第10部;十月〜野外活動〜-6
大体コンパスだけでは先に進めないはずの競技なのに、地図とコンパスを簡単につき合わせただけで、先頭のアキラとサキは、始めから絶好調とばかりに飛ばしていた。予定外に登山がなくなった分だけ、サキの体力が温存されている所為もあるだろう。
「そのまま真直ぐ行くと、ポイントあるよヮ」
「おう!」
ポンに言われ、そのまま小走りに行った先頭の二人は、カズヤが止める間もなく、薮に隠れていた小川に突入。ポンは舌を出している。
「お前、知ってたな、ポン」
「あははははっ」
「アキラ、やっちまえ!」
「おうよ。二度とひっかかるものか」
アキラとサキは、ポンを小川に引きずり込み、気が付くと、全身ずぶ濡れになるまで、全員で水遊びをしていた。暫くはしゃいでいたが七人だったが、そのうち、自分たちがたった一つしかポイントを見付けていないということを思い出すと、慌ててずぶ濡れのまま次のポイント目指して走り出した。
「ポン、もう、お前のことなんか信じないで」
「えぇ〜、ちょっとは信じろよ」
「誰が信じるか、この前科一犯め」
今度は全員で頭をつき合わせて地図と睨めっこし、そうしてルートを決めたら、ポンやカズヤのちょっとした悪戯に引っ掛かることなく、アキラとサキは迷わずポイントへと確実に辿り着いた。
ポイントを見付ける度に、持たされたトランシーバーで報告すると、どうも自分たちの順位はどんどん上がって、あれだけ道草をしたというのに、トップになっているらしい。
それに気を良くし、午前の部の人間が土から抜いて薮のなかに投げ捨てたのか、隠されていた九つ目のポイントをコメチは見付けると、地図上とは全然違うところにポイントを移動し、草までかけて隠している。
「コメチ、何もそこまで……」
「いいのよ。どうせこのコース、五組はもう使わないんだっけ」
「これで、差は広がるばかりだっちゃね。ざまあみろってんだ」
「あぁあ、あたしたちって、悪人だっちゃね、完全に」
「何を今更」
「そうそう」
悪いなんて口先だけの話だ。
「なあ、明日の夕飯、何だったかや?」
「またぁ。いっつもそればっか」
七人は余裕たっぷりに休憩していた。
「あー、こちら5―B」
「おい、ポン。さっき報告したべや。今更白状すんのかヮ。オレらが9ポイント隠しましたって」
ちょっぴり慌てるサキを手で制し、ポンはトランシーバーの応答を待った。
「まさかぁ。あ、先生、オレ、東海林だけど、明日の夕飯が気になってやぁ。何だったかや?ちょっとそれだけ教えてくんない?気になって動けなくなっちゃって、オレたち」
『……勝手なこと言うな。動けないのはお前だけだろが、東海林。大体、こんなことで交信してくるな』
「あっ、そりゃねぇべ!……勝手に切りやがった。冷てぇの」
「それが普通よ、ポン」
「さあ、行くぞ。ラストは近いぞ。ポン、賞品が待ってっとヮ」
「あっ、んだ。そいつがオレを呼んでいたんだった!」
「……」
賞品の一言で、弾かれたように歩き出したポンに、思わずメンバーは笑った。
野生児のような七人は、本気を出せばとにかく速い。
「地図によると、この土手の真下に最後のポイントがあるんだけど……」
カズヤは地図をみんなの前に広げた。
「もっとまともなルート誘導できひんのか、カズヤは」
一同は足元の斜面を見下ろした。そこは明らかに道ではなく土手の部類だ。下りられないほど急ではないが、坂と呼ぶには急斜面すぎる。
「いや、面目ない」
思わずカズヤはアキラに謝った。
「等高線見てないんだよ、カズヤは」
「仕方ないっちゃね、カズヤだし」
「んだんだ。何せ天然だからヮ」
言いたい放題だが、本当は全員でルートを決めているのに、言葉が強いアキラの勢いに負けて、カズヤがうっかり謝ってしまったが為に、全部がカズヤ一人の責任になっている。
「いいわ。埒があかないから、そのまま真直ぐ行きましょ」
コメチは何も考えずに行こうとした。
「おい、オレはお前のこと気ィ遣ってんだぜ。回り道した方が、安全だって」
「あなた、何年わたしと付き合ってんのヮ、カズヤ。甘く見ないでよね」
「そういう問題かよ、おい」
「さあ、行くわよ」
牧場は嫌だとごねていた人間がこれかよ……、と、誰もが心の中で思っていた。しかもたった二日前なのだから、おかしな話だ。それでもコメチの性格を知っているから、誰もそのことを口にしたりしない。
しかし今から下ろうとしている土手は、見れば見るほどかなり急勾配で、思わず躊躇ってしまうようなスキー上級者コース並みの斜度だった。
「コメチがいいんなら、ええやんか。ナミはどうやねん?」
「多分、何とかなると思うけど……」
「それじゃ、行ってみよー!」
無謀にも、そこら辺に生えている木の枝や草に掴まりながら、一人一人手を取りながら、慎重に七人は土手を下り始めた。
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