第11部;十月〜Alfreaken〜-6
目の前の女王は、「時間」だからと身支度を整えて立ち上がったのに、またどっしりと椅子に腰を下ろして話す気マンマンだ。
「自然界から苦界が分かれたということは、人間は全く同じ種であるということです。ここにいるわたくしを見ても判るでしょうが、この瞳以外は何一つ違うところはないでしょう。
つまり、この自然界に適した人間が残されたとはいえ、苦界に適応した人間が誕生する因子は消えたわけではないのです。この戦は、第二の苦界の誕生を阻止する為の戦」
六人は、自分たちとは関係のない話なのに、思わず危機感を感じてしまった。
「今から四百年程前、この国の王が即位するにあたり、問題が起きました。
後継者は双子で、兄が王位を継いだことを不服とした弟が、兄王を殺したのです。ほぼ同等の権利があったとはいえ、それは殺人の言い訳にはなり得ません。
しかしそれを認められない弟は、自分を支持する人間をこのト・アルフレイアの対岸にある、ル・パルナという地方に集め、人間だけの国を創りました。
因みにここト・アルフレイアという地名は「自然界を守る」という意味があり、ル・パルナとは「乱れから守る」という意味があります。
パルナ地方は人間が住まうには少々自然環境が荒々しく、我々司祭者が自然に対して畏敬の念を以て祈りを捧げる土地だったのですが、弟はその荒々しい自然を支配し、人間が住みやすい土地へと環境を変えてしまったのです。そしてより住みやすい土地を求め、王権を求め、彼らはこのアルフレイア、現アルフレーケンを攻め続けているのです。
このアルフレーケンという国名は、アルフレイアに「穢れた」という意味の語尾を付けた名称になっています。我々はこの不名誉な名称を受け入れるしかないのです」
結局この国の女王は、この国の歴史までも全部話すつもりなのだ。
コメチなどは露骨に嫌悪の表情だ。
そして全く反対の表情はサキだ。
「環境を変えるとは?」
「住み分けという言葉がありますでしょう。人間の住みやすい土地、猿の住みやすい土地、熊の住みやすい土地。お互い重なり合う所はあっても、わざわざ侵入しようとはしませんでしょう。
パルナ地方は、僅かな草木以外の生物が住むには不向きな土地だったのです。それなのに、彼らはただ一つの川を拡げ、水路を整備し、環境に適応しない魚を食用として放流し、民であるべき動物を家畜として飼い、あるがままの姿を壊してしまったのです。
住みにくいから住まないというのが自然の姿。それが、住んでみて住みにくい不都合をちょっと改良したのであればまだ許されるものを、住む為に無から改良してしまったのです。この辺の感覚は、苦界人には理解しがたいでしょうね」
コメチなどは、大きく頷いた。
目の前の女王は、コメチの失礼とも思える態度を無視して続けた。
女王と名乗っていようとも、中身はアキラなのだから、コメチの性格は熟知している。だからできることだ。
「この戦は、人間が生まれたことからの必然とも言えるものだと、わたくしは考えています。だからといって、戦を止めることはできないと言っているわけではありません。
本来、わたくしを含めた生物とは、流れの中で進化をしても、流れを変えての進化をしようとはしないものです。
しかし、人間は違う。流れに逆らって変化を求めるものです。そしてわたくしはその人間。
わたくしだって、苦界にあって戦を望まぬ者がいるように、戦を望む者ではありません。本当は、平和の為の戦争など認めやしない。戦争から生まれた平和など、と思うことはしょっちゅうあります。
だけどこの国の全生物は、流れに逆らう性を持った人間の長であったわたくしの一族を、この国の王とし、パルナ地方の人間たちに抵抗することを選んだのです。自ら変化―――進化しようとしたのです。
ですからわたくし自身、このわたくしが生まれたことで激化したこの戦を、進化の為に必要とあらば、わたくしは自ら認めぬ必要悪に変化しようと決めました。駄目なことなら、それこそどのような裁きでも受ければいいだけのことですからね。
口実にすぎませんが、四百年の長きに渡る戦は、わたくしが何としても終わらせねばならぬのです。
百年の休戦状態を崩しておいて、終戦協定を申し出た奴らは、それに応じた我が両親を、和平のその席において斬り殺しました。
このまま黙って吸収されては、この世界が、宇宙の存在が滅びてしまう。とても危うい状態ながら、取り敢えず現在は均衡を保っているというのに。
わたくしの方法は間違ってはいますが、変化のきっかけとなれるのであれば、後世残虐な女王だったと言われても構わないのです。わたくしの意志は、必ず誰かが気付いてくれて、最善の状態に創ってくれるでしょうから」
タリューシカは激した感情を隠しきれず、それを隠す為に無言で立ち上がり、振り返りもせずに戸口に向かって歩きだした。
「あ……」
気分を返してしまったのかと、いつも他人の機嫌ばかりを気にするナミが、声にならない声を上げた。
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