第10部;十月〜野外活動〜-3
向こうから二人が現われた時には、既に電車は出発してしまっていた。
「あら、行ってて良かったのにヮ。うちら市内歩いてたっけ。ね、ナミ」
「え、……うん、まあね」
コメチの発した第一声に、五人は当然唖然としてしまった。大らかなポンや、優しいシキまでもがだ。ナミはいつものように、気の強いコメチに引きずられている。
「一体、何処サ行ってたのヮ?」
極力感情を押し殺した声で、サキはコメチに問いかけた。
「何処って、コインロッカーに決まってるっちゃ。あんな重い荷物、持ち歩きたくないもの。判り切ったこと聞かないでヮ」
あっけらかんとコメチは答える。サキの怒りに気付かない彼女ではないが、ここでしおらしくするような彼女でもない。そしてサキもこのコメチの性格を知っている。
「何なのや、自分勝手に。お前が煩いから、少しでも負担軽くしてやろうって、せっかくアキラが走ったってのに。オレらだって、お前らの荷物、少し持ってやってたんだってのにや」
サキは精一杯堪えて言った。
「ああ、そうね。ありがと。けどね、あなた、比較の対象間違えてない。体力に見合った荷物でしょ。こっちが感謝してもらいたいくらいよ。わたしたちが来るまで休めたんだからヮ」
コメチは強い。シキやポンやナミ、カズヤまでもがオロオロしているのなどお構いなしに、サキと睨み合っている。サキと口喧嘩できるのは、コメチくらいだ。
「何か文句ある?」
コメチは居丈高に言った。
パチン!
「何よ!」
とうとうサキが手を出した。
コメチは頬を抑え、涙が落ちないようにサキを睨み付けた。その涙は気持ちが折れた涙ではなく、単に痛みに対して反応して出てきただけのものだということを、精一杯表情で主張している。
「馬鹿じゃないの。手をあげれば済むと思ってるの」
「ああ、もう、うるせーんだよ、自己中女」
険悪なムードは、最高潮に達した。
「ごめんなさい。あたしがいけないのよ。タクシーで行きましょヮ。ね、ね」
ナミは二人の間を取り持とうとしていったのだが、サキとコメチの二人に凄まれて、余計に萎縮してしまった。
そんなナミを見て、珍しくアキラが、しゃがんでナミと目線を合わせ、「気にすんな」と慰めてやる。
「すぐ手が出るんだから。サイテー」
痛みで涙声になってはいるが、コメチは睨み付けることだけは忘れずにいた。
「何度も同じことで手を出されてるくせに。学習能力ない猿じゃあるまいし」
サキも負けてはいない。言うだけ言うと、「オレらもロッカーさ入れて来っぺし」と、コメチに背を向けて歩き出した。男連中は、その後に続いた。
「この件に関しては、オレは何も言わへんけど、コメチも意地張ってんじゃねーよ。あいつ、コメチの性格、誰よりも解ってるやんか。こういう場合、素直になった方が格好ええで。泥沼化する前に、コメチが動いた方がええ。
今更引けない気持ちも解らないでもないけどな、言いにくかったら、泣いて抱きついちゃえよ。オレとあいつと、最低二人はコメチのことを理解してやれるで」
とり残されて泣きだしそうなコメチを見て、アキラはそっと耳打ちし、彼女もロッカーに荷物を入れに行った。
「ありがと、アキラ。あなたが優しいの、わたしだけでも解ってるよヮ」
「オレが優しかったら、誰もが優しいやんか。オレは性格も性別も中途半端なんやわ」
振り返らずに言うところが、アキラの気障なところだ。
サキかなり怒っていた。相手に怒っていたし、怒ってしまった自分に対しても怒っていた。本当は手を上げるつもりなどなかったのに、噛み合わないやりとりに苛立って、つい手を上げてしまった自分に自己嫌悪だ。
乱暴にコインロッカーに荷物を投げ込む彼は、いつものサキらしくない。
「なんだよ、サキ。ここ、もう空きがないっちゃ」
カズヤが自分の入れる所を探そうとして、ないことに気付いて言った。
「サキ、先に戻っててよ。あの二人、もしかしたらどっか行っちゃうかもよ」
「それは、まさかあのコメチでもしないと思うけど……」
サキはそう言ったものの、シキの言ったことも気になって、女子二人の所に戻って行った。
「シキ、ナーイス」
「大成功」
それが四人の作戦だったことなど、怒っているサキが気付くわけがなかった。
「これでナミがこっちサ来たら、完璧なセッティングなんだけどなャ」
「ま、ぜーたくは言わんとな」
「にしても、あのサキに手を出させるなんて、コメチもコメチだっちゃね」
「でもやぁ、サキだって、コメチだからって甘えがあるんじゃないのヮ」
「あ、んだよな」
四人はゆっくりと戻り始めた。と、向こうからナミが来るではないか。
「なんかね、あの二人の邪魔しちゃいけないような気がしてヮ。んだっけ、あたし、トイレって言って来ちゃった」
「ナミ、ナイス」
五人はこっそり、物陰からサキとコメチの成り行きを見守ることにした。
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