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第12部;十月〜戦場〜-6

 興味を失ったとは言っても、完全に無関心というわけではない。

「ところで、あんた戻って来て大丈夫なのヮ?」

 一同は、この女王が前線を放り出して戻ってきたことの不自然さに、今更ながら気がついた。

 もうただのコスプレイヤーだとか、ロケだとか、そういうことはどうでもよかった。何しろ本当に生命の危険があったのだから、突き詰めて考えない方がいい、と、彼らの脳内では結論づいたのだ。

「え、あ、あぁ」

 タリューシカは今更自分の傷跡をぬぐいながら微笑んだ。

「ほら、我々人間は夜行性ではありませんでしょ。だから自然の摂理に従い、彼ら人間だけの国の者は寝ぐらに帰ります。そしてわたくしも人間ですから、追いはしません。夜行性の動物を差し向けることもしません」

 その女王の発言に、男子四人はあんぐりと口を開けた。

「……そんな、安直な」

 ようやっとしぼり出した言葉に、「そういうものなのですよ」とタリューシカは平然としている。

「おかしいだろ」と突っ込もうとしたのだが、タリューシカの視線が外を向いたのでつられて外を見てみれば、驚いたことに、たしかにタリューシカの言う通り、敵は船に戻り、引き上げて行く。

―――これじゃ終わる戦も終わらないだろ……

 誰も口にこそしなかったが、思わずにはいられなかった。


「つくづく自分が人間であることが嫌になります。まるで戦をする為に生まれてきたようで……」

 沈黙がそこに生まれた。

「ああ、暗くなりましたね」

 タリューシカはさやに収めた光る剣を抜いた。すると、部屋が柔らかいあかりに包まれる。

「あっ……」

 丁度タリューシカと対角に座っていたシキが声を上げたのと、そのタリューシカが立ち上がったのとは同時だった。

「サパロージェ、そなたは動けぬ」


 夕闇にまぎれ、いつの間にか隠し持っていた短刀でいましめを解いていたサパロージェは、タリューシカの背後からその短刀を振りかざしていた。

 サパロージェは、タリューシカの言葉の通り、短刀を振りかざした格好のまま、動きを止めた。

 まるで彼がそうするのを知っていたかのようなタイミングで剣を抜いたタリューシカは、ろう人形のようなサパロージェの両脇に、自分の闇を放つ剣と、ようやく取り戻した光を放つ剣を突き立て、何やら呪文を唱えた。

「さて、教えてもらいましょうか。我が弟ワナレウス=アレンデクの行方ゆくえを。

 パルニア国民の良識と言われるそなたです、そなたのご両親に口止めされていたら、腹の底に真実をしまっておきかねませんからね」

「私は……何も知らぬ……」

 彼の口だけは、彼の意志に従って動いた。

「まあ、よいでしょう。気紛れな神々のため息が、あからさまに意外な場所に向かうとは考えられませんから。それくらいは、こんな子供のわたくしですら知っています」

 タリューシカはサパロージェの顎をつまみ上げ、目線を自分に向けさせた。彼はその視線を真っ直ぐ受け止めにらみ返す。

「わたくしも調べてはいるように、ゲルダ殿も色々と調べられておられるでしょう。必ずゲルダ殿より先に、我が弟ワナレウスを見付けてみせます。

 さあ、帰ってわたくしの言葉を、お前のあるじに伝えるがいい!」

 タリューシカは言い終わると、闇の剣を引き抜き、その切っ先をサパロージェに突き付けた。

「術をかけた。そなたはこのまま捕らえ置いた一艘の船で戻るしかできません」

 タリューシカの視線はまるで氷のように厳しく冷たい。

 まるで動きを操られているような不自然な動きで窓に向かうサパロージェは、振り返りざま捨て台詞せりふを吐いた。

「タリューシカ=アレンデク。闇の女王よ!しかと今の言葉を我が主に伝えよう。ワナレウス王子を捜す術を、我が主も考えあぐねていたところだ」

 アキラは先を越されたと思い込んでいるが、実は相手は全然先んじていないというのだ。

 なのにアキラは重大な失敗を冒したのに気付いていない。


「殺さないんだ」

 窓から立ち去るサパロージェを、黙って見送るタリューシカを見て、ナミはぽつんと言った。

「結構見かけによらないことを言うんですね、あなたは」

 タリューシカは苦笑した。

「ごめんなさい」

 ナミは責められたわけではないことくらい解っているのだが、条件反射で謝った。

「いいんですよ。それより、夜になりました。これであなた方を苦界にお送りできます」

 タリューシカのその言葉に、六人は何故か違和感を感じた。


 再び庭に案内され、そこから自分達が現れた場所へとタリューシカを案内する。

「ここで気がついたんですけど……」

「そうですか。では、自分たちが来た方角へ向かい、全力疾走して下さい」

 なんとあっさりとした返事に、思わず拍子抜けしてしまったのは本心だが、それでも六人は言われた通りに走った。さっさとこの不可解な状況から抜け出したい気持ちのが勝っている。

 が、それは見せかけの儀式にすぎない。実際はアキラの唱える呪文によって戻るのだ。

「――――――」

 六人がアキラの声が届かない所まで走ったのを見届け、彼女は呪文を唱えた。記憶を消し、元の世界に戻る呪文を。


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