第11部;十月〜Alfreaken〜-3
「でも、あなたは先ほど世界は四つだと……」
「まぁ、順番に」
サキの言葉に、タリューシカは微笑んだ。
「確かにわたくしはそう申し上げた。
でも、この『3』という数字は重要な意味を持つのです。
例えば『神界・冥界・自然界』、『過去・現在・未来』、『有限・無限・無』、『誕生・存在・死』、などなど、いろいろなものが三つで区切ることができる。つまりは宇宙というものを表す数字、絶対安定数なのです」
まったく以って尤もらしい分類に、一同は一応頷く。
その反応を待って、タリューシカは続ける。
六人に見える目の前の女性の表情は、基本的に変わらない。
「ところが、言っても仕方のないことですが、偶然を支配する神々が人間を創った時に過ちを犯してしまわれた。
誕生は進化の課程の中の必然であるとはいえ、神々は人間の発生に関し、彼らのエゴを反映させてしまったのです。それが神の過ちです」
「エゴ?」
「はい、あなた方に解りやすい言葉を使えばエゴです。神のエゴを受けて生まれた人間は、生態系ピラミッドを崩してしまいました。そのエゴは、煩悩。我こそはと願う強力な自我。
人間は獲物を狩る脚力も牙も爪も持たず、逃げられるだけの脚力も身軽さも持たず、しかしながら草食動物のように植物だけを糧とすることもできず、与えられたのは神と同じ姿の二足歩行と器用な手とそれを使いこなす頭脳だけ。
これだけでは野生では生き伸びることは難しいはずでした。
でも、その頭脳は想定外の能力を発揮した。
与えられた頭脳で以って、人間は生態系ピラミッドの本来の位置からのし上がり、キャップストーンをも超えようとした。いや、生態系ピラミッドからの脱却を図ってしまった。
そしてその不安定さを隠す為、その不安定さを維持する為に、自然界の生態系を支配し始めました。
本来の自然界には、支配という言葉は存在しません。このような歴史を辿り、人間は自然界には存在していなかった、負の感情に囚われるようになってしまったのです。悪の心に」
人間であるタリューシカは、人間を否定し続けるような言葉を続ける。
「さて、我々生物には魂が宿っている。人間であれ、獣であれ、植物であれ。物百年の生命と言いますから、永く存在している物にすら魂は宿る。
その巡る魂は無垢の存在です。しかし、人間に宿ってしまったその時、その無垢なる魂は煩悩に染まって濁ってしまう。肉体の消失後に冥界に戻っても、その濁りは浄化されることはなく、そのまま次の肉体へと巡ってしまう。そうしたら、人間以外の生物までもが煩悩にとりつかれ、全ての生物が我こそはと願い、争いが起こりかねない。
それはとても危険なことです」
まあ、その論理でいけば、それはとても危険なことだということくらいは、理解できる。
六人は取り敢えず相槌を打ち続ける。
「神界から見守っていた神は、きっと自分の犯した過ちを後悔したでしょう。世界を彩りで充たそうとする存在なのに、自分達の姿を投影したものたちは、自我によって彩りを壊そうとするのだから。
ではどうするか。
既に生まれ落ちた種に手を加えることはできません。それこそ神のエゴで瞬時に全滅させるわけにはいかない。だからといって、手を拱いて見ているだけというわけにもいかない。」
当然だ。神という超越した存在が本当にいたとしても、それは認められない。
でも、超越した存在がそれを望んだら、ちっぽけな自分たちが気付く間もなく存在は掻き消えるだろうなと、サキなどは考える。
「では、神々はどうしたか。
神々は、絶対安定数に、新たな教義を加えることにしたのです。
それは四つめの世界を創ること。
『誕生・存在・死』、その他に、認められない初めから存在し得ないものの存在を認めました。
それは『無』とは違います。存在と対義の無ではなく、そもそも存在しないこと。その存在を認め、それを四つ目の世界としたのです。
『4』という数字。それが限界安定数。それ以上は認められなかった」
そろそろ禅問答のような話に、一同は苦痛を感じていたが、すっかり相手は気付かずにのめりこんでいる。
ポンやコメチなどは、お構いなく大欠伸だ。
「四つ目の世界を創り出しても、悩みが尽きるものではありません。それをどういう位置づけの存在の世界にするか。それは冥界を守る為のものか、それとも乱れゆく自然界を守る為のものにするかと。
そこで神は考えた。人間を創る時よりも考えて結論を出した。
自然界は肉体の世界。肉体は朽ちるもの。
そして冥界は魂の世界。永遠に巡るもので、ここが汚れれば自然界も汚れてしまう。そこで神々は新しい第四世界を冥界テレヘイアの為に創ることにしたのです。
その名は魔界、ヘクメネセイア。魔の心に染まった、濁った魂の受け皿となるべき世界。これ以上は宇宙の均衡は壊せない。
こうして神は世界を守ろうとしたのです」
そろそろカズヤが欠伸をこっそりし始め、ポンは舟を漕ぎ始めている。必死に話を理解しようとしているナミの視線は宙を泳ぎ、理解できていないのが判る。
それでも目の前の変な女性は気付かずに一方的に話し続けている。
これはある意味で苦行だ。
↓↓↓本編先行連載している作者のブログです。是非おいで下さい。
http://blogs.yahoo.co.jp/alfraia
また、日本ブログ村とアルファポリスに参加しております。
お手数ですがバナーの1クリックをお願いします。