第10部;十月〜野外活動〜-2
十月も下旬になると、朝晩の冷込みは厳しくなる。
コンコースでぎゃあぎゃあ文句を言いながら、肩を寄せ合って出発の時間を待つ。校長や実行委員長の挨拶などくそくらえだ。大体、朝っぱらからこんな所でこんな人数が集まって出発式をすること自体が、そもそもの間違いというものだ。これさえなければ、あと三十分は余計に寝ていられたものを、この場所では寒すぎて、挨拶の最中に居眠りすらできない。
それ以前に、朝の通勤通学のラッシュ時間帯に、これだけの人数が駅構内に群れを成していること自体が迷惑なような気がしなくもない。
ようやく出発式は終わり、学年総勢約二百人が、新幹線ホームに移動し、やって来た新幹線に素早く乗り込んだ。
それから約一時間弱、車中は当然騒々しかった。
牧場行きたい代表のポンが、車中で予定の確認を始めた。市街地にいたい代表のコメチの意見は完全に黙殺され、結局彼らの行き先は牧場となったのだ。
「牧場行きの電車、地下ホームなんだって。乗り遅れたら大変だよヮ。たった五分で四階から降りるなんて」
「で、もしもの時は、何分待ち?」
「一時間半」
「え?」
「だから、一時間半」
「何それーっ。無理だっちゃ」
「んだから、ダッシュするよヮ」
牧場に行きたいポンにとって、別にダッシュはどうということではない。彼はにっこり笑っているが、他の面々はそう笑ってもいられない。
「ポン〜、調べとくから任せろって言うたの、お前やんか。もっとマシなルートないわけ」
「いや、面目ない。これしかないよヮ」
「信じらんない。この荷物持って走るのヮ?わたし、あなたたちと違って体育会系じゃないんだから」
案の定、コメチは文句を言った。
解らないでもない。四日分の荷物だ。
「今更往生際悪いぞ、コメチ」
サキがうんざりしたように、それでいて諭すような口調で言った。
「いちいちうるさいわよ。あなた、わたしの親じゃないんだからヮ」
コメチとサキは幼馴染みの所為か、とにかくよくぶつかり合う。仲が良い証拠なのだろう。
「まあまあ」と、シキとナミが間を取り持って、その場は取り敢えず収まった。
駅に到着し、一同は他に牧場を目指すグループと先を争うようにして新幹線から降りると、地下へ階段で急いだ。エレベーターは無いし、エスカレーターは遅いし混雑している。そしてコメチは煩かった。
「ちょっとぉ、荷物重たいんだから、もう少し気を遣ってよ」
「じゃあ、先ず、中のくだらない荷物を捨てろヮ。どうしてこんなに荷物が増えるかなぁ」
それでも、少しは二人の荷物は男子が持ってやっていたが、荷物が多いのは女子の特権だ。滅多に平日に私服を着る機会などないのだから、毎日だって違う服を着てお洒落していたいのが女心ってものだ。男子はそれを解っていない。
「くだらないって何よ。全部大事なんだから。中身知らないくせに」
「じゃあ聞くけど、ドライヤーっているか?バスタオル何枚入ってるんだ?大体、私服そんなにいるか?宿舎じゃ殆どジャージでいるってのに」
「細かいことで煩いわねえ。ドライヤーなかったら風邪ひくじゃないの。あなた、わたしが持ってきたパンツの枚数まで聞きたい?」
「質問を摩り替えるなよ」
コメチとサキの喧嘩はだんだんヒートアップして、もう誰も止められない。このやりとりを走りながらするくらいなら、もっと速く走れるはずだ。
あまりの煩さに耐えられなくなったのか、アキラが一番に抜け駆けをした。
「オレ、先に行って、切符全員分買うとくさかいな」
「あ、アキラ、荷物持ってやるよヮ」
「ええねん」
アキラは手を出したポンの好意を断り、大きな荷物を抱えたまま駆け出した。
「体力あるやっちゃなャ」
感心しながら六人は急ぎ、地下にようやく辿り着いた。改札ではアキラが、「急げ」と手招きをしていた。
「おい、コメチとナミは?」
静かになったとは思ってはいたが、まさか二人が失踪していたとは、四人はアキラに言われるまで、気が付いていなかった。
「お前らなあ、さっきのコメチじゃないけど、一応体格のいい男なんやさかい、ちっとは気を遣ってやれよ。二人はか弱い女の子なんやさかい」
「なーにが、『か弱い女の子』だ」
「サキ、お前、コメチが関わると一言余計だぞ」
アキラはサキの小さな独り言を注意した。
「それより、どうする?電車、出ちゃうべや。行っちゃうかャ」
「カズヤ、班行動だよ」
シキが釘を刺した。無頓着な天然パーのカズヤなら行きかねない心配があった。
「ったく……」
サキは、露骨に嫌悪の表情をしている。ポンは「ジンギスカン」と呟くばかりで、シキはおろおろしっぱなし。そしてアキラは相変わらず無表情のままだ。
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