第10部;十月〜野外活動〜-4
※10-1同様、本文中に、真似してはいけない設定があります。
交通法規では認められていないので、決して真似しないで下さい。
「何であなただけが戻って来たのよ」
先に口を開いたのは、コメチの方だった。
「んなの、こっちの勝手だろ」
サキはプイと横を向いた。
何となく、その態度はサキらしくないと、長い付き合いのコメチはすぐに気付いた。そしてそのらしくない態度は、サキがコメチに作ってくれた、膠着状態を脱するチャンスだと、彼女は思った。
でも実際のところは、コインロッカーの件を説明するのを、サキはただ面倒臭がっていただけだった。
「ごめんなさい」
俯いて、照れくさそうに、コメチは消え入りそうな声で言った。
「無理すんなよ。これ以上憎まれ役になるのはごめんだっけな」
「性格悪いわね、昔っから。これでも本気で謝ってんのにヮ」
「悪かったな、性格悪くって」
そう言いながらも、サキは片膝を着いてコメチと目線を合わせると、少し赤くなっている頬に手を当てて言った。
「痛かっただろ。謝んのはオレの方だよな、ごめんな。確かに女に手を出すなんて最低だよな」
「あら、性別なんて、あなたは気にしてないのかと思ってたよヮ。アキラと喧嘩したっちゃ」
「からかうなよ。あいつは例外。マジで強いから、本気出さなきゃこっちが危ない」
「それもそうね」
二人は笑った。
「ったく、勝手なこと言いよって。後でどついたる」
アキラが歯軋りしていたことは、言うまでもない。
一方、覗かれていることなど知らないサキは、コメチの額に自分の額をコツンと当てて、コメチの目を見て微笑んだ。
「な、これで終わりにすっぺしな」
「そうね」
サキの細い目が針よりも細くなり、コメチも微笑んだ。
「おらおらおらおらぁっ!」
「ちくしょうっ!ったく、ヨロシクやってんじゃねえよっ、勝手なこと、さんざ言いよって」
これ以上隠れていたら、もっとすごいことをやりそうな気がして、五人は乱入した。至極和やかな雰囲気は壊され、いつもの騒々しい七人が揃った。
結局牧場へはタクシーで行くことになった。
勿論、運転手のおじさんを口説き落として、朝と同じような乗り方で無理矢理に乗り込ませてもらったのだ。
決して良い子は真似してはいけない。
牧場ついて、まず始めにしたことは乳絞りだ。これが結構難しい。あの何でもできるアキラでさえ、手間取っていた。できたのはサキ、コメチ、ポンだけで、三人は農家の出だ。ある意味当然とも言える。
それから工場見学をし、チーズなどの試食品を食べ尽くし、満腹したところで乗馬体験。アキラは名誉挽回とばかりにヒラリと馬にまたがり、障害を飛び越してみせた。彼女ならできて当然なのだが、その理由を知る者は一人もいない。
「こんなの、牛と同じださ」と、負けじと馬にまたがったのはサキとポン、カズヤ。残されたコメチとナミ、何故かシキはポニーに跨り楽しんでいる。
飽きたら羊の囲いのなかで鬼ごっこ。そして、待望のジンギスカン。
「ところで……」
「ん?」
ポンはシキに声をかけられて振り向いた。
「ジンギスカン、食べられる?」
「……そうなんだ、困ってんだ」
ポンは立ち止まった。「だってやぁ、今の今まで羊と遊んでたんだぜ。さすがのオレでもできないんだよな」
「よく言うよ。そんなのだったら、ポン、牛肉も鶏肉も食べられないはずだっちゃ」
シキは素直に思ったことを言った。
「それを言ってくれるなよ、シキ。あれはそういう目的だって、物心ついた頃から解ってるからいいんだよ。それよか、なあ、サンドイッチでもそこらで買ってやぁ、どっかで食うべ」
「エライ!よく言うた。それでこそ、豊かな国の住人やわ」
「大変よ。これから嵐がくるわ」
「んだんだ」
全員がポンをおちょくったが、お人よしのポンはニコニコしながら「雨具準備するかぁ」などとふざけている。
結局サンドイッチとソフトクリームで昼食にし、それからアーチェリーに挑戦した。これはもう、ガイドブックお決まりのコースだった。
時間きっかりに、朝、一悶着した駅に集合し、宿舎に迎うバスの中で、七人は爆睡していた。
「何なのや、こいつら。よく眠ってるこた」
「遊び疲れたんじゃないのヮ」
「でも、サキとコメチ、朝っぱらから駅で大喧嘩してたぜ、行きに」
「あ、見た見た。あれはヤバい。アキラまでおろおろしてたよな」
「で、もう仲直りしてんだ」
「天才連中は解んねえよ、どうなってんのか。こいつら妙に仲良いしなャ」
「でもやぁ、こう、幸せそうだと、鼻の穴にポッキー詰めたくなっちゃうよな」
「やめとけ、アキラだ……」
徹底的に笑われているのにも気付かず、眠っている時だけ平凡な人間の輪の中に入れてもらえるアキラは、静かに寝息をたてていた。だが、まさかB班の平凡なメンバーを自分の不可解な世界に引き込み、二度と平凡な世界に戻れなくしてしまうなど、その時アキラは夢にも思っていなかったし、他の六人も、いつもの日常が失われていくなどとは、それこそ夢にも思っていなかった。
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