表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/99

第11部;十月〜Alfreaken〜-4

「それなのに……」

 苦行を苦行と思っていない女は、尚も一方的に話し続ける。

「必死な神の想いを知るわけがない我々人間の数は、急激に増幅し留まることを知らず、やがては自分の自我を肯定する為に新しい神を生み出し、本来の神々の領域を侵そうとしてしまいました。

 このままでは本当に世界が、宇宙が壊れてしまう。

 しかし新たな世界を生み出すことは、もうできない。何しろ次の『5』という数字は混沌と破壊を意味し、秩序が失われる数字ですから。

……ああ、あなた方は数の基準が両手の指の数ですよね。我々の基準は片手の指の数。あなたがたにとっての『10』という数字は、『5が二つ』という認識になるのです。


 それはそうと、我々にとって『5』は危険な数字なのです。

 そこで苦肉の策でできたのが、あなたたち人間のみの世界。『苦界ヘク・アルフラ』、『ヘク・アルフラ』と言います。

 ただし、この苦界(ヘク・アルフラ)は独立した世界ではない。それは自然界の中に創られた隔離空間。自然界に適応できる人間と、適応できない人間とを区別する、こちらの世界と表裏一体のきわどい空間です。

 それでも第五世界を創るよりは不安定ではなかったのです

 苦界で濁った魂は魔界(ヘクメネセイア)へ行き、魔界(ヘクメネセイア)は完全な閉鎖空間で魂は巡ることができない。そうすれば、苦界といえども自然界の一部であることに変わりはないのですから、肉体は朽ち、苦界も何れ朽ちる日がくるかもしれません」

 自分達の世界が朽ちるかもしれない、と言われれば、六人も目をく。冗談じゃない!

 その表情を見て取った女王は手で制した。


「勿論、隔離空間が開かれ、苦界が自然界に帰ることもありますよ。それは苦界ヘク・アルフラの人間次第ですけどね。

 何れにせよ、一度誕生させてしまったものは、消滅させることができないのです。そこに生きるものたちが消滅させなければね」

 微笑みながら話すような内容ではないはずだ。なのに目の前の女は余裕の表情を見せている。

 サキは疑念が離れない。


「では、あなたたちの言うところの苦界(くがい)の『苦』とは何なのですか?」

 黙って聞いていたサキは、とうとう吹っかけた。

「それは最大の煩悩。人間が我が身を守る為に自然を支配することから覚えた、邪魔なものを排除する方法。それは相手を排除するが、自分にも向けられることがあり、自分自身を苦しめるもの……」

「すなわち戦争」

「その通りです」

 タリューシカとサキは、大きなため息をついた。


 サキ以外の五人は、ただ黙って聞いていた。

 「ふん」だの「へぇ」だの合いの手を入れないと、訳が解らないことでも一生懸命話している人に失礼になるからそうしていたが、正直なところ、本当に訳が解らない話の欠片も理解できないのだ。

 彼ら五人は、サキがこの話を少しでも理解できている様子すら、心底理解できない。

 それはアキラも同じだった。


 自分はここが育った環境だから、この考えが自然と身についていて当然だが、これが逆だったら、それこそ短気な自分だ、ふざけんな!と怒鳴り散らしているに違いない。

 理解しようとする姿勢のサキに、感心の念が自然と湧く。


「ところでさ、水差すようで悪いんだけど……」

 控えめに、シキが口を(はさ)んだ。

「でもここも戦争してるようだけど……」

 タリューシカは、またため息をついた。

「それには、まあ、言い訳があるのですけど……」

 それにしてもアキラは、苦界と自分のことを、あまり話さないようにと小人に頼んだことなど、すっかり忘れてしまっている。

 この現状を小人が見たら、開いた口が(ふさ)がらないことだろう。


「わたくしはこの国の人間の(おさ)であり、この国の王です。しかしこの世界には、人間だけの国が(およ)そ千年前から存在しています。ですが、彼らは決して自然を支配しようとはしていません。人間の住める環境に、人間が群れを成して生息している。そしてその群れは国家という形態を取っている、それだけのことです。

 ところが数百年前に、このアルフレーケン国から独立した人間だけの国は違う。

 彼らはこの世界の摂理に逆らい、自然を支配し、戦争を引き起こしました。

 今現在は小競り合い程度に矢を射かけてくるくらいですが、常に海からこちらの隙を(うかが)っている。」

 タリューシカは視線を海に移した。


 今、一同が迎え入れられている砦は小高い所に建っており、海が一望できる。

 その海には、大きな船五艘を中心とした船団が、確かにこちらを窺っていた。

「五年前の悲劇を繰り返さぬ為に、我々はこうして見張っているのです。そして様子見程度の攻撃に対抗するのです」

 海岸線は砂浜ではなく、絶壁だ。だから上陸も困難だろうが、矢を射かければ届いてしまう場所に、船団は停泊している。


 沈黙が流れる……。




↓↓↓本編先行連載している作者のブログです。是非おいで下さい。

http://blogs.yahoo.co.jp/alfraia


また、日本ブログ村とアルファポリスに参加しております。

お手数ですがバナーの1クリックをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ