第12部;十月〜戦場〜-1
12;十月〜戦場〜
単なるコスプレイヤーとコメチに認識されているタリューシカの小難しい話では、目の前で起こっている戦争というものが、非常に緊迫感のあるもののようだったが、この目に映る現実は案外そうでもなく、まるでほのぼのとした風景だった。まあ、戦争を生で体験したことのない人間が作る作品だから、それも致し方ないものだと、六人は考えながら見学する。
どういうセットや仕組みか判らないが、精巧にできた獣や人間、小人が道端で普通に喋っている。更には道行く風や、木々に向かって話しかけている者までいる。この中に於いては、むしろ自分たちの方が異質な存在なのでは、と、つい錯覚をおこしてしまう。
これはコメチが言う通り、映画か何かのロケなのかもしれない。
ただ、どうしたことか、すれ違う生物たちの殆どと言ってもおかしくない生物が、六人に頭を下げるのだ。
「?」
六人は顔を見合わせた。
自分たちの何が違うのか、お互いをじっくり眺めても、正直これといった違いが見つからない。明らかに違うのは、自分たちは普段着で、他の人間はこの作品の衣装を纏っていることくらいだろう。
大体、客でもないのにお辞儀されては気味が悪い。自分たちはただ偶然紛れ込んでしまった邪魔者なのだ。
暫く六人で考えていたが、「ああ、判った」とシキが声を上げた。
「ほら、黒い髪の人間が一人もいないっちゃ」
六人は、そう言えばこの世界に迷い込んだ時に、「王族の方々ですね」と言われたことを思い出した。この外見だけでその言葉の理由を考えると、あのタリューシカとの共通点を見つければいい。それは『黒い髪』に『黒い瞳』だ
「黒髪と黒い瞳が、王族の証っていう設定なのかしら」
ナミが疑わしげな顔で辺りを見回して付け加える。「だって、小人には黒い髪と瞳はいるっちゃ」
「でも、あくまで小人だサ。人間にはいないよヮ」
確かにシキの指摘の通り、人間の髪の色は、金色や茶色、銀色ばかりで、何故か黒髪は一人もいなかった。髪の色のバリエーションは少なかったが、瞳の色は多彩で、宝石のように輝いていた。
「どっちにしろ、登場人物でもないのに設定に組み込まれても、ヤになっちゃう」
コメチはむつけた。
「それにしても、なんかこう、ほのぼのしてるよね」
始めから言うことなどさらさら聞く気はなかったが、いつしかタリューシカの『命令』などすっかり忘れ、海を見下ろす断崖の側に、六人は辿り着いていた。
当然、ここは砦の庭などではない。
この切り立った断崖絶壁は、きっとサスペンスドラマの『犯人に呼び出されて突き落とされる』シーンに最適だ。しかし今はサスペンスの撮影などではなく、戦闘シーンを撮影しようというのだろう。
海上の大船から小船が数艘下ろされ、比較的岩場が少なく岸壁に寄りやすいい場所目指して、その小船が押し寄せてくる。
立入禁止の看板もないのをいいことに、六人は揃って岸壁に腰かけ、遠くを見下ろしていた。
「案外リアルなもんだっちゃ、なぁ」
「ホント、ねぇ」
「コメチ、文句たらたらだったけど、公開されたら見に行く?」
「ばかねぇ。行くに決まってるっちゃ。自慢できるじゃないの」
六人は声を立てて笑った。
向こうでは、小船から火矢のようなものだろうか、一斉に陸に向かって射かけられ、その場は騒然となっていた。
迫真の演技というのはこういうものなのだろう。響き渡る悲鳴。投石で沈む小船。少し離れた場所から見ている六人にも、その凄まじさが伝わってくる。
「本気なのかャ、本当に」
ポンが言ったそばから、状況が急変した。
小船から雨のように射かけられる火矢の火が、一人の人間に燃え移り、悲鳴をあげながら倒れ、悶え、そして動かなくなる。
六人は言葉を失った。
と同時に、辺りに叫び声が充ちた。
「誰、誰が叫んでんのヮ?」
コメチが取り乱し、辺りを見回して言った。
「誰もいないじゃない!」
たしかにこの岸壁には誰もいない。だからここで寛いでいたのだ。
六人は思わず立ち上がった。
と、聞こえてくる声がある。
『生ある者よ、出でよ。そしてト・アルフレイアに集え!』
その声は、耳ではなく心に響いてきた。
「木々の精霊たちよ、暫し姿を現わし、ト・アルフレイアに集え!」
緑色の髪の毛と瞳を持ち、茶褐色の肌の小人が、大声を上げて駆け回っている。すると、全ての木々の中から、その木の枝を手にした美しい人間が、苦しそうに悶えながら現われたではないか。
「炎よ、我が許に集え!そして地に戻るのだ!」
逆巻く赤い炎のような巻き毛の小人が炎に向かって手を伸ばし、火の粉を己の身体の一部のように扱っている。
「マジかよっ?!」
「何なのーっ?もう、いやぁっ!」
コメチは完全に取り乱している。
「とにかく、ここはさっきの所サ戻るしかないべ」
六人は砦に戻ろうとして、嫌なものを見る。
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