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第10部;十月〜野外活動〜-5

 二日目の登山。

「アキラなんてやぁ、頂上で風に飛ばされたりして」

「あはははは、ありえるー」

「ばかやろー、ベジタリアンをなめるんじゃねえ。良質の蛋白質、ちゃんと摂ってるんやさかい。お前ら肉食獣めが」

 昨夜の説明会の最中に(しゃべりすぎてしかられたというのに、アキラは朝礼中にまた喋っている。

 この朝礼は、登山の中止を告げる為のものだった。

 窓の外では夜中から降り始めた雨が、止む気配なく続いている。これでは二〇〇〇メートルを超える山を登るなど以ての外だ。

 山の天気は変わりやすいということで、違う山の登山も学校側は考えていたが、ふもとの天気が持ちこたえていても、その山も雨天との情報が入って打つ手がなくなり、この朝礼だ。


「この雨、ポンがジンギスカン食べなかったからじゃないのヮ?」

 コメチがくすくすと笑いながら、ポンの柔らかい横腹を小突き、ポンは「あはっ、バレたぁ」と笑っている。

 宿舎の体育館に集められ、中止の旨を説明されながら、生徒たちは勝手にこそこそと喋っている。

「じゃあ、今日も自由行動かャ?」

 そこまで都合良くはなかった。

 学校行事というものは、そこまで生徒に甘くはない。


「だからっつってやぁ、何もこんな雨の中カッパ着て、溶岩流の跡なんか見に来させるかよ、普通」

「だって、ただの溶岩が流れた跡だべ。流れてるってんならいいけどやぁ」

「うわ、マジで意味ねぇ」

「つーか、流れてるとこなんて危険だから連れてこないって」

 生徒たちは、皆、文句たらたら言いながら、足場の悪い道を歩いていた。

「絶対ここ、登山以上に危険だっちゃ。足場、むっちゃ悪いし、こけたら痛いよヮ、これ」

「もう、こけたよヮ」

「一組と二組と交替で、午後はナントカ地熱発電所見学だって」

「ふざけんじゃねえよ。誰が行きたがるってんだよな」

「腹の足しにもなんねぇ」

「先生も何考えてんだかなーっ」

「これじゃ、教室で授業受けてた方がマシだよな。居眠りできるもん」

 あちこちから悲鳴が聞こえてくるのは、誰もが悪い地面に足を取られて転んでいるからだ。この状況に文句を言わない者はいない。

 実際、教師たちも音をあげていた。

 雨だから自由行動では、学校としての示しがつかない。建前としての行動だから地熱発電所も簡単に廻る程度で切り上げて、早々に宿に戻り、朝しなかった宿舎の掃除をしてから、宿舎内で自由行動になった。

 とはいえ、やれることといえば、体育館で球技をするか、部屋で駄弁だべるくらいしかない。

 動き盛りの中学生には退屈極まりないというものだ。


 酷く退屈だった二日目が終わり、三日目。素晴らしい秋晴れの一日だった。


 三日目の日程は、午前中は各クラスのA、C、E班がオリエンテーリングをして、B、D、E班が野外炊飯で豚汁とカレーを作る。午後はその逆だ。そして夜はキャンプファイアーを囲む予定だった。

「カレーと豚汁なんて、まったく芸がないったらありゃしない。ちょっと、ポン!うちは肉抜きなのよ!」

「えぇ〜っ?!」

 肉を鍋に入れようとしているポンを見咎みとがめ、コメチはその手をピシリとはたいた。

「仕方ないでしょ。アキラが食べられないんだからヮ。文句言わないの!」

 うぅ、と言葉に詰まって唇をとがらせるポンを、ナミが宥める。

「ねぇ、ポン。豚汁はけんちん汁にするけど、ほら、カレーの肉はちゃんと後乗せであるから」

「ナミは優しいなぁ。じゃ、ちょっくら一仕事してくるよヮ」

 現金なポンは空の飯盒はんごう片手に、喜び勇んで何処(どこかへ駆け出して行った。そして戻ってきたその手には、炊き立ての飯盒が握られていた。

「いっただ〜きま〜す♪」

 出来上がったカレーと豚汁と炊き立てのご飯を前に盛り上がるB班の後ろで、「きゃ〜っ!ご飯が空〜っ!」という悲鳴が聞こえても、七人は完全に聞こえないふりをして食事を続けていた。


 午後の日差しは強かった。十月半ばだというのに、半袖になりたくなるほどの陽気だった。しかしこれから道無き道を進むというのに、半袖になるのは無謀だ。それぐらいのことは、神森の人間は判っていた。

「優勝賞品、何だべな」

「そりゃ、いいもんだっちゃ」

「サキ、今日の調子は?」

「バッチリ」

「じゃあ……」

 七人はスタートの合図とともに、飛び出していった。例によって、賞品という言葉は原動力となる。


 オリエンテーリングのコースは六コースあって、各クラス一チームが違うコースで同時にスタートし、前のチームがスタートしてから十分おきに次のチームがスタートする。しかも同じクラスの班が、同じコースをやらないよう、ばらばらになってもいた。

「何もそこまで、徹底しなくてもなぁ」

「んなことどうでもええねん。えーか、目指せ賞品やで」

 七人はとにかく一つめのポイントを目指した。

 コンパスを持っているのがアキラとサキ。地図を持っているのがカズヤとポン。ナミはトランシーバーを持たされるはずだったのだが、何故かポンが持っている。コメチとシキは、仲良く救急セットを持っていた。




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