第9部;九月〜初舞台〜-1
9;九月〜初舞台〜
翌朝、空模様は酷く荒れていた。昨日の天気とはうって変わって、台風が来たわけでもないのに局地的な暴風雨に見舞われていた。
荒れていたのは空模様だけではない。神森中学校二年五組も荒れていた。
あろうことかその中心はアキラで、彼女の雰囲気を感じ取ってクラスの人間は勝手に騒ぎ出し、サキ一人の手に負えない状態。
諸悪の根源は机の上に足を投げ出し、ガムを食べながら、授業中にイヤホンをカシャカシャ言わせて音楽を聴いている。
サキはホームルームの為に黒板の前に立ちながら、全てを投げ出して逃げ出したい心境になっていた。
この状況では、ホームルームはいつになっても始められない。
「アキラ、ホームルーム」
呼びかけに返ってきたのは、凄味の効いた視線だけ。こちらは全然悪くないのに謝りたくなってしまう。それに負けないよう、サキはもう一度声をかけた。
「アキラ……」
「……」
「は……はははっ」
二人の間を、冷たい空気が流れた。
「ったく、いつまでもうるっせーガキどもだなっ!ちったぁサキの言うこと聞けや、スカタンどもめっっっ!」
アキラがクラスに一喝入れたのと、外で大きな雷が鳴ったのとは、殆ど同時だった。この二つの雷に、クラスはさすがに静まり返った。
この学級委員長、今に始まったわけではないが自分勝手極まりない。
『アキラ、一体どういうつもりなのヮ?』
サキはとうとうテレパシーを送った。
『ほぉう、早速テレパシーですか、裏鈴木賢木クン。さすが、素晴らしい能力を秘めていらっしゃる』
アキラは皮肉たっぷりに返事した。
誰にも聞かれない会話ならば、それこそ言いたい放題だ。
『ちゃんと聞け。どういうつもりか答えろ』
『……』
『答えろっつってんだよ』
『何なんだよ。お前はオレの何なんだ。偉そうな口、きいてんじゃねえよ。関係ねぇんだよ、お前になんか』
二人はそっぽ向きながら、テレパシーを交わしていた。
『はあ?何が関係ないだ。そんな言葉、それこそ十年早いんだよ。そりゃ、中身は関係ないかもしれないけど、お前、今、集団生活してるんだっけ、その辺自覚持てよ』
『頼むから放っておいてくれ。オレだって、哀しくなる時くらいはあるんだ。オレはパーフェクトなロボットじゃないんだ』
珍しいアキラの泣き言だが、それならばもう少ししおらしくしろと言いたい。そう思うから厳しい言葉をサキはぶつける。
『パーフェクトだろうとなかろうと、集団の中で自分の感情を優先させるんじゃねえよ。オレがそんなこと、今までしたことないっちゃ?』
雨がしとしと雨に変わってきた。
「今のお前は、お前らしくない!」
サキは思わず教卓を叩いて、大声を上げていた。クラスの不審気な注目に、サキは慌ててごまかしにかかった。
「あはははは……。悪い悪い。ちょっと立ち眩んで……」
こんな台詞、心臓に持病を抱えるサキだから通じる。
『そうさ、一度だってお前はしちゃいないさ』
サキが爆発したことで、アキラは少ししおらしくなった。彼女らしくない態度だ。
『でもそれは、オレがお前に強制したことじゃないし、オレは滅多に感情を表に出さないじゃないか。そりゃ、腹立って暴走することはあるけど、普段、細かいことで感情に振り回されたりはしていないはずだ。もう、これで最後だから、今日だけ、オレに有給休暇をくれよ。頼むから、今日だけ放っておいてくれ……』
『確かに、お前が感情を見せないのは認めるけど、それを交換条件にするなよ』
サキはそれだけ言うと、アキラを放っておくことに決めた。彼女が追い詰められていることは判るし、それ以上責め立てていい結果が生まれるとも思えない。
それにこれ以上黙っていると、クラス中に怪しまれてしまう。現に、ポンはさっきから、アキラの方ばかりを見ていた。
ポンにテレパシーが聞こえているわけがないとは思っていたが、勘の鋭い人間ではある。ポンは他人との付き合いにおいて、気配りのきく人間だから、何かがあるということだけはバレてしまいかねないのだ。
アキラは黙ってガムを噛み、サキは静かになったクラスを前に、ホームルームを一人で仕切り、ポンは何も知らない顔をして、クラスはそれこそ何も知らない。
表面上の付き合いが、まるで氷の上を滑る水のように涼やかに流れていた。
緊迫したホームルームの中、ちらほらと空席があった。
男女バレー部だ。今日は市の体育館で、中総体が行なわれていたのだ。
男子バレー部については、県体会の出場権を獲得する自信があった。その最大のライバルは、去年まで一緒に練習をしていた東部中学。
「先輩、去年の優勝校、東部中に潰されましたよ!」
「やったべや!うちら、東部中よりも強いっちゃ」
やる気と自信さえあれば、人間は結構実力以上の力が発揮できたりする。それに転勤族ばかりの東部中の人間と違って、農作業の手伝いをしている神森中の生徒は、基礎体力がしっかりしていた。あとの違いは、技術だけだ。
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