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第9部;九月〜初舞台〜-4

「冷たいこと言うようだけど、誤解すんなよ」

 サキはそう前置きをして続けた。

「オレはアキラの自業自得だって言ってるわけじゃない。ただ、もしオレが、その水鏡さまって人の立場だったら、オレも会いたくないよヮ、お前に。

 だって、自分の娘のような存在の人間がだよ、わざわざ地獄にちに行くって言ってるんだぜ。地獄っていうくらいだから、取り敢えずひどくってめちゃくちゃ辛い所なんだろ。だったら取り敢えず止めたくなるし、助けたくなるのが親の情じゃないのヮ?でもお前のことだから、何かを実現する為には自力で何とかしなきゃとか、手助けされる覚えはないとか、それじゃ意味がないとか、まあ難癖なんくせつけるだろうし。

 そんな聞く耳持たない相手で、本当に手出しできないって決まってるんだったら、見ない為には姿を消すしかないっちゃ。手助けや心配が迷惑になるんなら。

 ま、取り敢えず参考までにオレの意見だけど」

 サキは偉そうなことを言っている自分が急に恥ずかしくなり、照れ笑いをした。

「お前ってさ、本当お人好しだよな」

 アキラはそんなサキの顔を、まじまじと見て言った。

「よせ、照れる。どこがお人好しだか」

 サキは顔を背けた。


「さて、戻るか」

 アキラはサキの手を取った。表情は晴れ晴れとしていたが、深く刻み込まれた憂いは消えていない。それは両親を失った所為せいなのか、それともその過去を知ってしまった自分の色眼鏡なのか、サキには判らなかった。そこに触れてはいけないことだけしか判らない。

「飛べるっていいな」

 話は終わったのだから、サキは話題を変えた。

「だろ。ところで前から気になってたんだけどさ、お前、あんま他の連中と比べると、方言使わないんだな。どうして?」

「え、理由なんかないよ。なまってる相手なら、こっちも訛るけど」

「器用なヤツ」

「お前もじゃんか」

「生命の危険がかかれば、そうもできるようになるもんさ。こっちはエセ関西弁だけどな」

 二人は神社の裏手に降り立ち、それぞれの家へと帰っていった。




 時間は少し戻る。

 夏休みに入って暫くして、ハンドボールの市大会とアキラのソロコンテストが平行してあった。

「えーかっ、オレはソロコンの出場、午後遅いんだっけ、ぎりぎりまでお前ら見てるぞ。

 つまりだ、オレの見ている前で負けてみろ。どうなるか、お前ら判ってんな。」

 アキラはハンドの試合場でサキとカズヤに圧力をかけておきながら、試合が始まるとすぐに、ソロコンテストの会場へと向かった。

 別に意地が悪いわけではない。会場の空気に楽器を馴染なじませておかないと、どんな楽器も音が不安定になってしまう性質がある。演奏中の楽器のピッチのずれを防ぐ為にも、よく吹き込んで、楽器を温めておかないとならないのだ。

 しかし、サキもカズヤもそのようなことは知らない。そればかりか、アキラがいなくなっていたことにすら気付かずに、必死の思いで試合をしていた。


 神森中は、サキの心臓のおかげで他に例を見ない作戦で試合を運ぶ。スポーツ万能のサキの心臓に負担をかけずに、それでいて点数を確実に取るため、ぎりぎりまでサキにはボールを回さないようにし、コートの中で休ませているのだ。大抵のチームはそのことを判ってはいるのだが、ここぞという時のサキのセンスの良さに翻弄ほんろうされている。これは屈辱的なことだ。半病人にもてあそばれるなどということは。


 一方アキラはずっと「信じらんねえよ」を連発していた。

「あの人、最優秀候補なんやろ?あのピッチのぶれ、恥ずかしくねえのかよな。」

 引率の為に隣にいる葵はため息をついた。

「あのね、あなたのが……」

「オレは普通。」

 葵は問答を繰り返すことを止めた。

 もう、アキラのことは受け入れることに決めたのだ。それに、いつも同じ答えしか返ってこないのが判り切っている所為もある。

 結果は、ハンドボールもソロコンテストも堂々の一位だった。


 大抵の人間は、夏休みに入って用事がないと、一日十二時間睡眠になってしまうのがオチなのだが、七人はアキラの家で寝泊りし、バンドの練習に、宿題に力入れていた。やりたいことを子供みたいに無邪気に燃えていられるのは今しかないと、何気なく感じていたのだ。




 そして、再び元に戻る。

 夏休み明けて三日後、二、三年は実力テスト。結果はいつもと似ていて、アキラの一位、サキの二位に始まり、シキが七位に浮上しナミも十二位。コメチの十七位、ポンは大健闘の五十三位、カズヤは何とか四十九位だった。

 何しろ大御所、桂小路 晃の特訓が苛酷極まりないものだったと言えば、この成績は納得ができる。

 とにかくこの実力テストが終われば、晴れて試験勉強から解放されて、文化祭の支度に本腰を入れられるようになるのだ。




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