

 アキラは一人、教室で昼寝をしていた。

 こんな日に、わざわざ一人分のお弁当を作って一人寂しく食べるくらいなら、食べない方がましだ。一家団欒だんらんに囲まれて昼寝をする趣味もない。それは彼女自身は気付いていないが、一種のひがみの裏返しの行動だ。


「アキラ」

 葵に呼ばれてアキラは起き上がった。

「お弁当、食べない?」

「担任の責任?」

「ひねくれ者ねぇ」

 アキラも葵も、当然本気で言ってはいない。

「偏食のアキラちゃんの為に、おいなりさん作って来たのよ。でも、食べないんだったら、大食漢のポンにでも頼もうかしら。今日のヒーローはアキラなのに」

「オレはヒ・ロ・イ・ン!お、さっすが葵ちゃん。むっちゃ美味そうやん」

「当たり前よ」

 アキラだって、お腹くらいは空くし、食材こそ選ぶが、あればあるだけ食べられる、痩せの大食いだ。いくらひねくれ者のアキラでも、自分の為に作られたという食事を無視するわけがない。

「特別よ」

 葵は得意満面だ。

「何が特別なのさ」

 まさかこれ以上ひねくれたことを言ったら、それは嫌味になることくらい、アキラは知っている。

「だって、あなたを男子の部で出場させたの、この私ですもの」

 葵はあっけらかんと言った。これには、アキラも「はぁ?」と呆気に取られるしかない。

「頑張って優勝してもらわなくっちゃ」

「ったく、陰謀の主かよ。安いなぁ、オレ」

 アキラは葵の作ったお弁当に手を伸ばした。

「大変じゃない。一人で食事の管理するの」

「一人だから楽なんだよ。何が駄目で、何が平気だって、オレ以外は判らへんさかい」

 アキラは美味しそうにおいなりさんを頬張った。その姿が葵には痛ましく見えてしかたなかった。





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