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第11部;十月〜Alfreaken〜-7

「先ほども申し上げましたが、ここにいる間は、わたくしの指示に絶対従ってもらいます」

 厳しい物言いだったが、ナミを気遣って振り向いたその表情は柔らかいものだった。

 しかし有無を言わさぬ強い言葉に、思わず六人の表情は硬くなる。それを見て取ったタリューシカは、その緊張をほぐすかのような笑顔を見せて続けた。

「と言っても、あなた方の自由を完全に奪うつもりはありません。ただ、安全の確保の為、ここト・アルフレイアのとりでからは出ないで下さい。ここの庭は美しく広いですからね、この中ならば、何処どこを散策されようと構いません。飽きることはないでしょう。

 でもね、どんなことがあっても、いいですか、わたくしが見張りから戻るまでは、この庭の中から出てはなりません。これは命令です。

 ここは戦場で、ここを離れたあなたたちの身の安全の約束はできません。

 早く元いた場所に戻りたい気持ちは解りますが、苦界へは歩いても戻れません。時間の心配もしなくて大丈夫です。日没後、わたくしが責任を持って元いた場所、元いた時間に送り帰します故、安全な場所にて待っていて下さい」

 タリューシカはそのまま出て行った。


 その後ろ姿に、思わずカズヤは思ったままのことをつぶやいた。

「送り帰してくれるんだったら、何でいままで引き留めてたんだろな」

 あまりにもっともな疑問に、六人は顔を見合わせた。しかしコメチだけは、すぐ自分の思考に戻る。

「何、寝呆けたこと言ってんのよ、カズヤ。これ、夢じゃないなら、映画のロケなのよ、きっと」

 コメチはあくまで現実主義だ。

「だとしたら、元いた時間に戻るってとこが可笑おかしいけどな……。

 でも、あの人が言うように、夢の中ならこんなに自由に会話できるわけないし……

 ま、いっか。よく判んないし」

 らしくなくポンまでもが考え込みそうになり、それを自分で止めた。考えても仕方ないことを考えるのは、彼にとっては無駄な時間の浪費なのだ。

「夢か現実かロケかはとにかく、あの戦争は火気類のない戦争みたいだっけ、取り敢えずは安心なんじゃないのヮ。取り敢えず外に出ちゃ駄目なんだったら、腹を充たすしかないっちゃな」

 ポンは楽観的なことを言って、目の前の山のような食べ物に手を伸ばした。

 それがコメチには気に入らない。目に見えるもの全ては、ある程度理由がつくはずなのに、この現状はすべからく理由が見つからない。


 見たことない風景。見たことない食べ物。そして見たことない戦争。

 このような場所に長居をしていたら危険だと、身体がさっきからささやくのだ。

「ねえ、何でもいいけど、宿舎戻らない。来られたんだから、帰れないわけないっちゃ」

 コメチはドアの外に出ようとした。

「待てよ、コメチ!」

 サキは彼女を呼び止めた。

「やめよう。何だか嫌な予感がするんだ、オレ。ウソでもマジでも、あのタリューシカって人の言ってたことが気になって」

 サキの中の何かも囁くのだ。

 聞いたことない歴史。聞いたことない神話。そして聞いたこともない哲学。

 あの女の言うことを聞いておかないと危険だと、何かが囁いている。


「あぁあ」

 案の定、コメチは大袈裟な身振りをしてみせた。

「そりゃ、あなたの思慮深さといえば、哲学者も顔負けよ。慎重な性格も結構!でも大概にしてちょうだい!いいこと、わたしらは行くわよ。

 でもね、もうちょっと考えてよ。あんなわけ解らないコスプレ人間の話と、わたしたちの疑問に思っていること、どっちがあなたの経験からして現実的?どう考えたってわたしたちの思考方法は間違えてないわ。可笑しいじゃない、こんな話!」

 サキだって、コメチに言われなくても解っている。どう考えたって、全身黒尽くめのマントをまとって剣をいているような人物が、世界が壊れるだの何だのって、どう贔屓目ひいきめに見たってマトモとは思えない。しかしこの胸騒ぎはどうにも説明できるものでもない。そうして口籠もっていると、コメチは畳みかけてくる。

「いいこと、わたしたちだって、あなた一人を残して行くわけにはいかないのよ。一昨日だって、それで喧嘩したでしょ。それに、考えるのは戻ってからでもできるっちゃ。アキラだって一人で戸惑っているだろうし」


 また一昨日のような大喧嘩になるのではと、傍観者たちはひやひやしながら見守るしかない。大体、一番しっかりしているはずのサキがこんな非現実的な話にどっぷり浸かり、足踏みしていることが全く理解できない。

「でも、コメチ。オレらは山にいたんだ。どうして海があるんだ。山は何処サ消えたのヮ?」

 そんな揚げ足のようなツッコミが、自分を胸騒ぎの理由なんかでは決してないのだが、目に見える現実の相違点という、コメチにしては痛いところをつかれ、彼女は少しひるんだ。

 しかし、たしかにもうどうでもいい。説明できない違和感よりも、仲間の総意の方が大事というものだ。

「ま、いっか。来られたんだから、帰れるさ。コメチの言う通りだ」

 そうなのだ。自分たちは、ただ、熊から逃げて、気が付いたらここにいたのだ。


 はっきり言って、行くあてはさっぱり判らない。ただ、ぶらぶらと辺りを見回しながら、さながら地方出身のお登りさんのように、庭から出て歩き回るしかなかった。




次回から第12部;十月〜戦場〜を始めます。




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