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第10部;十月〜野外活動〜-7

「きゃぁぁぁぁっ!」

 そこにいる誰もが、誰か一人くらいは滑るだろうと予想してはいたが、案の定、ナミが悲鳴をあげながら滑り落ちて行った。

 転がり落ちるほど急ながけではないので、彼女は土手の下まで滑り落ち、尻餅をついて止まった。

「痛ぁい!」

「そりゃ、当然だ」

「バカ、茶化すなってば、ポン。ほら、コメチ、救急箱貸して、早く。ナミもジャージまくっついてヮ。今、行くから」

 シキは手際てぎわ良く言うと、うまくバランスを取りながら土手を滑り降りた。

 彼のよく気が付くところは女性的で、普段も男としては少し軟弱そうに見えるのだが、すぐに急斜面を器用に滑り降りたり、怪我に対する冷静なところなどは、意外なくらいに頼もしい。


「あ、どうせすぐそこなんでしょヮ。だったらポイントチェックだけしてきちゃってよ。ボク、ナミの手当てしちゃうからヮ。結構擦りいてるから、消毒したいんだ」

 手際よくナミの怪我を処置しながら、シキは待っている五人に言った。

「それでいいなら、そうしちゃうよヮ」

 ナミの状態が大したことないのを見たポンは、さっさと立ち上がり、コメチはそんなポンを視線でねめつけたが、シキはそれを制した。

「待たれるのも落ち着かないしさ。ほら、サキもここにいた方がいいよヮ。肩で息してんじゃん」

「あら、ほんと」

 シキが気付くまで、誰もサキの健康のことを気にすることを忘れていた。

「サキ、お前、シキの言う通りにしとけよ」

 健康のことでもなければ、サキに命令などできないカズヤは、ここぞとばかりに言ってやった。

 しかし「いいや、行く」と、すぐに拒否される。口をとがらせる様は、まるで駄々っ子だ。

「いいじゃん、すぐそこなんだっけ、最後の感動の瞬間に立ち合ったってなあ」

「ええやんか。本人が一番判るやろ、自分の身体なんやし」

 あまりの駄々っ子ぶりに、思わずアキラが助け舟を出し、それでも不満そうな顔をしていたカズヤとの間を取り持った。


「じゃ、行くか」

 五人はナミとシキを置いて、最後のポイントを目指して先へ進んだ。

「ねえ、そろそろでしょ」

 コメチの声が、気持ち弾んでいる。

「んだな。あの小川の向こうの、少し高くなってる所の裏っ側くらいかな。地図ではそうなってる」

「よっしゃ、賞品だ!」

「あ、待ってよ、ポン」

 走り出したポンを、コメチが追った。

「元気やねえ、若い二人は」

「何、年寄りくさいこと言ってんだよ、アキラ」

「悪いなあ、老けてて」

 アキラがそう言って笑った時だ。


「きゃぁぁぁぁっ!」


「何だ、またこけたんか?」

 三人は走り出した。

 よく聞けば、コメチの叫び声に混ざって、ポンの叫び声まで聞こえる。

「何だ、何なんだ?」

 尋常ではない声に、三人はいよいよ不安になって、走る速度を上げた。

「あっ、どうした?」

 途中でコメチを背負ったポンが、トランシーバー片手に突進してきた。それはもう必死の形相で、三人とすれ違ったことすら気付いていない。当然、呼び声にも気付かない。

「こっ、こちら5―B、5―B!さっ、最終ポイントに、くっ、くっ、熊がぁっ!現在退避中!現在退避中!」

 三人は顔を見合わせた。

「今、ポン、何て言ってた?」

「熊とか言ってたような……」

「オレはまた、親子連れの猪が突進して来たのかと思ったぜ」

 二人の後姿を見やりながら、アキラは余裕綽々しゃくしゃくだ。

「さあて、猪を走らせたものでも、見に行きますか」

「え?行くのヮ?」

「当然やん。じゃ、どうやってポイントチェックするんだ?」

 びくびくするサキとカズヤを引き連れて、アキラは最終ポイントへと向かった。

 三人が三人とも、自分たちの持っている特殊な力を使うという発想はない。


 やぶに隠れてポイント地点を覗くと、たしかに黒い毛むくじゃらの物体がそこにいる。

「あ、あれま、ほんとやわ。ちょっと退いてもらわんと、記号がチェックできへんな、こりゃ」

「どうする?」

「まあ、任せろ」

 アキラは二人を一歩下がらせると、その二人が止める間もなく、無謀にも熊の前におどり出て行ったのだ。

 二人を一歩下がらせたのは、自分のあの瞳の色を見られないようにする為で、アキラは熊にその場を離れてもらうように説得していたのだった。ただはたから見たら、熊がアキラの眼光に迫力負けして退散したように見えたに違いない。

 実はアキラは、熊と語ることに集中しすぎていて、瞳の色を変えた瞬間に世界の風景が変わってしまっていたことに、気付いていなかった。


「おい、熊、退いたぜ」

 振り向いてアキラは絶句した。遥か彼方に、逃げ出したサキとカズヤの後ろ姿があるではないか。

「―――!」

 ようやくアキラは状況を把握した。

「何で連中まで巻き込まなくちゃなんねぇんだよ!誰だよ、呼び出したのは!」

 アキラは彼女らしからぬ声を上げ、地面を蹴った。かなり取り乱している。

 その時、不気味なほどに生温い突風が、アキラを襲った。

 その突風は、シキやナミのいる方向から吹き付け、アキラの身ぐるみを剥ぎ取り、全く別の、見慣れない形の服を与えた。

 突風が吹き抜け、アキラが顔を上げたとき、その顔は別人の者になっていた。




次回から第11部;十月〜Alfreaken〜を始めます。




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