第9部;九月〜初舞台〜-5
文化委員会は《生徒たちの反逆》をテーマとし、教師に一切の口出しを許さずに運営していく方針を打ち出した。教師も、責任の範囲内で点検はするものの、生徒たちの挑戦を受けて立ち、何処までやれるのかを試しているといえば聞こえはいいが、はっきり言って怠けながら楽しんでいた。
近所の酒屋からビールケースを大量に借りてきて、教室に二面舞台を作って劇をやるクラスあり、飲食店あり、予定ではかなり密度の濃い文化祭が出来上がることになっていた。勿論、その中で、アキラたちのように、バンドを組んで演奏するものも少なくなかった。
彼らのステージは、公平を期すためにくじ引きで決められるはずだった。
T・T・B・Gは、やる気のないクラスメイト数人を裏方に積極的に雇い入れ、練習に熱を入れていった。歌はかなり辛辣な詞もあり、夢見るような幻想的な詞もあり、曲も激しかったりせつなかったりと似たものは一つとしてなく、人真似を嫌う彼ららしい凝りようだ。
実際のところ、音楽の授業で作曲まがいを教わった程度のド素人に、コードを教えてみたって曲に反映させることなどできるわけがない。結局殆どが音楽経験者のアキラやコメチ、ナミ、サキのアレンジでできあがっていた。それだけ経験者が多かったからできたことだと言える。
ヴォーカルの高音部はアキラ、低音部はカズヤのツインヴォーカルでやることになっていた。二人の声は、ユニゾンになると一人の声のように溶け合って、二人で唄っていることを気付かせないほどぴったりだった。
文化祭は九月半ばの土日に行なわれた。
七人の出番は全員参加の吹奏楽と新設校の初文化祭の目玉、オーケストラの次。幸か不幸か、そんな立派な団体のすぐ後だった。
朝は早いわ、前は上手いわで、これでは緊張してしまう。
ただ、裏を返せばそれだけ、観客を集める手間が省けるというから楽だというものだ。
「ねえ、ちょっとぉ。TV局がね、午前の部のステージを撮るんだってよ。どうする?」
コメチが息急き切って走ってきた。
「どうするって、どうせ編集されるべや。若手注目のフルート奏者アキラ目当てなんだから」
「何言ってんのよ。その目当てのアキラはここにもいるっちゃ。バカじゃないの!」
「でも、目的は天才フルート少女、桂小路晃なんだから、こっちは無視されるべ」
「もう、知らないっ!あなた、つまらないったらありゃしないわ。まったくもうっ」
「悪ぃなぁ、つまらん人間で」
サキは落ち着いてチューニングしながら話相手をしていたものだから、コメチは興冷めして、ナミとかポン、カズヤを煽りに行った。シキは緊張して立てなくなる可能性があるから、さすがのコメチは怖ろしくてシキの所へは行けない。
「コメチ、何処で何油売っとんのや?部活放っぽってや。合わせするさかい、すぐ来い」
話題のネタにされていることを知らないアキラが、フルート片手にコメチを呼びに来た。
「あ、アキラ!TVがねーっ!」
「はいはい」
聞いても痛くも痒くもない話に、軽く返事をして、アキラはコメチを引っ張って行って、十分くらい経ってから、他の吹奏楽部員をぞろぞろを引き連れて楽屋に戻って来た。
そこには緊張した面持ちの仲間がいる。
「何や、カズヤ。もしかして、緊張してんのかよ?」
さすがのアキラでもシキはからかいにくいのか、手近にいたカズヤに声をかけた。
「当たり前だべ。心臓口から飛び出そうだよヮ」
「あほやねーっ。緊張するだけ損やで」
アキラはカズヤに何かの洋服を投げて、ステージへと消えていった。
「お……い、あれ、アキラらしくねえぞ、なあ……」
カズヤはすぐ隣にいたシキに同意を求めた。
「うん、まあ……いいんじゃない。あれもアキラなんだったらさ」
シキは緊張のあまり、あまり雄弁ではなかった。
体育館のステージ使用のバンドは、勿論T・T・B・Gだけではなかったが、大半は午後の部に集中していた。
オープニング・セレモニーが始まった。
「オレ、帰りたいよヮ」
カズヤとポンがせわしないのと反対に、シキはじーっとして動かない。
ファン・ファーレが鳴り響いた。開校して第一回目の文化祭だ。文化委員長、学校長、生徒会長が次々と儀礼的な挨拶をし、それからプログラム第一番、吹奏楽部の演奏が始まった。
彼らが演奏するのは、コンクールの課題曲と自由曲、他に乗りのいい曲を二曲。それからアンサンブル・コンテストに出場する、金管八重奏、木管五重奏、それとパーカスアンサンブル。
吹奏楽部の次に控えているのは、一同の反対側のステージ袖に待機しているオーケストラ。ここまでは、健全な中学校の文化祭の姿だった。
「おい、アキラ、あれとやるんだべ?すんげーこた」
ポンが相も変らずそわそわしながら言った。
「ああ、んだから、この服かぁ」
カズヤは、さっきアキラから投げ渡された洋服を広げて言った。
「まさか、制服じゃあ合わないもんな」
「おい、も少し落ち着いてやれって。可哀相に、シキとナミはがちがちに凍っちゃってるっちゃ」
いつも物静かなサキが、やはり静かに一喝入れると、カズヤとポンは小さくなった。
「んでもや、コメチがいたら、もっと煩くなってたべな」
「んだなや」
でも結局二人は話し始めてしまうのだった。
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