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第12部;十月〜戦場〜-4

 当然カズヤだって、自分が素人であることくらい、充分知っている。彼にだって、それなりの目論みがあって、無謀な行動を取ったのだ。相手を倒せなくてもいい、剣を落とすことができれば、あとは自分の得意な空手で相手を対等に戦えるはずだ。

 しかし所詮は中学生の考えること。現実がそんなに甘いわけがない。

 一方サパロージェの方も、片手で数えられる回数、剣を合わせるだけで、カズヤが剣こそ使えないが、相当身のこなしが軽いことに気付き始めた。自分がやられることはなくても、カズヤたちを簡単に連れて行くことは難しそうだ。

 まあ、殺さず連れて来いと命じられているわけだし、この威勢のいいだけの少年の勢いに付き合ってやるのも悪くはない。

 サパロージェはそう考え、適当に素人の剣を受け流しながら、その相手を観察していた。すると、このよく動く少年には、どういうわけか隙を見せる一瞬があることに気付く。

―――さてさて、一体何に気を取られてるのか……?

 サパロージェはその視線を追ってみる。


 そのサパロージェの観察は正しかった。たしかにカズヤはサキのことを気にしていた。

 シキの傍には強そうな熊がいるし、その気になれば、隠し階段に逃げ込むことができる。ところが、サキには逃げ道がない。

 カズヤはサキにテレパシーを送り続けていた。

 テレパシーは届いているはずだ。それなのにサキは全く動かない。まるでそのようなものが届いていないかのように、カズヤの方をチラとも見てくれない。カズヤはそれにやきもきして目の前の敵を相手に集中できない。


 一方サキも、ただ無視していたわけではない。もし、今、サキが動いてしまえばサパロージェの思う壷になってしまう。ただ、カズヤにその理由を伝えようとテレパシーを送ろうものなら、今以上にカズヤの集中力を削いでしまいかねない。それはとても危険だ。


 サキは動けない。


 動こうと動くまいと、サパロージェという男はサキを攻撃するように見せかけて、サキを目で追って隙を作ってしまうカズヤを攻撃するつもりだろう。

 サキは考えた。

 目で追う対象が動くものであるか、動かないもの、どちらがましか。答は簡単だ。視点が動かない方がいいに決まっている。

 あとはカズヤがサパロージェの見せかけに動揺しないことを祈るのみだ。


「サキっ!シキの方に行け!」

 業を煮やしたカズヤはとうとう叫んだ。

 当然サパロージェが、そんなカズヤの一瞬の隙を見逃すわけがなかった。

「アホ!」

 サキはサパロージェの行動は読めていたから動じない。動じたのは、カズヤの危機にだ。


 それでもサキという対象物が動かなかったから、カズヤはサパロージェの切っ先が、サキから自分に移ったことに、頭よりも身体で気付いた。

 咄嗟とっさにカズヤは腕を上げ、脇腹にサパロージェの剣を挟み込み、彼が動けないように固定した。当然カズヤ自身も動けない状態なのだが、若いカズヤにはサパロージェよりも力があった。ここでカズヤは剣を奪うつもりだった。そのつもりだったのにだ。


 ちょうどいいタイミングでポンが割れた窓から飛び込んできて、サパロージェを後ろから羽交い締めにすると、シキがカズヤを抱え込んでサパロージェから引き離し、サキは藻掻もがくサパロージェの鳩尾(みぞおち)に当て身を喰らわせて気絶させてしまった。


 美味しいところを持っていかれ、カズヤは唖然とするしかなかった。

「カズヤ、大丈夫?って、大丈夫じゃん」

「なんだ、生きてたのか」

「生きてちゃ悪いか」

「悪くはないけど……」

「危ないことして損したなャ」

 三人は罰の悪そうな顔をした。

「ま、助かったよ。でも、サキ、なしてシキの方サ行かなかったのヮ?」

 半ば責めるようなカズヤの眼差しに、サキはうんざりしながらも本心を説明する。

「オレはなあ、こいつがフェイントかけてくるのが読めてたっけ、お前が集中力がれるようなことしちゃいけないと思って動かなかったんだよ。お前、絶対オレのことしか見ないっけ」

「はいはい、お気遣い、ありがとうございます。取り敢えず、このお兄さん縛っちゃおうぜ」

 その表情だけで説教だと判ったカズヤは、さっさと話題を変えた。

「んだな」

「ところでさ、どうやってここに上がってきたのや、ポン?」

「ああ、簡単なんだよ。さっきの抜け道出ると、庭に出たんだ。で、このおっさんの使った梯子はしごで、ここまで登ってきたんだ。そしたらグッドタイミングだったわけ」

「なんだ、案外間抜けなんじゃん、コイツ」

 四人は笑った。

「ところで、さっきの熊さんは?」

「女王さまのとこサ報告に行ったんじゃないのヮ。それよか、この剣、細いから折っちゃおうか」

「んだな」

 カズヤは片膝を曲げ、光を発する不思議な剣を折ろうとした。細身の剣は折れそうなくらい(しな)った。




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