表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/99

第9部;九月〜初舞台〜-1

9;九月〜初舞台〜


 翌朝、空模様はひどく荒れていた。昨日の天気とはうって変わって、台風が来たわけでもないのに局地的な暴風雨に見舞われていた。

 荒れていたのは空模様だけではない。神森中学校二年五組も荒れていた。

 あろうことかその中心はアキラで、彼女の雰囲気を感じ取ってクラスの人間は勝手に騒ぎ出し、サキ一人の手に負えない状態。

 諸悪の根源は机の上に足を投げ出し、ガムを食べながら、授業中にイヤホンをカシャカシャ言わせて音楽を聴いている。

 サキはホームルームの為に黒板の前に立ちながら、全てを投げ出して逃げ出したい心境になっていた。

 この状況では、ホームルームはいつになっても始められない。

「アキラ、ホームルーム」

 呼びかけに返ってきたのは、凄味すごみの効いた視線だけ。こちらは全然悪くないのに謝りたくなってしまう。それに負けないよう、サキはもう一度声をかけた。

「アキラ……」

「……」

「は……はははっ」

 二人の間を、冷たい空気が流れた。

「ったく、いつまでもうるっせーガキどもだなっ!ちったぁサキの言うこと聞けや、スカタンどもめっっっ!」

 アキラがクラスに一喝入れたのと、外で大きな雷が鳴ったのとは、ほとんど同時だった。この二つの雷に、クラスはさすがに静まり返った。

 この学級委員長、今に始まったわけではないが自分勝手極まりない。


『アキラ、一体どういうつもりなのヮ?』

 サキはとうとうテレパシーを送った。

『ほぉう、早速テレパシーですか、裏鈴木賢木クン。さすが、素晴らしい能力を秘めていらっしゃる』

 アキラは皮肉たっぷりに返事した。

 誰にも聞かれない会話ならば、それこそ言いたい放題だ。

『ちゃんと聞け。どういうつもりか答えろ』

『……』

『答えろっつってんだよ』

『何なんだよ。お前はオレの何なんだ。偉そうな口、きいてんじゃねえよ。関係ねぇんだよ、お前になんか』

 二人はそっぽ向きながら、テレパシーを交わしていた。

『はあ?何が関係ないだ。そんな言葉、それこそ十年早いんだよ。そりゃ、中身は関係ないかもしれないけど、お前、今、集団生活してるんだっけ、その辺自覚持てよ』

『頼むから放っておいてくれ。オレだって、哀しくなる時くらいはあるんだ。オレはパーフェクトなロボットじゃないんだ』

 珍しいアキラの泣き言だが、それならばもう少ししおらしくしろと言いたい。そう思うから厳しい言葉をサキはぶつける。

『パーフェクトだろうとなかろうと、集団の中で自分の感情を優先させるんじゃねえよ。オレがそんなこと、今までしたことないっちゃ?』


 雨がしとしと雨に変わってきた。


「今のお前は、お前らしくない!」

 サキは思わず教卓を叩いて、大声を上げていた。クラスの不審気な注目に、サキは慌ててごまかしにかかった。

「あはははは……。悪い悪い。ちょっと立ちくらんで……」

 こんな台詞、心臓に持病を抱えるサキだから通じる。

『そうさ、一度だってお前はしちゃいないさ』

 サキが爆発したことで、アキラは少ししおらしくなった。彼女らしくない態度だ。

『でもそれは、オレがお前に強制したことじゃないし、オレは滅多に感情を表に出さないじゃないか。そりゃ、腹立って暴走することはあるけど、普段、細かいことで感情に振り回されたりはしていないはずだ。もう、これで最後だから、今日だけ、オレに有給休暇をくれよ。頼むから、今日だけ放っておいてくれ……』

『確かに、お前が感情を見せないのは認めるけど、それを交換条件にするなよ』

 サキはそれだけ言うと、アキラを放っておくことに決めた。彼女が追い詰められていることは判るし、それ以上責め立てていい結果が生まれるとも思えない。

 それにこれ以上黙っていると、クラス中に怪しまれてしまう。現に、ポンはさっきから、アキラの方ばかりを見ていた。

 ポンにテレパシーが聞こえているわけがないとは思っていたが、勘の鋭い人間ではある。ポンは他人との付き合いにおいて、気配りのきく人間だから、何かがあるということだけはバレてしまいかねないのだ。

 アキラは黙ってガムを噛み、サキは静かになったクラスを前に、ホームルームを一人で仕切り、ポンは何も知らない顔をして、クラスはそれこそ何も知らない。

 表面上の付き合いが、まるで氷の上を滑る水のように涼やかに流れていた。


 緊迫したホームルームの中、ちらほらと空席があった。

 男女バレー部だ。今日は市の体育館で、中総体が行なわれていたのだ。

 男子バレー部については、県体会の出場権を獲得する自信があった。その最大のライバルは、去年まで一緒に練習をしていた東部中学。

「先輩、去年の優勝校、東部中に潰されましたよ!」

「やったべや!うちら、東部中よりも強いっちゃ」

 やる気と自信さえあれば、人間は結構実力以上の力が発揮できたりする。それに転勤族ばかりの東部中の人間と違って、農作業の手伝いをしている神森中の生徒は、基礎体力がしっかりしていた。あとの違いは、技術だけだ。




↓↓↓本編先行連載している作者のブログです。是非おいで下さい。

http://blogs.yahoo.co.jp/alfraia


また、日本ブログ村とアルファポリスに参加しております。

お手数ですがバナーの1クリックをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ