第11部;十月〜Alfreaken〜-4
「それなのに……」
苦行を苦行と思っていない女は、尚も一方的に話し続ける。
「必死な神の想いを知るわけがない我々人間の数は、急激に増幅し留まることを知らず、やがては自分の自我を肯定する為に新しい神を生み出し、本来の神々の領域を侵そうとしてしまいました。
このままでは本当に世界が、宇宙が壊れてしまう。
しかし新たな世界を生み出すことは、もうできない。何しろ次の『5』という数字は混沌と破壊を意味し、秩序が失われる数字ですから。
……ああ、あなた方は数の基準が両手の指の数ですよね。我々の基準は片手の指の数。あなたがたにとっての『10』という数字は、『5が二つ』という認識になるのです。
それはそうと、我々にとって『5』は危険な数字なのです。
そこで苦肉の策でできたのが、あなたたち人間のみの世界。『苦界』、『ヘク・アルフラ』と言います。
ただし、この苦界は独立した世界ではない。それは自然界の中に創られた隔離空間。自然界に適応できる人間と、適応できない人間とを区別する、こちらの世界と表裏一体の際どい空間です。
それでも第五世界を創るよりは不安定ではなかったのです
苦界で濁った魂は魔界へ行き、魔界は完全な閉鎖空間で魂は巡ることができない。そうすれば、苦界といえども自然界の一部であることに変わりはないのですから、肉体は朽ち、苦界も何れ朽ちる日がくるかもしれません」
自分達の世界が朽ちるかもしれない、と言われれば、六人も目を剥く。冗談じゃない!
その表情を見て取った女王は手で制した。
「勿論、隔離空間が開かれ、苦界が自然界に帰ることもありますよ。それは苦界の人間次第ですけどね。
何れにせよ、一度誕生させてしまったものは、消滅させることができないのです。そこに生きるものたちが消滅させなければね」
微笑みながら話すような内容ではないはずだ。なのに目の前の女は余裕の表情を見せている。
サキは疑念が離れない。
「では、あなたたちの言うところの苦界の『苦』とは何なのですか?」
黙って聞いていたサキは、とうとう吹っかけた。
「それは最大の煩悩。人間が我が身を守る為に自然を支配することから覚えた、邪魔なものを排除する方法。それは相手を排除するが、自分にも向けられることがあり、自分自身を苦しめるもの……」
「すなわち戦争」
「その通りです」
タリューシカとサキは、大きなため息をついた。
サキ以外の五人は、ただ黙って聞いていた。
「ふん」だの「へぇ」だの合いの手を入れないと、訳が解らないことでも一生懸命話している人に失礼になるからそうしていたが、正直なところ、本当に訳が解らない話の欠片も理解できないのだ。
彼ら五人は、サキがこの話を少しでも理解できている様子すら、心底理解できない。
それはアキラも同じだった。
自分はここが育った環境だから、この考えが自然と身についていて当然だが、これが逆だったら、それこそ短気な自分だ、ふざけんな!と怒鳴り散らしているに違いない。
理解しようとする姿勢のサキに、感心の念が自然と湧く。
「ところでさ、水差すようで悪いんだけど……」
控えめに、シキが口を挟んだ。
「でもここも戦争してるようだけど……」
タリューシカは、またため息をついた。
「それには、まあ、言い訳があるのですけど……」
それにしてもアキラは、苦界と自分のことを、あまり話さないようにと小人に頼んだことなど、すっかり忘れてしまっている。
この現状を小人が見たら、開いた口が塞がらないことだろう。
「わたくしはこの国の人間の長であり、この国の王です。しかしこの世界には、人間だけの国が凡そ千年前から存在しています。ですが、彼らは決して自然を支配しようとはしていません。人間の住める環境に、人間が群れを成して生息している。そしてその群れは国家という形態を取っている、それだけのことです。
ところが数百年前に、このアルフレーケン国から独立した人間だけの国は違う。
彼らはこの世界の摂理に逆らい、自然を支配し、戦争を引き起こしました。
今現在は小競り合い程度に矢を射かけてくるくらいですが、常に海からこちらの隙を窺っている。」
タリューシカは視線を海に移した。
今、一同が迎え入れられている砦は小高い所に建っており、海が一望できる。
その海には、大きな船五艘を中心とした船団が、確かにこちらを窺っていた。
「五年前の悲劇を繰り返さぬ為に、我々はこうして見張っているのです。そして様子見程度の攻撃に対抗するのです」
海岸線は砂浜ではなく、絶壁だ。だから上陸も困難だろうが、矢を射かければ届いてしまう場所に、船団は停泊している。
沈黙が流れる……。
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