第11部;十月〜Alfreaken〜-2
今回はこの物語独特の世界観が語られます。
解りにくい点も多々あるとは思いますが、ご了承下さい。
実際六人の目には、よく見慣れたアキラは映っていない。
今、彼らの目に映っているのは、すらりと背が高く、色白の細面で、細い切れ長の黒い瞳の中の虹彩が、光で針のようになる不思議な目を持つ女性だった。
まずおかしいのがその衣服。ぞろぞろと引きずらんばかりの黒装束は、見るからに縁起が悪い。絵本の中の悪役の騎士のようだ。
そしてその化粧も変わっている。顔だけ取り出したら、古代アニミズムの巫女か何かのようで、まるで刺青のような色で目の周りが唐草模様のような文様が施されている。そして形の良い薄い唇には鮮やかな紅が引かれている。よく言えば、ナンダカという歌手がプロモーションビデオでこんなメイクをしていたような気がしなくもない。
がしかし、六人にとって顔の造りや衣服、化粧などよりも、何よりも印象的だったのは、女の目だった。
六人に向けられていた黒い瞳は普通ではなく、瞳の中の虹彩が瑠璃色に発光しているのだ。しかも猫のように光で針になっている。このような目を人間が持っているなど、見たことも聞いたこともない。
そしてその不思議な瞳の眼光は鋭いのに、それは痛く突き刺さるような敵意などなく、むしろ心地が良い眼光だったのも不思議だった。
暫しその外見に見とれていた六人は、女の声で我に返った。
「多分、そのいない女性は苦界に残っているのでしょうね」
アキラは何喰わぬ顔をして言った。それは六人に言わせると、「タリューシカ女王は、感情の篭もらない声で推測を述べた」となる。
「その、『くがい』ってのは、一体何なのや?」
食べ物を食べる手を暫し止めて、ポンはタリューシカに訊ねた。そしてその質問に、タリューシカはため息を一つついた。
「苦界人は、四つの世界の歴史まで忘れてしまっているのですよね。と言っても、まあ、仕方のないことですわ。分化したのは、四万年以上も前のことですもの」
「四万年!」
六人は声を揃えた。
「どのくらい前だ?」
「どれくらいって……。取り敢えず、猿人発生が約六百万年前で、ジャワ原人が約百五十万年前で、ネアンデルタール人が約二十万年前で、クロマニヨン人が四万年前だっけ、現人類の直接の祖先の誕生と同時くらいだな……
って、学校で習っただろ?」
「さっすがー、サキ」
指折り数えながら言ったサキを、他の連中は褒めたのだが、六人の誰一人として、あまりに壮大な時間の話についていけていない。
あまりに桁がでかすぎる。
その様子を微笑みながら見守っていたタリューシカは、導き出した答にゆっくりと拍手して言った。
「そう、ご名答。つまり、現人類の発生と同時に、分化することになってしまったということです」
「さっきも分化するって言ったけど、一体何が何から分化するのか、こっちはさっぱり解らないよヮ」
どういうわけかサキだけが、辛うじてタリューシカについてきていた。
「たしかに仰る通りですわね。これは失礼致しました」
目の前で見慣れぬ女性がころころと面白そうに笑っている。少なくとも六人にはそう映っている。
そしてタリューシカとして振舞うアキラは、六人の困惑などお構いナシだ。
「こちらには、そちら人間だけの世界とは全く違った、しかし全生物に共通する世界観と歴史があるもので。ついわたくしどもの正式な歴史を前提に喋ってしまいました」
「で、それは?」
タリューシカの話に、サキは思わず興味を示した。彼にとっては、まるで知らない未知の物語を聞かされているようなものなのだ。
「歴史を語るには、神話を語らなくちゃならないのですが、それは少々難しいですわね。簡単に概要を語りましょうか」
さっきは多くを語るなと言っていたはずなのに、アキラときたら、どういうわけか話す気まんまんだ。
「宇宙の発生に関しては神話的要素が高いから語りません。取り敢えず宇宙とは普遍的なものであるということを前提としましょう。
ここに一つの星系があって、そこに生物が存在するとします。理解しやすいように、我々の住む惑星一つだけに話は限定致します」
一同は目の前の奇妙な女性の話に、思わず身構えた。
「これからわたくしが語る『世界』というものは、我々の眼に見えるものだけではないということを、ご理解戴きたい。
先ず、我々肉体を持ちしものが暮らす世界を『自然界』、全生物共通の言葉では『アルフレイア』と言います。
生態系ピラミッドという言葉はご存知ですね。この世界にはこの関係が組み込まれ、触れられる肉体、朽ちる肉体で以って彩りを形成します。
そしてこれらアルフレイアの生物たちは、その肉体の中に巡りめく魂を持っています。それらの魂が肉体での一生を終え、安らぎを得る世界、実体のない魂の世界が『冥界』、『テレヘイア』と言います。
それは死後の世界でもあり、生前の世界でもあります。」
更に、この一つの星系の彩りを創ろうとする意志、巡る魂の中に在って不変の魂の存在を、我々は神と呼びます。
我々アルフレイアの民は、心の拠り所がないと生きられない性を持っていますので。それを神と呼ぶのです。その神々の住む世界を、『神界』、我々は『リテイア』と言います。本来、宇宙とはこの三つの世界から成り立つべきものでした」
タリューシカはここで一息入れた。
彼女は自分が喋り過ぎていることに気付いていない。
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