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第9部;九月〜初舞台〜-7

「お疲れェ」

 たった三十分のステージだったが、張り詰めた緊張感の所為せいで、疲れがどっと出てきた。

「いいわよね、アキラは。緊張なんて知らないでしょ」

「ああ」

 あっさり認められて、ナミは肩をすくめた。

「それってサキもじゃないのヮ?ボク、隣で緊張してたのに、全然平気そうだったっちゃ」

 シキがまだ緊張の解けていない強張こわばった面持ちでサキを見やった。

「ああ、オレ、緊張すると身体に悪いから、緊張しないようにする癖ついてるなぁ」

 ニッコリと糸のような目を細めて、サキは微笑んだ。

「ま、とにかく終わり良ければ全て良し、と」

 ポンが手を打って、話をそこで締め、一同は笑った。

「さ、後片付けすっぺし」

 取りあえずステージ袖に置いておいた個人の楽器を、本当はいけないのだが自宅に持って帰って再登校しようというのだ。

「いいこと、ポンが自転車を裏門に回して待ってるから、こっそり行くのよ」

「へいへい」

 一同は周囲をうかがいながら、そっと裏口へ荷物を運び出そうとした。


「あのう……」

 裏口からそっと抜け出そうとしたところを、一同は突然後から声をかけられた。その声に、コメチとナミは小さく飛び上がって驚いたほどだ。

「あ、スミマセン。桂小路 晃さんですかぁ?」

「え?はい。あ、あぁ」

 学校の人間だったら、この現場を上手うまく逃げる為に笑顔の大安売りをしてやる。そのつもりで振り返ったアキラは、TVのカメラを見た途端にあからさまに声をトーンを下げ、不機嫌そのものを露骨に表情にまで出していた。

 しかし、TV局の人間がひるんだのはその声ではなく、ステージの上の彼女とのギャップだった。ステージ衣装のままかと思えば、それはなんと時代錯誤の制服で、彼女はそれを普通に着ている。


「何ですか?」

 何をされるのか分かっていながら、アキラは無愛想に尋ねた。相手の思惑などお構いなしだ。

「今日のことですけど、今日、三回ステージに立ちましたよね。それぞれ違う雰囲気だったけど、将来は音楽活動するの?どの方面の音楽を続けていくつもり?」

 彼女のことを知るわけがないTV局の人間は、全くアキラを中学二年の子供と見て話しかけてきたが、それは大きな誤算だった。

「さあ。どっちもやるかもしれないし、どっちもやらないかもしれない。そして、どれもやるし、どれもやらない。何れにせよ、あんたに言う必要ない」

「え?」

 アキラのなぞなぞのような返答に、リポーターは、アキラがバカなのか、自分がバカにされているのか、とにかく解らないけど不愉快だと言わんばかりの顔を見せたが、すぐに仕事を思い出して、表情を引っ込めた。

 アキラは、たとえ一瞬でも不快な顔を見せたリポーターを見て満足気な顔をし、プイと横を向いてキーボード二つをサキの腕からひったくって先を行こうとした。

「あ、ちょっと!まだ質問終わってないんだけど!ねえっ!」

 仕事だから、当然大人は呼び止める。アキラはその声に足を止めた。

「ソロ・コンテスト全国大会で最優秀を取る自信はある?今日のバンドでコンテストやオーディションに出場する気ある?所詮マスコミ関係の人間の聞くことなんて、こんなとこでしょう。

 ソロ・コンはまだしも、バンドのことはオレに聞くな。そんなことにいちいち答えていられるほどヒマ人じゃねぇんで、オレは」

 アキラは振り向きもせずにそれだけ言うと、荷物を自転車に積み出した。


「やめといた方がいいですよ。悪いことは言いませんから。アイツ、そんなに優等生じゃないから、気に入らない人間を見ると、無性にいじめたくなる悪魔的な人間なんですよ」

 サキは、呆然としているリポーターにそっと耳打ちした。

「アイツは頭が異常にヨロシイから、俗な質問する人間が大嫌いなんですよ」

 サキはそう言って、彼もまた皮肉な笑みを浮かべた。「何なら、オレが彼女の代わりになりましょうか?」

 サキもいい根性をしている。ちゃっかりアキラに便乗して言いたいことを言っているのだ。

 リポーターは肩で息をした。

 ここは神森だ。変わった風習を守り続ける、変人の集まった土地だからしかたない。そう思うことにした。

「い、いや、結構。こっちは彼女の音楽について聞きたかっただけだから。悪かったね。彼女にも謝っといてよ。じゃあ」

 リポーターはカメラマンを促して、逃げるようにその場を後にした。


「さっき、張り切ったなんて言ってたのにや」

 カズヤはアキラのキーボードを一つ受け取りながら聞いた。

「お前、本気でオレがあんなこと言うと思うたのか?まったくとんだ誤解、本気なら侮辱に近い」

「でも、そう言ったべ」

「ああ、言ったさ。けど、お前らの緊張を解す為に決まってんじゃねえか」

「え?」

 不機嫌の塊のようになってしまったアキラの後ろ姿を、カズヤは理解できずに目で追うことしかできなかった。彼女が永遠に相容あいいれない存在のように感じて、何故か肩が落ちていった。




次回から第10部;十月〜野外活動〜を始めます。




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